米粒の上の細かな点々。拡大すると赤や青の金平糖のようにも見えますが、よく見ると歯が5枚付いています。これが「100万分の1グラムの歯車」です。小さすぎていまだに使い道がないという、この極小歯車を開発したのは、樹研工業という社員71名、年間売上げ25億円の中小企業です。
樹研工業は極小精密部品では国内トップメーカーで、その技術力の高さは世界でも有数の存在。プラスチック部品だけでなく、その金型や成形機も販売しています。現在は更に微細なナノテクノロジー分野に進出し、デジカメや携帯電話のカメラレンズなどの金型を作成しています。今後は半導体や通信、映像などの光技術、そして医療を含めたバイオ関連などへのソリューションビジネスに力を入れていく方針です。
そして、技術力もさることながら、さらに驚くべきは、松浦社長の人材育成術です。採用はなんと先着順、入社試験はありません。学歴、国籍、経験も全く問いません。そして職場環境もユニークそのもので、出勤簿はなく定年もありません。
また、従業員が部品の取り付けから組み立て、加工、検査までの全工程を担当する「セル生産方式」も大きな特徴の一つ。製造ラインに象徴される仕事の分担がなく、1人の社員が1つの仕事に全責任を持つのです。この任されている、という気持ちが社員のモチベーションを向上させ、能力を引き出しているのです。
中小企業がグローバル競争の時代を生き抜くために必要なことを松浦社長に聞くと、(1)新技術の開発 (2)品質レベルの保持 (3)財務の健全性 (4)最後は人。この4点が必要だといいます。これらは日本のモノづくりの原点のようでもあります。樹研工業はその原点を実践しているのです。
巷にメガサイズの食べ物が流行っています。でも、今日のお話はあくまでも小さいもの。しかも、「小さいにも程がある!」くらい小さい歯車です。大きさは100万分の1グラム。
歯型も5つチャンと付いていて、キチンと動きます。見た目は細かい粉にしか見えず、顕微鏡がなければその歯車の全容はわかりません。しかも、今、現在、使い道がない!!では何故こんなものを作ってしまったのでしょうか。
最初は松浦社長自身も「そこまで小さいものいらないのでは」と思っていたそうです。しかし、「どうしても作りたい。作らないと自分のプライドが許さない」という社員の熱い思いに負け、ゴーサインを出したのが始まりだそうです。放送中も、インタビューに答えていて社員の経歴や性格などを、まるで身内のことのように楽しそうにお話になっていた松浦社長。きっとこの時も息子の熱意に押された親心から、開発を許した部分もあったのではないでしょうか。
とは言え、開発にかかったお金は2億円。どうして使い道のないものにこんなにお金を使ってしまったのか、と思いきや、人生何が功を奏するか分かりません。実は、この歯車を国際見本市で紹介したところ大評判を呼び、「こんなに小さな歯車を作れる技術はすばらしい」と仕事の依頼が急増したそうです。
そんな樹研工業の喜びとは裏腹に「やられた」と思った海外の有名企業がいたそうです。そこは1000分の5グラムの歯車を、満を持して同じ見本市に持ってきたのですが、相手は更に更に小さい100万分の1グラム。しかし、その有名企業こそが樹研工業の技術力を宣伝してくれたそうです。「使い道はないけれども、面白い!」という感動がそうさせたのかもしれません。
と、ここまで樹研工業が「使い道がない小さな歯車を作った」ということばかり書いてしまいましたが、どうも松浦社長は、密かにこの歯車の様々な使い道を模索しているようです。「内容はまだ秘密」だそうですが、一体何に使われるのか?何はともあれ、今までにない使い方を考えていらっしゃることは確かですね。