豊臣秀吉の正妻である北政所が余生を送った場所として有名な高台寺。その高台寺の門前に看板を掲げる「高台寺和久傳」は全国でその名が知られる高級料亭です。そして、今やその和久傳ブランドは、室町和久傳、京都和久傳、紫野和久傳という広がりを持ち、それぞれが異なる顧客層と価格帯をターゲットにビジネスを展開しています。更に、驚くのは、その一つ一つの店にそれまでになかった新しさがあること。
例えば、京都和久傳は和食でありながらオープンキッチンを採用していて、板場の作業を見ながら客は懐石料理を楽しむことができます。東京・丸の内のおもたせの店は畳の上で商品を販売する「座売り」を取り入れていて、まるで呉服屋のような雰囲気を醸し出しています。そもそもは和食の伝統を伝える高級料亭でありながら、「人のしていないことをやる」をモットーに、常に新しさを追い求めてきたのが和久傳なのです。しかも、ただ新しいことを追いかけてきたのではありません。京料理に野趣を添えた蟹焼きは、その真骨頂ですが、他にも料亭の客間に囲炉裏をつくったり、上質な和紙を和菓子や弁当のパッケージとして使用したりと、日本の古き良きものの新たな可能性を引き出しているのです。「時が経っても良いものは良い、その本質は変わらない」と、桑村社長は話します。まさに「不易流行」こそが、和久傳の心であり、ぶれない経営戦略なのです。