今週のドクターは、 駿河台日本大学病院 内科 小橋 恵津先生
【略歴】
【ドクターの一言】 食中毒の予防で大切なのはまず手洗いです。そして保存、調理方法に気をつけましょう。冷蔵庫を過信しすぎずに!発熱や腹痛を伴う下痢、老人や子供の場合はすぐに病院へ行きましょう。 【著書】
食事をしてからしばらくしてから、急にお腹が痛たたたッ‥。そういえば悪いものを食べちゃったかな?と思い当たるフシもある。そんな時はもしかして、食中毒に罹ってしまったのかも?梅雨から秋口にかけては、温度・湿度の関係で最も細菌が繁殖しやすい時期。ならば食中毒には細かい注意が必要!食中毒の元になる細菌は8種類があるんです!特に、食生活が豊かになった近年は、牛や豚、にわとりなどの食肉から発生する「サルモネラ」による食中毒が増えています。「食中毒」。その原因となるの細菌の感染ルートは大きく3つに分けられます。細菌そのものが口から入る「感染侵入型」。近年増加する「サルモネラ」もその1つ。牛・豚・鶏などの食肉が主な原因です。中でも近年、卵が原因の「サルモネラ」による食中毒が増えています。「サルモネラ」に感染した卵を生で食べると食中毒の元。もっとも「サルモネラ」は熱に弱く、加熱調理で殺菌可能。目玉焼きなら、7分過熱すれば完全に殺菌出来ます。但し、中途半端な過熱は逆に食中毒を発症させる元にもなります。口から入った「サルモネラ」は、胃酸など「胃液バリア」による攻撃をくぐり抜けると、小腸の「腸管上皮細胞」に付着して増殖します。表面に付着した「サルモネラ」はそこで増殖。やがて「腸管上皮細胞」の中に侵入して行きます。次に腸の細胞や組織を破壊。こうして炎症を引き起こすのです。このような「サルモネラ」の活動により、感染してから半日〜2日後までに吐き気、ヘソの周辺の腹痛、といった症状が起こり始めます。その後、水のような便や軟い便が出て、38度前後の発熱や下痢をくり返します。さらに「サルモネラ」が腸の粘膜の奥深くまで侵入してしまうと、腸内に出血を起こし、排泄時に血便の出る事さえあるのです。次は、細菌が作り出した毒素に体を攻撃される「感染毒素型」の食中毒。このタイプの一つに日本人が発見した「腸炎ビブリオ」があります。この細菌、ふだんは海水や海中の泥の中に潜んでいます。それが、海水温度が15度以上になると増殖。魚介類などの内蔵やエラに付着します。こうして細菌に感染された魚や貝を食べると腸炎ビブリオによる食中毒に罹るのです。口から入った菌は胃酸に耐えて生き延びると、次に腸管に侵入して増殖して行きます。「腸管上皮細胞」に居座った菌は、そこで「毒素」を作り出し、その毒素が腸の細胞に炎症を起こさせるという訳です。症状としては、まず24時間以内に激しい腹痛と下痢が起こります。特に腸炎ビブリオによる腹痛は差し込むような激痛で、患者さんは猛烈な苦しみを味わいます。更に病状が悪化・進行すると毒素が「腸管細胞」を破壊。そのため、腸の中に血液が漏れ出します。その時に出る「粘血便」が「腸炎ビブリオ」の大きな特徴です。今までご覧戴いた「サルモネラ」や「腸炎ビブリオ」は細菌そのものが体内に侵入して「食中毒」を起こします。ところが、「食中毒」を起こす細菌の中には、自らは体内に入らないまま、人体に攻撃を仕掛けるタイプも実は存在するのです。それが、食べ物に付着した菌が毒素を作り、その毒素が体内にはいる「毒素型」。その典型である「黄色ブドウ球菌」は意外な程ごく身近に存在しています。それは皮膚。特に、鼻や喉に細菌は常に存在しています。鼻をかんだりトイレの後、手を洗わないでいるのは危険!例えば、細菌の付いた手で「おむすび」を握る。すると「黄色ブドウ球菌」は手からお米へと移動して行きます。「黄色ブドウ球菌」は、何と100度の熱でも30分は生き残るという強い菌。もちろん、お米の中でも生き残り、毒素を作ります。当然、この毒素入りおむすびを食べれば、「食中毒」を起こす可能性は高くなります。この「黄色ブドウ球菌」が作り出す毒素は他の細菌と違い、嘔吐を起こす特徴があります、腸から毒素が吸収されると、この毒素による刺激が「交感神経」へと伝わって行き、脳の「嘔吐中枢」へと伝わるため、およそ3時間程経つと吐き気や激しい嘔吐が起きてしまう訳です。最も死亡率の高い「食中毒」を引き起こす「ボツリヌス菌」も毒素型の一つです。通常、「ボツリヌス菌」は土壌に広く分布しており、海や湖の泥の中にも潜んでいます。酸素が苦手な「ボツリヌス菌」は瓶詰・缶詰など、製造段階で酸素を除去した食品の中で増殖しやすく、強い毒素を作ります。その毒素は体内に侵入すると腸の壁を通り抜け、そこから血液の中にもぐりこんで体中をかけめぐります。この菌は神経の命令を筋肉に伝える「アセチルコリン」の働きを妨害するため、体内で色々な筋肉を麻痺状態に陥らせます。たとえば目の筋肉が麻痺を起こすと、「物が二重に見える」「目が開かなくなる」といった症状が現れます。また、「呼吸筋」が麻痺すると呼吸が出来なくなり、最悪の場合、死に至る事さえあるのです。このように「食中毒」の原因や症状は様々。腹痛や下痢がひどい時、どんな原因か思い当たるか、皆さんも注意して下さい!
細菌が増殖する為に 必要な酵素を抑える
夏場に10秒間ドアを開けると、元の温度に戻るのに、どれだけ時間がかかるか、皆さんはご存知でしょうか?何と!20〜30秒もかかってしまうのです。「腸炎ビブリオ」が増殖する温度は5度以上。10秒間ドアを明けると10度に上り、しばらく温度が下がりません。従って、冷蔵庫を何十秒も開けっ放しにする、冷蔵庫を何度も開け閉めする。などの行動は、「食中毒」を起こす病原菌の増殖を貴方が助けている事になるのです!また、中身の詰め込み過ぎも温度の上がる原因。詰め過ぎると冷気の循環が悪くなり、冷蔵庫内の温度が上って細菌が増殖しやすくなります。冷気の循環を妨げないようにするには、それぞれの冷蔵庫に指定された容量の7割程度が理想です。もちろん、冷蔵庫の温度を上げないためにも、温かい料理はあらかじめ、室温で冷ましてから入れるよう心掛ける事も大事。ところで、「食中毒」を起こす細菌は冷蔵庫のどこに最もいるのでしょう?ある御家庭の冷蔵庫に住む細菌を調べてみると、繁殖が一番多かったのは冷凍室の手前部分。冷蔵室に比べ、冷凍室は掃除の回数が少ない事がその原因でした。「冷凍していれば安心」、そう思っているあなた、細菌は低温でも死なないのですよ!