今週のドクターは、 慶應義塾大学医学部 外科学教室 川村 雅文先生
【略歴】
【ドクターの一言】 肺がんに勝つには予防と早期発見に尽きます。予防法はタバコを吸う人には禁煙、吸わない人には分煙(受動喫煙の防止)です。早期発見には喀痰細胞診とCT検診が重要です。
皆さん、世界で最も患者数が多いがんをご存知ですか?それは胃がんでも肝臓がんでもありません。実は肺がんなんです。日本でも男性のがんの死亡率第1位は肺がん。 女性も第3位と上位にあります。肺がんはがんの中でも、特に進行が早いがんなのです。しかも肺がんは、初期に自覚症状があまりないことから、発見が遅れがちになります。そのため気づいた時は、かなり進行しているケースがよくあり、手遅れになってしまう場合が多いのです。このように、がんの中でも怖い肺がん。 その肺がんと関連付けられるのが、そうです、タバコです。たばこの主な有害物質は、大きく分けて3つあります。まず1つ目の有害物質は、一酸化炭素です。たばこを吸うと、一酸化炭素は、肺に入り、そして肺から血液中に取りこまれます。元来、酸素は血中のヘモグロビンと結びつき、体の中の筋肉や脳へと送られ、使われます。ところがこの一酸化炭素は酸素よりも血中のヘモグロビンと結びつきやすい性質があります。結果として、血液中の酸素量を減らしてしまうのです。そのため体に必要な酸素が足りなくなってしまい、慢性的な酸欠状態になってしまいます。 こうなると少し動いただけで、動悸・息切れが起きやすくなるのです。たばこの有害物質の2つ目がニコチンです。ニコチンは中毒性を持っています。タバコがやめられなくなるのはこの ニコチン中毒が主な原因です。またニコチンの摂取により、血管が収縮し、血流を滞らせます。それだけではありません。さらにニコチンは、血管に悪影響を及ぼします。 ニコチンは血管の内壁壁を壊し、動脈硬化の原因を作ってしまうのです。そしてもう1つの有害物質が、タールです。 タールとは、粒子の形をした物質の総称。たばこの煙には4000種類という、かなり多い種類の化学物質、タールを含んでいるのです。タールと肺がんの関係は、まだはっきりとは分かっていません。ただし、長年の喫煙習慣で、肺がタールにさらされると、肺の細胞が傷つき変成してしまいます。この傷ついた細胞が増えてがんになっていくのです。 また、タールが細胞を傷つけ、その細胞が変質してがん細胞に変化するとも言われています。実際に肺がんの死亡者数の調査によると、いつもたばこを吸う人は、たばこを吸わない人に比べて男性で 4、5倍。女性では2、3倍になります。肺がんは発生する場所によって、症状なども変わってきます。肺の入り口近く太い気管支の部分、肺門部に出きるがんは中心型肺がんと呼びます。中心型肺がんの症状としては、激しい咳。 そして血痰などが特徴です。また、レントゲン写真を撮ってみても、心臓に隠れて発見できないことがあります。気管支から肺の中枢部分は、煙に強くさらされるため、特にタバコとの関係が深いがんなのです。この中心型肺がんで多いのが、扁平上皮がんです。 扁平上皮とは皮膚や粘膜など体の表面を覆っている組織です。この扁平上皮に似た細胞から出来ているのが扁平上皮がんです。このように、細胞を比較してみても、見た目には変わりません。また小細胞がんという中心型肺がんもあります。 このがんは、まわりの細胞とは全く違います。この小細胞がんは悪性のがんで、進行が早く、転移も起こりやすいというやっかいながんです。また中心型肺がんと違い、肺の末端にできるのが末梢型肺がんです。 枝分かれした細い気管支や、その先にある肺胞にできるがんなのです。末梢方型肺がんは早期では、ほとんど自覚症状がありません。この末梢型肺がんで一番多いのが、腺がんです。実は肺がんのおよそ5割を占めているのが、この腺がんです。年齢としては、70代から増え始めます。腺がんはたばこを吸う、吸わないは関係なく発症します。未だタバコと肺がんの関係は、完全に解明されたわけではありません。しかし、大きな影響があることは、間違いありません。
中心型肺がん
X線でがんを映し出す
がん組織を取り出しがんの種類を特定する
胸腔鏡や胸部切開でがん細胞を摘出する
PDT(光線力学的療法)
こうした禁煙外来を訪れた時にはまず問診表に記入して行きます。例えば、起きてから何分後に、最初の一服を吸いますか?1日に吸う本数は?など タバコがなかなかやめられない人は、大きく二つのタイプに分かれます。ひとつが心理的依存。これはニコチンによる常習性はあまり強くなく、比較的に禁煙が成功しやすい方です。 朝起きてから、5分以内にたばこを吸う人は、ニコチン依存度がかなり高いといえます。 このように問診表に基づき、診察は続けられます。実際に禁煙に挑戦したときに励みになるものも必要です。それがこちらスモーカライザーというもの。 実は体内の一酸化炭素を測定する機械です。早速測ってみます。 数値が高ければ高いほど、よくありません。 ちなみにこの方の数値は29PPmとかなり高い数字が出ました。通常たばこを吸わない人は、4〜6PPmですから、 5倍ほど多い数値です。こうした目に見える数値の変化が禁煙していくなかで励みになるそうです。 では実際に禁煙に成功した人は、 どんな工夫をしていたのでしょうか? 先生に伺いました。 成功例【その1】 たばこが吸いたくなったら、歯磨きをしてごまかす。 【その2】 たばこが吸いたくなったら、水を飲んでごまかす。 【その3】 ガムやキャンデーなどタバコの代わりになる物を口に含むのが有効です。 【その4】 ちょっと以外ですが、効果的なのが氷です。 氷は口に入れてからなくなるまで時間もかかりますしカロリーも無い。作るのも簡単です。 禁煙がなかなか成功しないのがニコチン依存の人。ニコチンを摂取しないと 落ち着つきません。 これが禁煙の強い味方となるのが、ニコチンパッチ。これは肌から微量のニコチンを少しずつ摂取する事で、禁煙のイライラを抑えるものです。毎朝、お腹や腕、背中などに張ります。これを毎朝1枚貼っていきます。そして2週間ごとに段々サイズを小さくしていき、ニコチンを摂取する量を減らしていきます。2ヶ月ほどでニコチンは完全に抜けます。