今週のドクターは、 慈恵会医科大学 内科学講座 阪本 要一先生
【略歴】
慈恵会医科大学卒業
英国ロンドン日本クラブ診療所所長
【ドクターの一言】 肥満は生活習慣の代表です。このストレスの多い時代、生活環境や行動など二次的影響が大です。そこで、患者さんの言葉に耳を傾ける事を大切にし、癒しの医療を目標にしております。 【著書】
「肥満」。この言葉に反応したあなた。自分は太り気味・・・と自覚しているあなた。あなたのような方は、日本に2300万人もいるのです!「肥満」は、体のあちらこちらに影響を及ぼします。膝や腰の痛み、さらには、糖尿病、高血圧、高脂血症などなどいろいろな病気の原因を作ってしまうのです。そんなに太っているわけではないのに、肥満が原因で病気をかかえやすい体になってしまう。それが、日本人に多い「ハイリスク肥満」。決して太りたいわけじゃない!しかし、脂肪細胞はどんどん脂肪を蓄える。ちょっと太ってはいるけれど、体は丈夫!と胸をはっているヒトは多いもの。世界の中でも、日本人は特に太りやすくやせにくい。その原因は…?倹約遺伝子。倹約遺伝子とは、普通の遺伝子が突然変異を起こして「省エネ型」になったもの。いったいなぜこのような遺伝子が生まれたのでしょうか?その昔、人類の課題は、「食べもの」を確保することでした。常に「飢え」に備えておくことも必要です。そこで体の中では、摂取したエネルギーは最大限に吸収して消費するエネルギーは最小限に抑えようという工夫がなされました。そのために生まれたのが「倹約遺伝子」。厳しい環境を生き抜くために生存本能が生んだ遺伝子なのです。日本人には、この倹約遺伝子が多いことがわかっています。つまりエネルギーを溜め込みやすい体質なのです。では、代表的な倹約遺伝子は、脂肪細胞にある「β3‐アドレナリン受容体」が変異したもの。私たちの体の「脂肪」は、脂肪細胞が集まってできていますが、ここには、使われないで余ったエネルギーが中性脂肪というかたちで溜め込まれます。これがのちのち「肥満」の原因となるわけです。脂肪細胞というのは、とても柔軟な構造をしていて、溜め込まれた中性脂肪が増えると大きくなり減ると小さくなります。つまり、エネルギーが使われずに余った分が中性脂肪として脂肪細胞に溜め込まれると、一つ一つの脂肪細胞が大きくなって「肥満」という結果につながるのです。「β3−アドレナリン受容体」は、脂肪細胞の表面についているのですが、刺激を受けると、エネルギーを作るために、蓄えられた中性脂肪を分解します。つまり、この「βアドレナリン受容体」というのは、体を痩せさせてくれる、貴重な受容体なのです。ところが、突然変異して倹約遺伝子となってしまった「β3アドレナリン受容体」は、そう簡単にはエネルギーを作ろうとはしません。ですから、脂肪細胞の中には中性脂肪が好きなだけ溜め込まれていきます。つまり、どんどん太ってしまうのです。さらに京都府立医科大学の吉田俊秀教授は、この倹約遺伝子をもっている人は、安静時に消費される基礎代謝のカロリーが 平均より200キロカロリーも少ないことを突き止めました。肥満を判断する基準は、ボディ・マス・インデックス BMI という数値で表します。体重(kg)÷身長の二乗(m)、これが BMI の出し方。25以上は「肥満」です。身長165センチ、体重70キロのヒトのBMIは25.7。すでに「肥満」ということになります。実は、BMI25を肥満の基準にしているのは日本だけ。WHOでは、肥満はBMI30以上としているのです。日本だけ肥満のハードルが高いのは、ものすごーく太っているわけでなくても、糖尿病・高血圧・高脂血症・動脈硬化を抱えてしまう、死へとつながるハイリスクな肥満。それが、日本人の肥満の特徴なのです。これは、肥満による病気が発症した数をBMI別に表したグラフ。BMI25を超えると、発症した病気の数がグングン増えています。つまり、日本の肥満の基準であるBMI25というのは、病気にかかりやすくなる数値だったのです。太りやすい上に、ちょっと太ると病気にかかりやすくなる日本人。「肥満」の中にハイリスクをかかえる日本人の体質の中にはもう一つ肥満に弱い理由がありました。関係していたのは、インスリン。ご存知のように、すい臓から分泌されて血糖値を下げる働きをするのがインスリンというホルモンです。このインスリン、細胞のインスリン受容体に働きかけて、血液中のブドウ糖を細胞の中に取り込む、いわばスイッチのような役割をしています。もし、スイッチの役割がうまくできていないと、ブドウ糖を細胞にとりこむことはできなくなります。この状態を引き起こす犯人が、肥満!!これをインスリン抵抗性といいます。こうなると血液の中にあるブドウ糖が増加する、いわゆる高血糖の状態となり、すい臓はインスリンの量を増やしてなんとか対処しようとします。そして! なんと日本人はすい臓が弱い、という悲しい現実が!やがてすい臓が悲鳴をあげてインスリンを分泌しなくなってしまうのです。こうして糖尿病が引き起こされます。「ハイリスク」の肥満をかかえる日本人。すい臓も弱い日本人。ほんの少しの肥満でも、あなたを病気に近づけます!
太る→インスリンの効きが悪くなる→ 血糖値が増加→インスリンが増加 悪循環