中国・上海で室内最大のゴルフスクールが去年オープンしました。デサントが運営する「上海マンシング・ゴルフクラブ」です。オープンから1年余りで既に会員数は630人、その内半数が現地の中国人で、毎月50人ずつ会員が増えているという人気ぶり。料金は8回(8時間)のレッスンで1500元〜2000元(日本円で2万4千円〜3万2千円)ですが、これは中国の大卒の初任給に相当するほど高額な料金です。それだけに会員は起業家や外資系企業で働く高額所得者ばかり。中国ではこのような高額所得者が増えつつあるというのです。デサントはそこに注目し、富裕層をターゲットにしたスポーツビジネスを展開しています。
また、ゴルフスクールだけでなく、看板ブランドであるスポーツウェア「マンシングウェア」の普及にも力を注いでいます。現在、上海市内に直営店を8店舗構えていて、ポロシャツ1枚の値段は2万円台前半〜4万円台前半という高級路線を展開。ペンギンマークの偽物まで登場しているというほど人気は定着しているそうです。来年北京で開催されるオリンピック後には、さらにスポーツ人口が増えると見込んでおり、今後はマンシングウェア以外のブランド展開も図っていく予定です。
一方、日本国内では水泳の「アリーナ」やサッカーの「アンブロ」、アテネ、トリノオリンピックの公式ウェアにもなった「デサント」など21種類のブランドを展開している他、新たな取り組みとして、スポーツウェア以外の商品展開にも注力しています。例えば医療現場で使われる「ナースウェア」や高齢者用のズボン「ヒッププロテクター」、旅をテーマにした婦人服「ロワゾ」等々…、何れもスポーツウェアのノウハウを生かし、スポーツの枠を超えた商品です。更に、日本国内では健康事業もこれからの柱と位置付けられていて、現在、メタボリックシンドロームを予防する支援プログラムの開発が進められています。これは来年、企業や自治体の保険組合に、40歳以上のメタボリック予備軍を対象にした健診の実施が義務付けられるためで、デサントには新たなビジネスチャンスの到来と映っているのです。
拡大する市場と成熟した市場、デサントは今、それぞれを舞台に成長戦略を描いています。
田尻社長が伊藤忠からスポーツウェア・デサントに移ったのは、まさにデサントがアディダスとの契約を打ち切られ、売り上げが激減していた時期。社名のDESCENTを日本語に訳すとスキーの「直滑降」という意味で、社長は"上昇"を意味するASCENTにしたらどうかと思ったりもするそうです。そんなデサントですが、最近の業績は順調に回復。独自ブランドの育成にも力を入れています。
さて、そんなデサントは、今、中国に力を注いでいます。中国は、その人口の多さによるパワーも感じますが、私が毎回、感心するのは、経済発展に伴って人は同じルートを歩んで行くのだなぁということ。中国ではゴルフやスキーがブームのようですが、まだ始まったばかりなので、見ている限りは上手な人はあまりいません。日本の高度成長を彷彿させる光景です。さらに、ゴルフレッスンに来ている人たちの格好を見ると、バブル期のような「スポーツは先ず格好から入ろう」精神を感じます。
そんな中国のスポーツ市場で特に人気を集めているのがデサントのブランド「マンシングウェア」。日本でも70年代に大流行しました。経済成長をする上ではずせないブランドということでしょうか。価格は安くないんですよ。一着、日本円に換算して2万円とか4万円とかするウェアなのにとても売れています。だからなんですね、中国人観光客の人々が東京のデサントショップにたくさんいました。かつて日本人がハワイなどで買い物に酔いしれていたのと同じですね。
でも、全部が全部、日本と同じわけではないそうです。まず色。日本人はモノトーンやベージュなどを好みますが、中国ではもっと明るい色が好まれます。それから、中国の方々は「MADE IN JAPAN」製品を求めています。だから、日本で作ったものは中国へ、日本には中国で作ったものという、不思議な逆輸入が行われています。中国からきた電化製品好きな私の友人も、来日のたびに秋葉原に行くのですが、「日本製のものがない」と文句を言っています。世界の生産工場と呼ばれる中国の人もMADE IN JAPANがお好きなようです。
スポーツをやっていた人、スポーツ関連の仕事をしている人にあるあの独特なさわやかさを持ち合わせている田尻社長。6月には相談役になられるそうですが、中国そして世界中に日本ブランド「デサント」を広げていってください。