敵対的買収が相次ぐ昨今、企業は、さまざな防衛策を打ち出すようになっています。2006年秋の阪急グループと阪神グループの「統合」も、「村上ファンドによる阪神グループの経営支配」への対抗手段がきっかけでした。
長年のライバル同士であった阪急と阪神。100年以上にわたって激しい競争を続けてきたグループです。このふたつの大手鉄道グループが経営統合を果たし、阪急阪神ホールディングスが誕生しました。しかし、「山の手の阪急、下町の阪神」と呼ばれるほど、企業カラーやカルチャーは、全く異なっていました。しかし、「それぞれのブランド価値を大事にしており、従業員の葛藤や軋轢(あつれき)も皆無」と、角和夫社長は、この統合によるグループ内改革は順調に進んでいると胸を張ります。戦後初と言われる大手鉄道グループの経営統合は、「競争から共創へ」という新たな経営理念の下、従業員の意識改革や、新たなサービスの創出へと発展しているのです。
例えば、鉄道やバスといった都市交通事業での連携。これまでは、それぞれの駅をそれぞれの系列のバス会社がつなぎ、ネットワークが構成されていました。しかし、統合以降、「阪急の駅を阪神のバスが、阪神の駅を阪急のバスが…」といった新たな路線も生みだされ、沿線の利便性は向上しつつあります。技術的な情報交換も頻繁に行われるようになっていて、双方の現場からの提案を吸い上げ、新たなサービスが生み出されることにも、大きな期待が寄せられています。
また、阪急は「宝塚歌劇」、阪神は「タイガース」といった強力なコンテンツを持っていて、エンターテインメントの分野でも様々なサービスを企画・展開できる、といった強みもあります。こうしたコンテンツを有効活用し、コラボレーションなども含めた新たな事業展開を進めていくことによって、沿線、地域に対する付加価値やサービスは、さらに向上する可能性もあるのです。
今回の統合によって加速し始めた、大阪・梅田地区を中心とする、数々の再開発事業。「阪急らしさ、阪神らしさを残したまま、今後も沿線価値の向上を目指す」と、角社長は言います。 少子高齢化時代を迎え、変わりつつある都市・沿線開発。今後、阪急と阪神沿線は、どのようなエリアへと変貌を遂げて行くことになるのでしょうか?