今週のドクターは、 赤須医院 内科 赤須 文人先生
【略歴】
信州大学医学部卒業 トロント大学ウェーレスリー病院 日赤医療センター内科副部長を経て
医療法人社団 赤須医院理事長 山梨大学医学部第三内科・非常勤講師併任
【ドクターの一言】 甲状腺の病気を専門にみている内科医として、月並みな言葉ですが患者さんの不安の解消、わかりやすい説明をモットーに診療しています。 【著書】
最近、どうも身体がだるい・・ときには、階段を上るだけで、動悸がする。そして!わけもなく気分がイライラする。そんな経験ありませんか?おまけに、ダイエットをしたわけじゃないのに、体重が減ってきた! しめしめ・・なんて喜んでいる場合ではありません。それは、もしかしたら『甲状腺の病気』かもしれないのです!症状が他の病気と似ているために、見逃される事が多いのです。なんと、現在、日本で甲状腺の病気にかかっている人は、推定500万人。糖尿病の患者と同じくらい多いといわれているのです。甲状腺とはどんな臓器なのか、ご存知ですか?その形は、まるで蝶が羽を広げたよう。重さはおよそ18グラム。首の前、喉仏の下にあります。普通なら皮膚の上から触ってもわからない甲状腺。しかし、この小さな臓器が、大切な甲状腺ホルモンの大元となっているのです。『甲状腺ホルモン』は、たんぱく質・・・炭水化物・・・そして、脂質の三大栄養素は、私達が生きるためのエネルギーを作り出しています。この三大栄養素をエネルギーに変える役割をしているのが、ほかならぬ甲状腺ホルモンなのです。そして、もう一つ、甲状腺ホルモンは成長や発育の促進をも助けています。例えば、おたまじゃくしの成長を促すのも甲状腺ホルモンの働き。つまり、「甲状腺ホルモン」は、私達の生命活動にとても重要なホルモンなのです。その甲状腺ホルモンの量を調節しているのが、脳下垂体です。血液中の甲状腺ホルモンが足りなくなると、脳下垂体は、甲状腺刺激ホルモン、「TSH」を分泌し甲状腺に働きかけます。甲状腺はただちに、必要なだけのホルモンを分泌します。このおかげで、血液中の甲状腺ホルモンの量は常に一定に保たれているのです。もし、このホルモンの分泌が多過ぎたり、少なすぎたりすると、私達の身体はどんな影響を受けるのでしょうか。代表的なのは、『甲状腺機能亢進症』。その9割が『バセドウ病』と呼ばれるものです。通常、甲状腺ホルモンは、甲状腺刺激ホルモン、「TSH」によって、必要なだけバランス良く分泌されます。ところが、バセドウ病では甲状腺刺激ホルモン、「TSH」に良く似た働きをする『TSH受容体抗体』が体の中で作られてしまいます。甲状腺はTSH,TSH受容体抗体、2つの刺激を受けて、働くことになります。その結果、必要以上に甲状腺ホルモンが作られ、分泌されます。すると、新陳代謝が異常に活発になり、まるで車が空ぶかしするように常にエネルギーが燃焼され続けるのです。そのため食欲があってたくさん食べていても、ちっとも太らず、むしろやせてきます。心臓も、必要以上に働かされ、負担が増してきます。これは、走っているのと同じ状態で甲状腺ホルモンが過剰に作られると体が常に走っている状態になります。そのため安静にしていても、動悸や頻脈が起こり、脈拍数が100以上になることも珍しくありません。バセドウ病の特徴的な症状『眼球の突出』。しかし、この症状が出るのは、ほんの2〜3割。その原因は、眼球の裏側にある筋肉や脂肪組織が炎症をおこすために、眼球が前に押し出されてくるのです。また、一見眼球が突出しているように見えても、実は交感神経が興奮状態のため、ちょうど驚いて目を見開いた状態であり、必ずしも眼球が出ているわけでは無いのです。また、イライラや興奮など、精神的な症状から、躁鬱病に間違えられることもあります。さて続いての代表的な「甲状腺の病気」は『甲状腺機能低下症』。これは先ほどと反対。甲状腺ホルモンの不足から起こる病気です。1912年に日本の橋本策(はかる)博士が発表した『橋本病』に代表されます。この病気は、甲状腺に対して直接、攻撃する自己抗体であるサイグロブロブリン抗体、マイクロゾーム抗体が体の中でつくられてしまい、それらがリンパ球とともに、甲状腺を攻撃するため、甲状腺に炎症がおこってしまうのです。そして、甲状腺の組織がある程度まで破壊されると、次第に必要量の甲状腺ホルモンが分泌されなくなり、甲状腺機能低下症になるのです。病気の進行はとてもゆっくり。症状が進むと、疲れやすくなったり、元気がなくなったりしてやがて精神的にも落ち込んできます。ゆっくりと進行するため、老化と勘違いしやすく、なかなか甲状腺の病気だと気付きません。甲状腺機能低下症は、亢進症とは逆に心拍数の低下が起こります、さらに、代謝が悪くなることで、水分を身体の中に溜めやすくなり、むくみが現れます。その他にも、そんなに食べていないのに体重が増えることもあります。これらは、腎臓病・肝臓病・心臓病などと間違えられやすい症状です。そして、甲状腺機能低下症は、脳の働きにも影響を及ぼしていることがわかってきました。ヒトの顔と名前が一致しない。物忘れがひどくなった、など、記憶力が低下する症状。これを年のせい、と思っている方が多いですが、実は甲状腺の機能低下である場合が原因かもしれません。高齢であればあるほど、すべてを歳のせいにされて甲状腺機能低下症の診断がおくれてしまう。調べればすぐにわかる、甲状腺ホルモンの異常。あなたがもし、原因不明の症状に悩んでいるのなら、いろいろな可能性を考えたほうがよさそうです。
問診・触診
バセドウ病と診断された場合
抗甲状腺薬で甲状腺の働きを抑える
アイソトープ治療
爪の伸びが早いのは、代謝がよすぎるからかもしれません。代謝がよすぎるということは、甲状腺ホルモンの分泌が多すぎるということ。そう、甲状腺機能抗進症の一つ、バセドウ病の可能性があります。甲状腺ホルモンの分泌が多すぎて細胞の生まれ変わりがはやまるため、髪が抜けかわり、爪が早くのびるのです。 甲状腺の異常による首の腫れは、自分ではなかなか気がつかないもの。洋服を着ようと思った時に、ブラウスの第一ボタンがきつくて、とめられない。それは太ったのではなく、甲状腺の病気による首の腫れかもしれないのです。そして気をつけてほしいのは、出産直後の女性。出産後数ヶ月してから、甲状腺の働きに異常がおこり、甲状腺ホルモンが増えすぎたり、少なくなってしまったりすることがあります。そのため、身体がだるくなったりするのです。昔から、『産後の肥立ちが悪い』ということがありますが、実は『産後甲状腺機能異常症』という病気が原因であることがわかってきています。