赤城山麓に広がる群馬県昭和村。ここに農業の新しいスタイルを作り出した農業法人、野菜くらぶがあります。野菜くらぶは54の生産者が組織する生産者団体で、農薬の使用を控えた安全・安心な野菜づくりと独自のビジネスモデルが注目を集めています。
その野菜くらぶが取り組んだ経営改革。最大のものは独自の流通販売システムの構築です。通常、農作物は農協や市場を通じて流通しますが、野菜くらぶは自らが契約したスーパーや生協、外食チェーンに直接販売しています。また、顧客からの注文は、野菜の作付けをする前に1年分をまとめてとります。実は価格もこの段階で決定します。そうすることで、生産者は市況に左右されない安定した価格での販売が可能になります。「生産計画を組んだ段階で8割方は売れているし、生産者も高いモチベーションを持って栽培に専念できる」と澤浦社長は話します。
野菜くらぶのもう一つの経営改革は、自ら野菜の加工業に進出したこと。自社工場で野菜を加工し、こんにゃくや漬物、冷凍野菜にして販売することによって、付加価値によって生まれる利益を自らのものとしているのです。
こうして収益力を高める一方で、野菜くらぶは、年間を通じて野菜を安定供給する仕組み作りにも取り組んでいます。それは「リレー栽培」と呼ばれていて、具体体には、群馬とは標高差、気温差のある青森、静岡、島根に生産拠点を分散。レタスの場合は、冬は静岡、春以降は群馬、そして夏になると青森で栽培といったように季節に応じて生産地を変えて、収穫が途切れないようにしているのです。
日本の農業が抱える課題、後継者問題でも独自の取り組みがありました。青森県黒石市で農業法人を立ち上げた山田広治さんは野菜くらぶから独立した農家の一人。野菜くらぶには「独立支援プログラム」があり、農業を志す若者を支援しています。まずは生産農家で1年間の研修を行い、技術とノウハウを学びます。そして農業法人設立時に必要な資本金の半分を野菜くらぶが出資(半分は本人が出資)。独立後の販売ルートは野菜くらぶがバックアップするというものです。このプログラムの第一期生である山田さんの場合、1年目の売上は約2000万円、年収は360万円でしたが、今では年3000万円を売り上げています。
「稼げる農業をやっていかなければ農業は発展しない」と話す澤浦社長。若い人材をひきつけるためにも、日本の農業は収益力をつけなければとの考えです。農業の未来は、そんな経営マインド、起業家精神を持てるかどうにかかっているのかもしれません。