人間の知的な生活を司る脳。私達の記憶や判断、喜怒哀楽の感情などは、脳の働きによって成り立っています。その脳の活動に障害が起こり、記憶や感情にも、大きな影響を及ぼす病気がアルツハイマー病です。その主な症状は、記憶力の低下や人格変化、そしてウツや痴呆といったもの。現在、痴呆の患者は、日本全国でおよそ150万人。そのうちの50万〜70万人が、アルツハイマー病による痴呆という、統計もあります。人間は誰しも年を重ねていくと、記憶力は低下します。老化による物忘れと、痴呆の違いはどこにあるのでしょう?通常の物忘れの場合は、本人が物忘れをした自覚があります。しかし、痴呆の場合は、何度も物忘れを繰り返し、また物忘れをしたこと自体、覚えていません。つまり物忘れした事を覚えているかどうかが、痴呆と物忘れの違いなのです。この痴呆の原因のひとつ、脳血管性痴呆の場合は、脳血管の障害であるくも膜下出血や、脳梗塞など、脳卒中が原因で脳の機能の一部が損なわれたことで引き起こされます。しかしアルツハイマー病による痴呆は、未だ原因が解明されていないのです。アルツハイマー病は、脳には記憶が蓄積される大脳皮質と呼ばれる部分があります。その大脳皮質の中でも、特に記憶と関わりが深いのが側頭葉です。アルツハイマー病の影響は、この側頭葉に強く出ます。脳の横側、側頭葉の部分が、萎縮して小さくなっているのが、よく分かります。さらに症状が進むと、脳が全体的に萎縮してしまうのです。脳の萎縮、これこそがアルツハイマー病の特徴です。私達の脳は活動すると、アミロイドβというたんぱく質ができます。正常であればこのアミロイドβが溜まらずにしっかりと代謝されるのですが、アルツハイマー病にかかると、このアミロイドβが脳の中に溜まってしまいます。このアミロイドβの固まりが、問題の老人斑です。しかもこの老人班は、神経毒の一種で、脳の活動を支える神経細胞を壊していきます。実は単なる老化でも、この老人班は多少なりとも出てきます。しかし、それは脳の中で、記憶を司る部分の海馬に限られています。 老化によって物忘れが多くなるのは、海馬周辺の老人班が原因なのです。ところが、アルツハイマー病にかかると、この老人班が脳全体に広がってしまいます。老人班は脳の神経細胞の外側にできますが、やがて神経細胞の内側にも異常なタンパク質が溜まり、神経細胞が変形してしまいます。それを神経原繊維と呼びます。この神経原繊維も、脳の神経細胞を破壊していきます。そして繊維化が進むと、大量の神経細胞が失われ、脳が萎縮していきます。このようにアルツハイマー病とは、脳の神経細胞が壊され、脳が萎縮することで、様々な症状が表れる病気なのです。アルツハイマー病は、進行具合によって、症状の変化があります。初期は、大事な約束を忘れてしまう、また食事した事を憶えていないなどの記憶障害が起こります。また意欲の減退、不安で落ちかないなどのうつ状態も現れます。中期は、知的機能障害がかなり進み、今日が何月何日なのか、そして昼と夜の区別さえも、わからなくなってしまいます。また、徘徊などを起こし、日常生活に支障をきたしてしまうようになります。さらにアルツハイマー末期になると、機能障害が更に進み、感情が失われ、無欲となり、動くこともあまりありません。いわゆる寝たきりの状態となってしまいます。しかしアルツハイマー病の発症原因は現在でも不明です。アミロイドβが私達の体の中でどんな役割を持っているのか、どうして代謝が上手く行かなくなるのかは、まだ解明されてはいません。このようにアルツハイマー病は、原因やそのメカニズムもまだ十分に分かっていない恐ろしい病気なのです。
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