むくみのクスリ

"むくみ"はなぜ起こる?


痛いわけではないけれど、不快な違和感がある「むくみ」。
ひどい時は、ぎゅっと押さえると、へこんだまま元に戻らないことも…。
林松彦先生
夕方になると、足がむくむことがありますが、どうしてなんでしょう?

慶應義塾大学医学部内科・腎臓の病気がご専門の林松彦先生に伺いました。
林先生:「細胞と細胞の間の水が異常に溜まった状態を、むくみと言います。」
コラーゲンのある場所

水分が溜まる場所は、皮膚の皮下組織。細胞と細胞をつないでいる、コラーゲンのあるところです。

この皮下組織に溜まった水分が、むくみの犯人!

それにしても、その水分はどこからやってくるのでしょうか?

例えば、長時間、同じ姿勢を続けていると、血液の循環が悪くなります。この時、滞った血液中の水分が毛細血管から外に出てしまうのです。
林先生:「ちゃんと循環していれば、動脈から毛細血管を通って静脈に行って毛細血管のところで、うまく水がコントロールされるわけです。
ずっと立っていると、静脈の血液が滞り、だんだん血管から水分が外に出て行ってしまうのです。それで、夕方になるとむくみに気付くのです。」
夕方だけでなく、朝起きた時に顔がむくんでいることもありますよね。
この理由は、例えば水の入ったびんを、足がむくんだ状態の身体だと思って下さい。
びん

横に倒すと、びん全体に水が広がります。
同じように、身体を横にすると、足に溜まっていた水分は全身に広がります。
人形

実はこの時、身体は全体的にむくんでいるのですが、特に朝起きてまず鏡で見る顔のむくみは気付きやすいのです。
また、水分をたくさん摂った次の日に、身体がむくんだと感じることはありませんか?

飲んだ水分は、主に大腸から血液中に吸収されます。水分を摂り過ぎてしまうと、血液中にたくさん水分が吸収され、余った状態になります。すると、血管から水分が外に出ていきやすくなるため、むくみが起こります。 そして、塩分を摂り過ぎたときにもむくみは起こります。
血管

血液中の塩分濃度が濃くなり過ぎると、それを薄めるため、本来、汗や尿として排泄される水分がとどまります。その水分は、今度は血管の壁から外に漏れだし、むくみが起きるのです。
ところで、女性の方が男性よりもむくみやすいのはどうしてですか?

林先生:「いろんな女性ホルモンが関係していますが、身体中に水分・塩分を溜め込むような作用が一つあります。そういったことが複合的に作用することが、女性のむくみやすさになります。
生理の直前などに、月経の周期に合わせてむくみやすくなる場合があります。」

女性特有のホルモンバランスが関係したむくみは、ほとんどが心配のないむくみです。

ところが・・・!

林先生:「夕方にむくむ、靴がきつくなる、靴下の線が付くなどはこれは普通の方でも起こります。それが翌朝になっても取れないで、翌日の夕方になるともっと悪くなる、
そしてさらに悪くなるというように、だんだんそのむくみがひどくなるときは要注意です。」

解消されないむくみ!そこには何かの病気が疑われます。

林先生:「主に、心臓・肝臓・腎臓の病気が、むくみを起こしやすいのです。」

最もむくみを起こしやすいのは、腎臓の病気です。
腎臓には、糸球体という血液をろ過して尿を作る場所があります。まるで毛糸をまるめたような糸球体は、実は毛細血管のかたまり。この糸球体に異常が起こると、尿がうまくろ過されなくなり、身体に必要なタンパクが尿を一緒にどんどん出てしまうのです。
糸球体

これは、腎臓の組織の写真です。
丸い部分が糸球体。
正常と異常

正常な糸球体はふっくらしていますが、異常を起こした組織の糸球体は黒くつぶれています。
こうなると、アルブミンというタンパクが大量に排泄されてしまいます。
実は、このアルブミンこそ細胞の周りにしみ出した水分を、血管の中に戻す働きをするタンパクなのです。そのため、アルブミンが大量に排泄されると水が戻らなくなり、むくみやすくなるのです。
腎臓の病気によって、むくんでしまうと、溜まった水分によって体重が増加することもあります。

むくみは、糖尿病などが原因で起こることがあるのです。
また、むくみは心臓の病気によっても起こります。心臓が正常に働いていれば、送り出した分と同じ量の血液が心臓に戻ります。
しかし、心臓の働きが低下していると、血液を十分に送り出せなくなり、身体の至るところで血流が滞ります。すると、血管から外へ水分がしみ出して、むくみが起こるのです。

また、むくみは肝臓の病気、肝硬変によっても起こります。
肝硬変になると、肝臓で作られているアルブミンが作られなくなります。アルブミンの不足によって、血管に水分が戻らなくなり、むくみが起こるのです。

心配のないむくみと、病気によるむくみ。しっかり注意したいですね。



"むくみ"の治療はいつ頃から行われていた?


むくみは、古くはヒポクラテスの時代からありました。
この頃つけられた病名は、「水腫」。
この言い方は、その後18世紀まで続きました。
「水腫」は、不治の病として恐れられていた病気。その症状は、身体のあらゆる場所がむくみ、身体全体が風船のように膨らむというもの。

水腫の治療法として、ヨーロッパで広く行われていたのは白ワインを使ったもの。これに新鮮な卵の黄身を混ぜて一気に飲み、便通を良くする。
そして、料理には、毎日ニンニクを大量に使い続ける。
この2つの方法を3ヶ月忠実に続けると、水腫が治ると言われていました。

そして、18世紀後半。
水腫の特効薬がイギリスの医師・ウィザリングによって発見されました。
彼は、治療をあきらめていたある重い水腫患者が、数週間で回復したのを見て驚きました。

一体なぜ・・・?

その患者は、薬草を使っていたのです。
ウィザリングは、早速その薬草を調べました。
その薬草とはジギタリス。彼は、ジギタリスのどこに最も薬効があるのかを調べました。
そして、葉を乾燥させた粉末が、最も効力を発揮することをつきとめたのです。
ウィザリングは、ジギタリスの飲む量や服用間隔、連続して使った場合の副作用に至るまで細かく記録しました。
その成果は、1冊の本にまとめられ、「ジギタリスとその医学的効能」として出版されました。
彼の功績により、ジギタリスは今日まで、不整脈や心不全のクスリとして使われています。

変わっては、日本で行われていた治療法。むくんだときには、むくみをとる食べ物を食べる、これが一番!!
まずは、スイカ。スイカは身体の余分な塩分を排泄するカリウムや、尿を作り出すシトルリンという成分が入っており、むくみの改善に役立つのです。
その成分は、皮にもたくさん入っているので、皮をぬか漬けにして食べるという方法もありました。

2つ目はキュウリ。キュウリは、水分の代謝を良くするので利尿作用があります。
特に、薄切りしたキュウリを、水で煮立てたものが、むくみの改善に効果的と言われています。

むくみに効く食べもの。3つ目は、トウモロコシ。
実はトウモロコシには、実だけでなくヒゲにも利尿作用があります。ヒゲを乾燥させ弱火で煎じ、お茶にして飲んでいたと言います。

体に溜まった余分な水分は、利尿作用で排泄する。むくみに対する昔の人の知恵は、きちんと理にかなっているものだったようです。



"むくみ"のクスリ


むくみを改善するために、あなたがしていることは?

例えば、朝起きて顔がむくんでいた時、すっきりさせるために、冷たい水で顔を洗っていませんか?・・・これは大きな間違い!
冷たい水で顔を洗っても、皮膚に溜まった水分は血管には戻らず、むくみも解消されません。
むくみを解消するには、血流を良くして、溜まった水が血管に戻るようにする必要があります。そのためには、お湯で洗顔するのが効果的です。是非、お試しください。

もう一つ、むくみに深く関係しているのが"睡眠"。
睡眠中にかく汗は、実はむくみの原因となる余分な水分を身体の外に出すために、とても大切なのです。

寝汗の量

一晩にかく汗の量は、実に、500ccから800cc。コップ2〜3杯分です。
適度に寝汗をかくことは、むくみを起こさないために、とても大切なことだったんですね。
夏場の寝苦しい季節、エアコンなどで寝室を冷やし過ぎないよう気をつけてください。

さて、むくみは腎臓、心臓、肝臓などの病気によっても起こります。

では、病気でむくんだ時には、どんなクスリが処方されるのでしょう?

林先生:「心臓、腎臓、肝臓の病気でむくみを起こした場合には、基本的に利尿薬というクスリが使われます。
利尿薬は、尿の中にナトリウム(塩分)をたくさん出すクスリです。」

どうして、塩分を身体の外に出すのですか?

林先生:「むくみの時に溜まってくる水は、純粋に真水が溜まるわけではなく、塩と一緒に溜まります。塩分を身体の外に出すと、水分も一緒に出るので、むくみが取れるのです。」

むくみのクスリ、利尿薬は、原因となる病気を治す薬と一緒に使います。

むくみは、水分を出すときに塩分も一緒に出すことが大切なんですね。
煮キュウリをやってみようかなって思いました!