Cinemagic Cafe|キムイクの劇場散歩

毎月最終土曜日 18:30〜 放送
 

「BIUTIFUL」


2011年6月25日(土)
TOHOシネマズシャンテヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー

‘ジャケ買い’なんて言葉があるように第一印象で衝動的に購入する時がある。正に今回、この映画を観ようと思ったきっかけは、それに近しい単純な動機であった。


ジュリア・ロバーツ主演の映画「食べて、祈って、恋をして」で、私のほうがすっかり恋をしてしまったスペイン人俳優のハビエル・バルデムが主役であること、そして「ビューティフル」というハッピーな響きのタイトルに惹かれて、観よう!と決めてしまったのだ。結果…始まって二秒で間違いに気付いた。


舞台はスペインのバルセロナ。多くの日本人も観光で訪れる華やかな大都市。でも、実はバルセロナには我々が知らないもう一つの顔があり、その世界は想像を絶する差別と貧困の世界だった。そこで懸命に生きようとする人々をバルデム演じるウスバルを中心にリアルに、克明に描き出している。


ただ、監督の伝えたいテーマは、その先にある‘生命’。最後に監督自ら「父に捧げる作品」とあるように、かなり個人的な想いが詰まっているようだが、その伝え方が主人公の余命が数ヶ月しかないという、よくあるパターン。


それなのに最後まで目を離せないのは、やはりウスバルを取り巻く‘現実’を見事に織り交ぜているからではないだろうか。失業、不法滞在、酒やドラッグ…家族のために、子供達のために懸命に残された人生を生き抜こうとするが‘現実’は、そう簡単に許してくれない。


「これは天罰なのか?」と涙ながらに問うバルデムの眼力が未だに忘れられない。人は何故生かし生かされているのか。そこに意味を問うのは空しい作業なのか。死んだ後は何処へ向かうのか。‘生きる’とは何を意味するのか。答えは映画の中に、と言いたい所だが結局、答えは自分の中にしかないんだと思う。というか答えってあるのかしら。確かにテーマとしては重いが最後は何とも言えない静かな気持ちになっている。


観終った後に気付いたことだが「ビューティフル」の綴りが間違っている。それが更に切ない気持ちにさせる。通常、映画は友人と観に行くのが好きな私だが、この映画に関しては一人でじっくり観て、その後どっぷり一人で浸りたい…そんな映画でした。

TBSアナウンサー 木村郁美 
 
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