今週のドクターは、 国際医療福祉大学付属 熱海病院 内科 川口 実先生
【略歴】
東京医科大学卒業
【ドクターの一言】 構造改革では医療の世界でも「痛み」を伴います。医療費の自己負担は確実に増えます。真の病気の人、家族の痛みは大変です。病気にならないように注意して、ストレスをためない事が基本です。 【著書】
食道…あなたが食べた物を、胃に送るための大切な管。この食道があるからこそ、私達は食べたり飲んだりすることができるのです。この「食べものの通り道」に悪性の腫瘍ができるのが「食道がん」。これは、内視鏡で見た食道の写真です。白く膿のように映っているのが、食道がんです。健康な食道は、ピンク色の血管が縦に見えますが食道にがんができると、血管は見えず、通り道が塞がって、食べ物や飲み物が通りにくくなってしまいます。食道は、長さおよそ25cm、太さ2〜3cmの臓器。口から入った食べ物を胃に送る管の役割をしています。内視鏡で、食道の中をのぞいてみましょう!のどのあたりを過ぎて・・・胸のあたりを通過・・・そしてここが、食道と胃の境目、噴門、ここから先が胃になるので、食道はここまでです。食道は、筋肉で出来ています。この筋肉が収縮して蠕動運動を起こし、食べ物を胃に送っているのです。筋肉の内側は、食べ物が通りやすいように粘膜で覆われ、6つの層から成っています。食道がんは、一番内側にある粘膜の細胞「扁平上皮細胞(へんぺいじょうひさいぼう)」に、何らかの刺激で傷がつき、遺伝子に突然変異が起こることで発生します。そして、がん細胞が増えるにしたがって、粘膜の奥へと広がっていくのです。喉につながる「頸部食道」、胃につながる「腹部食道」、そしてその間の「胸部食道」の3つにわけられるわたしたちの食道。食道がん全体の半分以上が、真ん中「胸部食道」で発症しています。食道がんは、ごく初期には、ほとんど症状がありません。そのため、粘膜層にとどまっているような早期のがんは、発見が難しいのです。がんが進行して、食道の壁をつくる筋層にまで入りこんでくると、食道が塞がれて狭くなるため、食べ物が喉に「つかえる」ようになります。自覚症状が現れるのは、この頃。最初は、硬い食べ物を飲み込んだときに、喉のつかえを感じますが、そのうちやわらかなものでも、だんだんつかえるようになります。また、熱い物を飲んだ時に、「しみる」ような感じがします。食べものがつかえたり、しみるようになるとかなり進行している状態です。さらに、がんが進行すると、食道の壁を突き破り、大動脈・心臓・肺など、食道のまわりの臓器に転移します。進行すると、食道が完全に塞がり、食べ物はもちろん、飲み物や唾液さえも飲み込めなくなります。また、がんが食道のそばにある声を調整する神経、反回神経を圧迫すると、声がかすれるといった症状がでてきます。早期発見がむずかしく、しかも進行が早い。食道がんは本当に「恐ろしいがん」なのです。食道の、がんではない「ほかの病気」を放っておいて、食道がんになってしまうという場合もあります。その一つが、「逆流性食道炎」。最近増加傾向にある病気なんです。食道には、胃から食べ物や胃液が逆流しないような仕組みが備わっています。逆流性食道炎は、何らかの理由でその仕組みがうまく働かず、胃液などが食道に逆流して、食道の粘膜が赤く炎症を起こす病気です。胃液には、強い酸をもった胃酸がたくさん含まれています。胃の壁には、胃酸の刺激から身を守る仕組みが備わっていますが、食道の粘膜はその仕組みがなく、逆流してきた胃酸で粘膜が傷ついてしまうのです。逆流性食道炎の特徴は、なんといっても強い胸やけを起こすこと。噴門機能が低下する高齢者、肥満の人に多くみられます。太っていると、脂肪によって腹圧がかかり、胃の内容物が食道へと押し上げられてしまうのです。この逆流性食道炎を放っておくと、なんと食道がんを発生する確率が40倍も高まるといいます。逆流性食道炎から発症するがんは、通常の扁平上皮がんと異なり、「腺がん」と呼ばれるもの。今まで、腺がんは日本人に少なく、欧米人に多いといわれてきました。しかし、今後この食道がんが増えるといわれています。放っておくと食道がんになってしまう病気。もうひとつは「アカラシア」。食べものや飲み物がスムーズに通らなくて、なんだか胸につかえる・・・なんていう方は要注意。食道には、下部食道括約部があり、これが緩むことで、食べ物や飲み物を胃に送っています。ところがアカラシアは、この下部食道括約部を開かせる神経に異常をきたし、一時的に痙攣を起こして、開かなくなる病気なのです。20代や30代の若い人に多く発症し、10年以上放っておくと、食道がんになる割合が高くなるので注意が必要です。ところで、食道がんは、圧倒的に男性に多く発症します。なんと男性は、女性のおよそ6〜7倍も多く食道がんになると言われるほど。年代別で見ると、50歳代から急速に増え始め、60歳代が発症のピークとなっています。これはいったいなぜなんでしょうか?食道がんの原因は、まだ明らかではありませんが、危険因子としては、「強いアルコールを好む」、「熱い食べ物や辛い食べ物を好む」、「毎日20本以上のタバコを吸う」・・・などが挙げられます。 つまり慢性の刺激が誘因の一つと考えられています。また、国立がんセンターなどによる最新の研究では、なんと「お酒に弱い人は、食道がんになりやすい」ことが判明したのです!お酒をのむと、顔色が赤くなる人と、まったく変わらない人がいますよね。あなたはどちらのタイプですか?お酒をのんで赤くなる人は、変わらない人に比べて毎日1.5合以下の飲酒量で6倍!1.5〜3合程度だと、驚くべきことに61.2倍も、食道がんになりやすいことがわかったのです!顔が赤くなるかならないかは、アルコールを分解する酵素の数で決まります。お酒を飲んでも顔色が変わらない人は、一般にアルコール分解酵素が多く、体内からアルコールが早く消えるので細胞に障害が起こりません。ところが、飲むと顔が赤くなる人は酵素の数が少なく、アルコールが体内に停滞して、細胞に障害を起こしやすくなるのですちなみに毎日に3合以上お酒を飲む習慣のある人は食道がんになるリスクが92.7倍にはねあがるといいます。飲みすぎにはくれぐれも注意してくださいね!食道がんは、自覚症状が少なく、早期発見が難しいく、転移の早い恐ろしいがんなのです。
【その1】 お酒を飲みすぎないこと!お酒を飲むと、アルコールの刺激によって食道の粘膜に傷がつき、粘膜に炎症が起こります。これを放っておくと、食道がんになるおそれがあるのです。 【その2】 脂っぽいものを食べ過ぎないこと! 脂ものの摂りすぎには十分注意しましょう。とくに飲酒と喫煙、ふたつの習慣がある人は要注意!国立がんセンターの調べでは、食道がん患者の実に75%が飲酒と喫煙の習慣があったといいます。お酒とたばこ・・・少し減らす気になりましたか? 【その3】 体重を減らすこと!太っていると、腹圧が高まります。その圧力で、胃の内容物が食道の方に逆流して押し上げられてしまいます。太っている人は、運動をして体重を減らすようにしましょう。 【その4】 長時間前かがみの姿勢をとらないこと!そしてさらに、逆流性食道炎を誘発する意外な原因が!それは、普段何気なくとっている姿勢。パソコンを長時間打ったり、風呂掃除などをするときなど、前かがみになることは意外に多いものです。この姿勢は、腹圧がかかり、胃から食道への逆流を起こしやすくなるのです。 2時間に一回は休憩を入れましょう。そして、寝るときの姿勢に気をつけるのも大切! 【その5】 寝るときに上半身を高く、そして右を下にする! 寝るときに、胃よりも食道を高くすると胃液が逆流しにくくなります。首だけでなく、食道に傾斜がつく姿勢で横になりましょう。さらに、できるだけ右側をむいて寝るのもコツ。胃の出口は、身体の真ん中より、やや右側にあって食べたものは胃の出口付近にたまっています。そこで、体の右側を下にして寝れば、胃液が十二指腸に流れるので、逆流を防ぐことができるのです。でした。 【大切なこと】 日常生活に気をつけることも大切ですが、食道がんの予防で、一番大切な事は「内視鏡検査を受けること」。これに尽きるかもしれません。このがんは、自覚症状があまりなく進行するため、一年に一回は検査を受けることをお勧めします。特に、50歳以上の男性で、飲酒や喫煙の習慣がある人、胸焼けやつかえ感を感じる人は、受診するようにしましょう。