今週のドクターは、 山本郁夫・前田陸朗記念会 前田病院 脳神経外科 前田 達浩先生
【略歴】
杏林大学医学部卒 杏林大学脳神経外科及び高度救命救急センターにて脳腫瘍、脳卒中の外科治療に従事 カリフォルニア大学留学、杏林大学脳神経外科講師等を経て現在、前田病院副院長
【ドクターの一言】 脳出血は近年降圧剤の進歩と高血圧患者さんの治療への意識向上や確実な投薬治療により、頻度も減少してきています。血圧の管理は脳卒中、心臓病の予防や治療の基本ですから、お忘れなく! 【著書】
特に体に異常がなく、元気だったのに、ある日突然、急に頭を殴られたような、強烈な頭痛が襲う。そして、気分が悪くなり、吐き気を催す・・・。そのうち、段々ぼんやりして、大きないびきをかいて眠り出し、ついには昏睡状態に陥ってしまう・・・。これが脳出血の症状です。私たちの脳には、脳に酸素や栄養を運ぶ動脈が、無数に張り巡らされています。これは血管造影により映し出された、脳動脈の様子です。脳動脈はこのように、首にある頸動脈から、枝分かれしています。そして更に脳の動脈が枝分かれして細くなった所、直径にして、0.1〜0.5ミリの細い動脈、この動脈が破裂して出血を起こすというのが脳出血なのです。すると、出血した血液は固まって血腫という血のかたまりを作ります。この血腫が周囲の脳細胞を圧迫し、破壊することで、脳に障害を起こしてしまうのです。脳出血を引き起こしてしまう原因は急激な血圧の上昇です。これにより血管に急激な圧力がかかって血管が破れてしまいます。そのため脳出血が起こりやすいのは、仕事中にストレスがかかり血圧が急激に上昇した場合や、階段を上っている時・・・。また、暖かい部屋から寒い所へ移動した時、例えばトイレに行った時などに起こる事が多いのです。そして意外なのが食事中。食事をしている時は、実は血圧は上昇しています。そのため食事中に脳出血を起こすことは珍しくないのです。しかし本来、血管は弾力があり血液の圧力を吸収することで、血圧が上昇しても破れないようにできています。血管の壁は内側から内膜、中膜、外膜と3層で出来ていますが、その真ん中の中膜は筋肉組織で出来ています。これにより血管は伸び縮みしているのです。しかし老化により、血管が段々と硬くなります。また、血管にコレステロールが付着することで起こる動脈硬化。さらに、長年の高血圧で血管に負担をかけ続けた結果、これらのマイナス要因が重なり血管壁はもろくなり、血管は弾力を失ってしまいます。このもろくなった血管の状態で、急に血圧が上昇し、血管の壁に圧力が加わると破れてしまう、これが脳出血のメカニズムです!この脳出血は様々な症状を引き起こしますが、その症状は、出血を起こした場所により異なってきます。脳は場所ごとにその役割が異なります。そのため血腫によりダメージを受けた場所の機能が、障害を受けてしまうのです。ご覧下さい。これは脳出血を起こした脳のCT画像です。左側に白い染みのようなものがありますが、白い部分が出血を起こしている所です。この脳出血を被殻出血といいます。脳出血は、脳の中でも大部分を占める大脳でよく起こります。その大脳の中でも特に多いのが「被殻」と言うところからの出血、被殻出血です。被殻出血は、そのすぐ横にある内包という場所を圧迫します。「内包」は、手足を動かす運動神経や、手足からの感覚を伝える神経など、神経線維の集まっている重要な部分です。被殻出血はこの内包を圧迫することで、手足の麻痺を引き起こしてしまいます。この時、出血が右脳に起これば左半身に、左脳に起これば右半身にマヒや感覚がなくなるなどの症状が出るのです。脳出血で次に多いのが視床からの出血、視床出血です。視床とは、私たちの意識の中枢で、この部分が出血すると意識障害を起こしてしまいます。こちらは、視床出血のCT画像です。出血の中心はこの円の中の白い部分ですが、そのまわりにある白い部分は「脳室内出血」といい、血液が脳の隙間に溜まってしまったものです。このような内包付近に起こる脳出血は、脳出血全体の70〜80%近くを占めています。続いて多いのが皮質下出血。大脳皮質の直ぐ下に起こる出血です。割合としては、全体の5〜10%程度です。そもそも大脳は、右脳と左脳とに分けられています。左脳は論理的な考えや、言葉を話したりということに使われ、右脳は情緒、芸術的なことなど感性を司ります。脳出血を起こした場所が、左脳か右脳かによって、現れる影響は違います。出血した時は、突然の頭痛が襲い、ひどい場合は意識の低下があります。ただし頭痛は一時的に症状が軽くなり場合があり、あまり気にすることもなく、そのままにしてしまうことが多いのです。その他の症状としては、視界の右半分あるいは左半分だけが見えなくなったりすることもあります。また、ろれつが回らなくなったり、ひどい場合は口がきけなくなったりする場合もあるのです。そして最も恐ろしいのが、脳幹部に起こる脳出血、脳幹出血です。脳幹は、呼吸をコントロールし、内臓を動かす、神経の中枢があり、生命維持に大きな役割を果たしている場所です。そのため、この脳幹に出血を起こすと、すぐに死に至る可能性が高いのです。さらに1割にも満たない、稀なケースとして、小脳に出血を起こす小脳出血があります。小脳は人間が動くために欠かせない脳で、平衡感覚や左右の手足をスムーズに動かすなど、体のバランスを保つ働きをしています。そのため小脳出血は、体のバランスを崩してしまい、ふらふらして歩けないなどの症状が出てしまいます。さらにこの小脳出血は脳幹に近いため、脳幹出血と同様、脳幹を圧迫しやすく、命を落とす可能性が高い脳出血です。脳出血は出血した場所により、死にも至る恐ろしい病気なのです。
大脳の深部に起こる出血 最も頻度の高い出血で手足の麻痺が出る
脳神経や呼吸の中枢がある脳幹に起こる出血 命に関わる脳出血
降圧薬
血腫除去手術