9日に一時、1ユーロ=1.2755ドルまで売り込まれたユーロ相場は、量的緩和の継続を示唆したとみられるバーナンキFRB議長の発言を受けて一気に1.32085ドルまで急騰した。市場では「オセアニア市場から東京市場へ移行する最も流動性の薄い時間帯にドル売りの動きが加速した」との声も聞かれた。
問題のバーナンキFRB議長の発言は10日、「中央銀行の100年」と題した講演を終えた後の質疑応答で飛び出した。「今は何が必要なのか」との質問に、バーナンキ議長は「インフレと雇用は一段の刺激策の必要性を示唆している」と指摘。なかでも雇用情勢については「失業率は雇用情勢を誇張している可能性がある」との見方も示した。
6月19日のFOMC後の定例記者会見でバーナンキ議長は「労働市場は著しく改善している」との認識を表明していただけに、市場は突然の豹変振りに慌てふためいた。なぜ今になってこのようなハト派的な発言をおこなったのか。考えられることは2つ。1つ目は雇用統計の数字の信頼性の問題。前回のFOMCから約3週間、いろいろな分析をするなかで、雇用統計の数字が実態を反映していないのではないかとの疑問を持つようになった可能性がある。
2つ目は、過敏な市場へのけん制。市場が9月の量的緩和の縮小開始を完全に織り込むような動きに出ているため、この反応を少し冷やそうとした可能性もある。
この発言を受けて市場では、量的緩和の縮小開始の時期が、当初予想の9月から12月に先送りされるのではとの観測が急速に広がっている。ユーロドルの急騰やドル円の急落は、そういった市場心理の反映とみるべきだろう。
米国の景気が回復してきていることは間違いない。住宅価格も前年比で1割以上、上昇しているほか、就業者の数も確実に増えている。17日と18日にはバーナンキ議長の半期金融政策報告の議会証言が上下両院で行われる予定だが、再び6月の発言に戻る可能性も否定できず、目先は波乱含みだろう。
しかし、量的緩和の縮小が取り止めになったわけではなく、時期がずれ込んだだけであれば、根底に流れるドル買いの動きは続くとみるほうか自然。日米金融政策の方向性の違いを意識した買いも引き続き出てきている。もっとも、1ドル=101円以上に円安が進むと、国内の輸出企業の円買いドル売りオーダーがまとまって出てくるとみられ、戻りも限定的となりそうだ。