今週のドクターは、 虎ノ門病院 消化器科 池田 健次先生
【略歴】
岐阜大学医学部卒業 虎の門病院勤務
【ドクターの一言】 肝がんは、発生の予想がつくがんです。慢性肝炎や肝硬変といわれている人は、定期的な検診を怠らないようにすることが一番大切です。発がんが抑えられるような治療も少しずつ進んでいます。
これまで「健康DNA」では様々なガンを取り上げ、皆さんにご紹介してきました。そして今回、人間の体の中でも、最も大きな臓器にできるガンを取り上げます。それは「肝ガン」! 現在、肝ガンは日本国内でガンによる年間死亡者数の第4位。しかも年々増加しているのです。肝ガンに罹っても、その初期にはほとんど自覚症が無く、患者さんの大半は気がつきません。 そのため、症状が現われた時は既にガンが進行していて、手遅れ、と言うケースが少なくないのです。このように恐ろしい肝ガン。良く耳にするように、「お酒の飲みすぎ」に原因があるのでしょうか?一体何がきっかけで肝ガンは起こるのか?肝ガン発症のメカニズムから検査法、さらに最新の治療法に至るまで今日の「健康DNA」は知らない間に忍び寄る恐ろしい病気 「肝ガン」を徹底解明します! 人が生きてゆく上で大切な臓器、肝臓は本来、ご覧のように表面がツルッとして、色もきれいなあずき色をしています。しかし、ガンに蝕まれるとこんな形に変わってしまいます。年々増加の一途を辿っている肝ガン。死亡率の高いこの病気の主な原因とは何なのでしょう?肝臓の病気を聞いて、その原因として最初にイメージされるのが、そうお酒!お酒の飲み過ぎが肝ガンの原因? ところが、実際に肝ガンを発症した人を調べてみると、実はおよそ九割の人がウイルス性肝炎から、肝ガンを発症している事が分かったのです。肝ガンの最大の原因となる肝炎。中でも肝がんにつながるウイルスがB型、C型の肝炎ウイルスです。でも、何がきっかけで肝臓にウイルスが入りこんでしまうのでしょう?実は、B型C型とも輸血を受けた事などによる血液感染が原因の多くを占めているのです。ただし、現在の日本では医療の環境が整っているため、輸血から感染する事はまずありません。では、肝炎ウイルスに感染すると肝臓に何が起きるでしょう?ウイルスによって肝臓の細胞が破壊されそのために肝炎が起こる!そう考えがちですが、実は間違い! ウイルスは細菌類よりも小さな生き物で自分達で増殖する事が出来ません。そのため肝臓に入ったウイルスは細胞の中へ中へと入りこみ、肝臓の遺伝子に自分の遺伝子をコピーさせます。つまり、肝細胞の増殖力を使って、ウィルスの数を増やすのです。 こうして大量に増えたとしても、ウイルスには肝臓の細胞そのものを破壊する力はありません。ウイルスが侵入すると、体内の免疫機能が働いて、このウイルスを攻撃します。しかし、ウイルスが肝臓の細胞深くに入りこんでいるため、肝臓の細胞もろともウイルスを攻撃してしまい、細胞そのものが壊されるのです。こうして肝臓の細胞が破壊された状態、それが肝炎なのです。肝炎の中でも、B型ウィルスが原因のB型肝炎は、そのおよそ八割が一時的な「急性肝炎」に留まり、時間の経過と共に、自然に治ってしまいます。 これに対して、C型ウイルスが原因のC型肝炎は、そのおよそ六割から8割が「慢性肝炎」に進行します。この「慢性肝炎」が進行すると、やがて次の段階へと移ります。肝臓の細胞一つ一つは、腺維細胞と呼ばれる細胞で、つながっています。肝臓の細胞が繰り返し破壊されるとこの腺維細胞が異常に増殖して肝臓その物が構造的に変化してしまう。肝臓の細胞が腺維化してしまった状態が「肝硬変」です。文字通り、肝臓が硬くなってしまいます。こうなると、肝臓は十分にその機能を果せなくなります。さらに長い期間、肝炎や肝硬変の状態が続けば、肝臓の細胞は何度もダメージをうけて変異を起しやすくなります。肝臓の細胞が変異してガン化してしまった状態、それが肝ガンなのです。ウイルス感染から「慢性肝炎」、「肝硬変」、そして肝がんへと繋がる恐ろしい流れ。お分かりになったでしょうか?このように、実際にウイルスが感染してから、ガンが発症するまでには、実は平均でおよそ二十年、最長では何と四十年もかかると言われています。また、こうした肝炎や肝ガンは初期症状が全くありません。そのため、自分が病気である事に気付かずに生活しているのです。 ガンがかなり進行して、はじめて自覚症状が現れます。それが食欲不振、全身の倦怠感、疲労感など。二十年から四十年かけて知らないうちに深く静かに進行する。それが肝ガン最大の恐ろしさなのです。また、肝ガンでもう1つ恐ろしいのが転移の危険性!肝臓には沢山の血管が張り巡らされています。ガンの細胞は、こうした血管を経由して、肝臓の中にどんどん増えていくのです。更に肝臓には一分間に8リットルと言う血液が流れています。肝ガンのガン細胞はこの血液の流れに乗って、やがて全身へと広がってしまう。今年五月、厚生労働省は調査の結果、C型肝炎に感染していると推測される人が百六十万人に達していると発表しました。時を越えて静かに潜む肝ガン。この恐ろしい病気が、我々の身近で、確実に増え続けているのです。
肝臓へのダメージを極力減らし、なおかつ確実にガンを除去する。そのために肝ガンでは色々な種類の治療法が用いられています。今、新しい治療法として、広く普及しつつあるのが「ラジオ波焼灼療法」です。ガン細胞を焼き固めるというものです。まず麻酔を施し、針を刺す部分を消毒します。ラジオ波の最も大きな特徴がこの針にあります。従来のマイクロ波よりも用いる電極の針が細いため、焼く範囲をコントロールしやすいのです。従来のマイクロ波療法やエタノール注入法では、2cm程度しかガンを壊死させられません。しかし、ラジオ波ではマイクロ波よりも焼く範囲が広く、3cmから3.5cmの範囲を焼くことができます。マイクロ波の太い針はガン細胞だけでなく、周囲の正常組織にもダメージを与えてしまいます。 しかし、細いラジオ波の針はマイクロ波よりも焼く範囲が細かくコントロール出来るので、正常な組織へのダメージが少なくてすみます。実際の治療は、超音波エコーを使ってガン細胞を確認しながら行います。ガン細胞を確実に焼くまで5分程度、ラジオ波を当てます。ラジオ波焼灼はガンの大きさにもよりますが、治療にかかる時間は20分から30分。入院時間も短くてすみます。 肝ガンで問題になるのが、転移や再発。これまではインターフェロンによる治療が中心でした。そこで今、転移や再発を抑える新しい薬が注目を集めてます。それがビタミンK2剤です。ビタミンK2剤は、本来骨粗鬆症の治療に使われている薬。私達の骨は、骨を壊す破骨細胞と骨を作る造骨細胞の働きで新陳代謝を繰り返しています。この破骨細胞と造骨細胞のバランスが崩れると、骨粗鬆症を起こしてしまいます。ビタミンK2剤は、そんな時、弱った造骨細胞の働きを助ける薬なのです。このビタミンK2剤の意外な効果が、佐賀医大の実験で分かってきました。対象となったのは、焼灼療法でガン治療を行った患者さん六十一名。そのうちの三十二名にビタミンK2剤を一日四十五ミリ服用してもらい、服用しなかった二十九名と比較してみました。 すると一年後の再発率では、ビタミンK2剤を服用したグループが、12.5%なのに対して何も服用しなかったグループは51.7%。明かにその差が現われたのです。このビタミンK2剤は、特にC型肝炎が元になった肝ガンに効果が高く、副作用も現在まで認められていません。再発率の高い肝ガン。その再発防止の有効な薬として、大きな期待が集まっています。