今週のドクターは、 北里研究所病院 臨床環境医学 センター長 石川 哲先生
【略歴】
東北大学医学部医学科卒業
同大学名誉教授就任 北里研究所臨床環境医学センター長就任 現在に至る
【ドクターの一言】 化学物質が氾濫する現代、微量物質に反応する人達が増加している。自律神経系を中心の症状が現れやすい。更に一般の医学的検査では、証明しにくい化学物質過敏症についてどうしたらよいかを解説する。
あなたの家の中をちょっと見渡してみて下さい。テーブルなどの家具があると思いますが、この合板を接着するのに使われている化学物質の中に、ホルマリンの素である、有害な「ホルムアルデヒド」があります。また、壁紙の塗料には、シンナーの成分である「トルエン」。また、殺虫剤や防虫剤などに含まれる「有機リン剤」。水道水からは、発ガン物質との疑いが問題視されている「トリハロメタン」や、「塩素」。他にも、風呂場の掃除などに使う、カビ取り剤や、合成洗剤・・・。そうです、私たちのまわりは、化学物質であふれているのです。私たちは、日々呼吸をする事で、化学物質をたくさん、取り込んでいます。一日に身体に入ってくる空気の量は、実に15〜20キロ。その空気と共に、体内に少しずつ化学物質が溜まっていくのです。例えば、体内に化学物質を取り込む、コップがあるとしましょう。この中に水という化学物質が徐々に、溜まっていきます。この水があふれると、ある日突然様々な症状が現れるのです。それが「化学物質過敏症」です。そして、体に入った化学物質は、3つの経路により、全身に行き渡ります。まず1つ目の経路は、肺から直接血液に溶け込み、身体中を巡り、中枢神経にまで到達するケース。この場合、頭痛や筋肉痛が起こります。2つ目の経路は、喉や気管などの粘膜に化学物質が直接触れて、刺激します。そのため、喉の痛みや微熱といった症状が出ます。そして3つ目は、匂いの神経である嗅神経を伝わり、直接化学物質が脳まで届くケース。こうなると、物忘れがひどくなったり、精神不安定になります。え、じゃあ、近頃、話題になっている「シックハウス症候群」とは違うの?と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、実は、違うのです。確かにシックハウス症候群も、家の中の化学物質に反応したことで起こります。症状は、頭痛や喉の痛みなど、化学物質過敏症と非常によく似ています。ところが、シックハウス症候群は、原因物質を離れれば、症状が完全に消えてしまいます。例えば、シックハウス症候群は、合板などに使われている、ホルムアルデヒドという、1つの物質にしか反応をしません。ところが、化学物質過敏症は、あらゆる化学物質に、反応してしまうのです。そのため、家や建物を離れても、症状が改善しません。では、どのように化学物質過敏症は、発症するのでしょうか?大きく分けて3つの段階で、症状は進行します。身体が最初に、化学物質に接触した状態が、「警告期」です。化学物質との接触により、血圧の低下や精神状態が不安定になります。そして、次の段階の症状は・・・。長期間に渡って化学物質にさらされている、時期が「マスキング期」です。一見、原因である家を離れれば、症状が良くなるように感じますが、実はコップに水が溜まっている、状態です。この時期を「器官衰退期」と言います。身体の中に溜まった化学物質があふれ、あらゆる物に反応するようになります。そして、様々な症状が現れるのです。患者が化学物質過敏症らしいと気づくのは、この時期です。しかし、同じ化学物質を同じ量を吸い込んだとしても、すべての人が、同じ症状を訴えるわけでは、ありません。そのため、化学物質過敏症の症状は、多岐に渡ります。診断基準となっているものとして・・・。主な症状では、1日に何回も頭痛が起きる。または長く続く。筋肉痛がある。または、筋肉の不快感がある。倦怠感や疲労感がずっと続く。そして、関節痛がある。という4つの症状です。また副症状としては・・・。喉の痛み、微熱、下痢、腹痛、便秘、集中力・思考力の低下、物忘れ、精神不安定、不眠・・・。などの症状があります。現在、この潜在患者は多く、推定で10人に1人は、発症している疑いがあるというのです。特に、女性は要注意。北里大学病院の調査では、女性が7割以上を占め、しかも全ての年代で多いことが分かっています。その要因としては、女性の方が自宅にいる時間が長い。室内の空気汚染の被害を受けやすい。子供を産む女性の方が、危険な環境に敏感に反応することなどが考えられています。では、なぜ化学物質過敏症は、起こるのでしょうか?残念ながら、そのメカニズムは、まだ解明されていません。化学物質過敏症にかかると、他の人の化粧や石鹸、シャンプーの匂いなどでも反応してしまいます。今や、私たちの生活の中から化学物質は消え去ることはありません。その代償として、今後化学物質過敏症は、増加の一途を辿ると思われます。
(サプリメント療法)
(温熱浄化療法)
(環境改善療法)
例えば、壁や畳の建築用材。これには、観葉植物を置く事が効果的です。アメリカ、NASAのデータによると、6畳の部屋に観葉植物2鉢を1日置くだけで、ホルムアルデヒドを始め室内の有害物質が、70%減ったという報告があります。観葉植物には、汚染物質を吸着する作用があるのです。 もちろん、こまめに換気するのも効果的です。12畳の部屋を20分換気しただけで、1日分のホルムアルデヒドが、0になります。特に、新築の家に引っ越す場合は、換気を十分にする事が大切です。新鮮な空気を室内に入れましょう。 その他、備長炭や竹炭を利用するのも効果があります。備長炭を電子顕微鏡で拡大してみると、この通り!この細かい隙間に住み着いている微生物が、有害物質を取り込んで、無害な物質に変化させてくれます。トイレなど、気密性が高いところなどで、使用してみましょう。 さらに、見落とされがちなのが、衣服です。繊維類は、化学物質を吸着する性質があるため、要注意です。買ったばかりの服や、ドライクリーニングから返ってきた洋服は、一度陰干しするか、必ず洗濯をしてから、着るようにしましょう。 また、飲料水や風呂、シャワーにも注意が必要です。お湯やお風呂をわかした後は、ふたをとって、有害なトリハロメタンを蒸発させるようにしましょう。備長炭や竹炭を入れて沸かすのも、一つの方法といえるでしょう。