今週のドクターは、 板橋中央総合病院 内科 田村 勤先生
【略歴】
東京大学医学部卒業
筑波大学臨床医学系講師
【ドクターの一言】 心臓病は生活習慣を原因とする事が多いです。病気になってから治療するというのもやむをえないのですが、病気にならないように、二度と同じ病気にかからないように予防することが大切です。
何だかダルい。少し動くだけで息が切れる。そんなありがちな体調不良に、実は心不全が隠れているのです!命に関わる事も多い心不全。私達の心臓は一分間におよそ80回の拍動を繰り返し、全身に血液を送り出しています。その際、心臓を出入りする血液の量はおよそ5リットル。「心不全」とは、このポンプの働きが低下し、我々の体に必要な酸素と栄養が全身に行き渡らなくなった状態の事です。心臓の正常な働きが保たれていれば、送り出したのと同じ量の血液が心臓に戻ってきます。しかし、ポンプの働きが弱まると、送り出す血液より、戻る血液の方が少なくなります。何故なら、戻りきれない血液が体のあちこちに滞ってしまうからです。まるで、血液が体の中で渋滞を起こしたようになる。それが心不全という病気なのです。心不全の初期には、階段をのぼるなど軽い運動が辛くなり、息切れを感じるようになってきます。やがて症状が悪化するのに連れ、静かにしていても息切れするようになり横になるのさえ辛くなってきます。更にひどくなると、全身の浮腫みや呼吸困難が現れます。心臓の中は右心房・右心室・左心房・左心室という、4つの部屋に別れています。血液は左心室の収縮、ポンプの機能によって大動脈へと送りだされ、全身へ運ばれてゆきます。血液は静脈を通って右心房に戻り、右心室へ移動。右心室が、この血液を肺へと送り出します。肺で酸素を補給した血液は、左心房から左心室へ。血液はこうして体内を循環しています。血液を送り出す働きが低下すると、十分な量の血液が全身にむかわなくなったり、体のあちこちに滞るようになってしまうのです気をつけなければならないのが高血圧!血管の中の圧力が常に高い状態。それが高血圧。高血圧の場合、心臓は普段より強く血液を送り出す必要が出てきます。これでは荷物を持って山に登るようなもの。こんな状態が続けば、心臓のポンプの機能も低下します。心臓の働きを大きく低下させる病気は高血圧だけではありません。その病気とは糖尿病!血液中の糖分が増えすぎて、全身に様々な障害が引き起こされる病気。糖尿病によって起きる動脈硬化が心臓に大きな負担をもたらします。動脈硬化になると、血管が狭くなります。当然心臓は、より強い力で血液を送り出さざるを得なくなります。心臓はこれまた働きすぎで疲労困憊。ポンプの働きも低下してしまいます。また、糖尿病は動脈だけでなく、全身の抹消血管にもダメージを与えます。特に、心臓を動かすための血液を送る冠動脈に動脈硬化が起こりやすいのです。血液不足によって、心臓の筋肉がダメージを受ける為、重症の心不全を起こしやすいとも言われています。このように、高血圧と糖尿病は心不全の元と成ってしまう訳です。実は右心室の働きが低下する場合と、左心室の働きが低下する場合とでは、違った症状が現れるのです。もし、左心室のポンプの働きが弱くなると?血液を全身に送り出す機能が低下します。すると、全身に送られる酸素や栄養分の不足からダルさや疲れ等の症状が現れます。また、脳の酸素や栄養不足から頭痛等が現れる場合もあります。同時に、左心室から送り出されなかった血液が肺の血管へと逆流し、たまり始めます。やがて、血液中の水分が、肺の組織へと漏れ始めます。悪化すると肺が水浸しになったような状態、肺水腫を引き起こします。まるでおぼれたような状態になり、呼吸困難に至ります。夜中に突然、呼吸困難になることも少なくありません。また「夜間頻尿」も、特徴的な症状です。夜、寝床に入って横になると全身に滞っていた血液が心臓へと戻ってきます。心臓から腎臓に送られる血液が急激に増加、大量の尿が作られます。夜間に何度もトイレに通う結果に成る訳です。右心室の働きが弱くなると、血液を肺に上手く送り出せないと、全身から右心室に繋がる、全ての静脈に血液が滞り始めます。この時、体の表面に近い静脈が大きく腫れて見える事もあります。また、胃や腸の静脈に血が滞ると、食欲低下や吐き気が起こります。やがては静脈からも血液中の水分がジワジワと漏れ始めます。その結果、酷い浮腫みが体全体に起こったり…胸部に水が溜まる胸水を起こします。一方、腎臓の血管に血液が滞ると腎機能が低下して尿が作られなくなります。その結果、体から水分が出なくなり、体重が急に増加。酷い場合は、僅か一日で1キロ以上も体重が増えることすらあるのです。実は「不整脈」も心不全の原因あり!不整脈は、心臓の筋肉を動かす電気信号が何らかの原因で乱れ、脈の速さが不安定になる病気です。その際、脈が遅くなると心臓が送りだす血液の量も減ってしまいます。逆に、脈が速すぎても心臓の筋肉が十分収縮出来ず、送り出せる血液の量は減ってしまいます。こうして、不整脈が引き金となって血液が滞り、心不全が引き起こされてしまうのです。心臓に大きな負担を掛ける全ての病が心不全の原因となってしまうのです。
心不全とは、全身が必要とする血液を 心臓が十分に送り出せない状態 心臓が送り出す血液の量が減少し 同時に心臓の上流に血液が溜まる それを補うため、心臓の働きを元に戻そうとする それでも働きが戻らない 全身には血液不足、肺に血液が溜まる
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