今週のドクターは、 帝京大学病院 泌尿器科 主任教授 堀江 重郎先生
【略歴】
東京大学医学部卒 国立がんセンター中央病院 東京大学医学部講師、杏林大学助教授を経て
【ドクターの一言】 まず来院された患者様の不安や痛みを和らげることが医療の基本と考えています。どんな治療も患者様とよく相談して進めます。世界標準の治療を心がけ診療チーム全体が絶えず研鑽を重ねています。
「この世のものとは思えない痛み」。そんなふうに表現される痛さ。突然、脇腹や背中が激しく痛み、脂汗を流して、うずくまる!こんなことが起こる恐ろしい病気が「尿路結石」なのです。胆石、膵炎と並んで、3大激痛の病気のひとつに数えられる尿路結石。「尿路」というのは文字通り尿の通る道。つまり尿の作られる腎臓から、尿管、膀胱、そして尿道…。そのどこかに石ができてしまうのが「尿路結石」です。石と言ってもその種類は様々。このようなものが私たちの体の中で作られてしまうのです!これは内視鏡による膀胱内の映像です!こんなにたくさんの石ができることがあるんです!残念ながら石の出来る原因はまだはっきりとは分かっていません。しかし年々、尿路結石の患者さんは増えています。この増加は、動物性脂肪や動物性タンパク質の摂取量と深い関係があると考えられているのです!尿路結石の成分には様々なものがあり、特に食生活と密接に関係しているのがシュウ酸カルシウム結石やリン酸カルシウム結石などのカルシウムを成分とする結石です。尿路結石のなんと8割がこのカルシウム結石!カルシウム結石は、尿の中のカルシウムと植物に含まれているシュウ酸が結合して、結晶化したものです。本来なら、シュウ酸とカルシウムは、腸の中で結合して、便として排泄されます。しかし、肉などを食べると、腸の中で動物性脂肪やタンパク質に含まれる脂肪酸がカルシウムと結合して排出されてしまい、シュウ酸は結合する相手を失ってそのまま残ってしまいます。この残ったシュウ酸は腸で吸収され、腎臓へ行って、尿の中に排泄されます。そこで尿のカルシウムと結びついて結晶となってしまうのです。このところいわれているカルシウム不足も要因の一つです。腸でシュウ酸と結合するカルシウムが足りないと、余ったシュウ酸は尿の方へ排泄され、尿のカルシウムと結合して結石を作ってしまいます。次に「リン酸マグネシウム・アンモニウム結石」について説明しましょう。この結石は別名、感染性結石といわれ、尿路内にいる尿素分解菌という細菌の感染で作られます。尿素分解菌は本来弱酸性の尿をアルカリ性にします。アルカリ性になると、尿の中に含まれているリン酸マグネシウムアンモニウムが結晶化して結石となってしまうのです。その他、摂取する水分が足りないために結石が出来る事もあります。水分が不足すると尿の濃度が高くなり、尿の中の様々な成分が濃縮され、結晶化して結石ができるのです。三大激痛の一つと言われている尿路結石ですが実は痛みの度合いは、結石のある場所で大きく変わってきます。まずは、腎臓でできる腎臓結石。結石の多くは腎臓で発生し、尿管へと落ちていきますが…そのまま腎臓に留まっているものを、腎臓結石と呼ぶのです。これは超音波検査による腎臓の映像です。この白い点が腎臓結石。実は、腎臓に結石がある段階では、あまり痛みは感じません。そのため自覚症状が少ないのが特徴です。腎臓いっぱいの大きさになる「サンゴ状結石」ができ、腹痛や血尿がでて、ようやく気付くことさえあるのです。腎臓でできた石が尿管に落ち尿管に詰まると尿管結石と言われます。そしてこの尿管結石こそが、最も痛みを感じる結石なのです。尿管は腎臓で作られた尿を、ぜん動運動により膀胱へ送っているのですが、石が詰まるとぜん動運動がそこで止まり、尿管は痙攣してしまいます。この「痙攣」がまわりの神経を刺激するのです。これにより吐き気や冷や汗を伴う疝痛発作がおこります。「激痛」と言われる尿路結石とは、この尿管結石のことだったのです!尿管結石の痛みは数時間続きますが、ひっかかった石が膀胱へ落ちれば嘘のように治まります。石が膀胱に落ちる。これは、膀胱結石という事になります。膀胱結石には、膀胱の中で新たに作られるものもあります。尿の出方が悪くなり、膀胱に絶えず尿が残っているようだと、この結石が出来てしまうのです。この膀胱結石、たいていは痛みはあまりなく、小さなものなら尿と一緒に排出されます。ただしその石が尿道につまると大変な事になります。尿道結石は、排尿痛が起きたり、尿が出なくなる尿閉という状態になってしまうのです。日本人は腎臓結石、尿管結石が圧倒的に多く、全体の95%を占めています。尿管結石が恐ろしいのは、石が尿管につまると腎臓に負担をかけ、腎臓を駄目にしてしまうのです。また、石には雑菌が繁殖しやすく、細菌感染が起こりやすくなって、膀胱炎や尿道炎、腎孟炎といった尿路感染症を起こすこともあります。尿路結石は、腎臓や膀胱内にあれば症状はあまりでません。しかし、ある日激痛が襲うというやっかいな石なのです。
腎臓にできる結石
【食事】 尿路結石を避けたいなら、肉中心の食生活は控えたほうがよさそうです。 【飲み物】 そして意外なところでは、コーヒー、紅茶、緑茶、ココア。これらの飲み物には、シュウ酸が多く含まれています。シュウ酸を多く摂りすぎると、尿の中に多量に排出されて、尿中のカルシウムと結合し結石を作ってしまうことになります。結石を作らないためにも、飲みすぎには注意するようにしましょう! 【カルシウム】 以前は摂りすぎると結石になると考えられていましたが、今ではむしろ積極的に摂ったほうがいいといわれています。カルシウムを多く摂ると、腸の中でシュウ酸と結合し、便として排泄されますが、シュウ酸の量に比べてカルシウムが少ないとシュウ酸が残り、残ったシュウ酸が尿の中へ移動して尿の中でカルシウムと結合して結石を作ってしまうからです。 【食べ方】 絶対にやめたほうがいいこと。それは、短時間に大量に食べるいわゆる「ドカ食い」です。ドカ食いすると、体内でインシュリンというホルモンが分泌されます。このインシュリンにはカルシウムの吸収を減らす働きがあり、尿の中に多量のカルシウムが残ってしまい、結石を作ってしまう要因となるのです。 【食後】 また食事をしてすぐに寝てしまうのもよくありません。食べたものの成分が尿に排出され、さらに睡眠中は水分が補給されないため、尿の濃度が高くなって、ますます結石ができやすくなります。さらに濃度の高い尿は尿管の粘膜をむくませて石をひっかかりやすくするということにもつながります。 【アルコール】 飲みすぎも、尿路結石にはよくありません。アルコールには、シュウ酸やリン酸、糖分が含まれています。シュウ酸はもちろん、糖分は尿中へのカルシウムの排出を増加させる働きがあり、結石を作りやすくします。 【予防食】 最後にカルシウム結石の予防に効果があるものをご紹介しましょう。それはレモンやミカン、グレープフルーツなどの柑橘類の果物。柑橘類に含まれているクエン酸には尿中のカルシウム濃度を抑制してくれる働きがあるのです。