虫さされのクスリ

蚊にさされやすい人はいる?


どこにでも生息する、蚊。その体長は、およそ5mm前後。 庭や公園などではヒトスジシマカ、室内ではアカイエカが多くいます。 私達の血を吸うのは、メス。それも交尾をして、卵を産む準備をしなければいけないメスに限られます。 では、蚊にさされやすい人、さされにくい人というのは本当にいるのでしょうか? 日本環境衛生センター・武藤敦彦先生に伺いました。 武藤先生は、30年に渡って、人に害を与える虫を調査・研究しています。

武藤敦彦先生
武藤先生:「私がいろいろな実験で経験しているところでは、さされやすい人、さされにくい人というのはないですね。かなり痩せている女性でもよくさされるという人もいますし、がっちりした体型の人でも全然さされない人もいます。なにが原因でそうなっているのかは実際のところ、まだ分からないのです。」

よく、子供や汗っかきの人が蚊にさされやすいと聞きますが、そんなことはないそうです。


では、そもそも蚊は何を頼りに、人間に近づいて来るのでしょうか?

武藤先生:「蚊は、吸血原となる動物が出すいろいろなものを感知してやってきます。
一番大きいのは、二酸化炭素です。他には、熱や汗の匂いです。」

さされやすい人、さされにくい人は確かにいますが、その違いが何によって決まるのかは判明していないそうです。



虫にさされたとき、身体の中では何が起こっている?


これからの季節、虫さされといえば蚊。でも、さされるとなぜかゆくなる?

須賀康先生


順天堂大学浦安病院 皮膚科・須賀康先生に伺いました。
須賀先生:「蚊が血を吸うときに、唾液を皮膚の中に入れるからです。」

蚊は人をさすと、まず、人の身体の中へ唾液を送り込みます。 この唾液に、皮膚がアレルギー反応を起こす。それが、かゆみの原因。
蚊がどうして唾液を出すのか?

それは、吸った後、蚊の身体の中で血液が固まらないようにするため。
蚊の唾液には、血液を固まりにくくする成分が入っているのです。

では、皮膚のアレルギー反応は、どうしてかゆみを起こすのでしょう?

須賀先生:「皮膚の中からヒスタミンというタンパクが出てきて、それが、かゆみを感じる神経を刺激するからかゆくなるのです。」

かゆみとは、痛みの一種。つまり、蚊にさされて身体に異常が起きたことを知らせるサイン。

でも、かゆくなると、そこをかいてしまうのはどうしてなんでしょう?

須賀先生:「これは、かき反射といって、皮膚に付いた蚊などの異物を皮膚から払いのけるための防衛反応と言われています。」

かく

かゆみが起こったとき、思わずかいてしまいますよね。

これは、皮膚の防御反応。かゆみの発生をきっかけに、続けて虫にさされぬよう、身体が動くわけです。
では、蚊にさされると、そこが赤くはれるのはどうしてでしょう?

須賀先生:「皮膚の中から蚊の毒を洗い流すためなんです。
血管が拡張して、その中から出てきた血漿成分により、皮膚の中の蚊の唾液の毒が洗い流されるのです。」

血漿が集まる

プックリとはれるのは、蚊にさされた箇所に血液が集まって来るためでした。
特に、血液中の「血漿」が唾液を洗い流すために集まるのです。

実は蚊に刺された瞬間はかゆさが出ず、少し経ってからかゆみが出るのを、皆さんはご存知ですか?

それはどうしてかというと…、
須賀先生:「蚊の唾液には、局所麻酔と同じような物質が入っているからなんです。他の虫にさされると、チクっと痛みを感じますが、蚊の場合は唾液の中に入っている局所麻酔薬のせいで痛みを感じません。」

麻酔成分の働きで最初はかゆみが出ず、やがてその効き目が切れると、初めてかゆみが起こるのです。

布団
蚊に続いて、家の中でも外でも人を刺す虫がダニ!
ダニは、針のような2本の口を、皮膚に突き刺して血を吸います。
家の中にいるのが体長およそ0.7mm程のイエダニ。イエダニは主に我々の睡眠中、布団に入り込んで血を吸います。
ダニに刺された皮膚には、赤くかゆみの強いブツブツが現れます。
特にイエダニは、脇腹や下腹部など皮膚の柔らかい部分を狙ってさします。

一方、ハイキングなどアウトドアの場合は、更に恐ろしいダニと出会います。
山や森の中で肌を露出している場合は、マダニにご注意!マダニは、脇腹や太股などの皮膚に食らいついて血を吸います。皮膚に噛み付いて、お腹がパンパンに膨らんだマダニ。マダニは皮膚に一度噛み付くと、お風呂に入っても、お湯につけても離れません。しかも・・・、
須賀先生:「マダニを無理に引き抜くと、皮膚の中に頭部が残って強い炎症を起こします。病院で適切な方法で取り除いてもらいましょう。」

人をさす虫の中で場合によっては、命の危険にも繋がりかねないのが蜂!
人をさす蜂の代表といえば、まずは身近なミツバチ、山や森林にいる、アシナガバチ。そして、スズメバチです。
外敵を倒すための武器として、強い毒を出す針を持っているので、皆さん、くれぐれも注意が必要です。

ところで、蜂にさされたとき、アンモニア水やおしっこをかけると、毒が中和されると言われますが、
本当でしょうか?

須賀先生:「アンモニア水やおしっこをかけても、蜂の毒は中和されません。
それどころか、患部を不潔にしますので、決して行わないで下さい。」

蜂にさされた場合、かゆみでなく、激しい痛みが起こるのはどうしてですか?

須賀先生:「蜂の毒の中には、発痛物質が入っていて、さされた直後から激しい痛みや赤いはれを生じます。」

その毒が原因で起きる死亡事故。この場合、体の中で何が起きたのですか?

須賀先生:「蜂の毒に対するにアレルギーを持っている人が、蜂にさされると、アナフィラキシーショックという強い反応を起こす場合があります。
唇やまぶた、喉がはれて、ひどい場合には窒息して死に至ることもあります。また、その過程で不整脈や腹痛、下痢などを生じることもあります。」

アナフィラキシーショックとは、蜂の毒に対する強いアレルギー反応がもたらす、全身のショック状態のこと。
アレルギーを起こす物質としては、食べ物ならば卵・牛乳など、数え切れないほどありますが、蜂の毒もその一つなのです。なんと、1匹の小さなミツバチにさされただけでも、アナフィラキシーショックは起こってしまいます。
アナフィラキシーショックの症状

呼吸困難などの危険な症状は、さされてから、だいたい15分程で始まるとされていますからご注意を!
アナフィラキシーショックを起こすかどうか、前もって分からないのですか?

須賀先生:「蜂毒の血液検査がありますので、それでアレルギーをチェックしておくと良いでしょう。」

実は危ない虫さされ。虫の活動も活発になるこれからの季節、気をつけて下さいね。

かけばかくほど、かゆみがひどくなるのはなぜ?


かゆみは、ヒスタミンという物質によって起こります。
この時かゆいからといってかいてしまうと、皮膚では、神経ペプチドという物質がたくさん作られます。
実は、神経ペプチドは、ヒスタミンの分泌を増やす物質。
ヒスタミンがたくさん分泌されると、どんどんかゆみが拡がっていくのです。

虫さされのクスリの歴史


蚊はさされると、かゆみを起こすだけでなく、日本脳炎やマラリアなどの伝染病を運ぶ恐ろしい害虫でもあります。
蚊に刺されないため、様々な対策が古くから工夫されてきました。

日本で使われていたのが、夏の風物詩でもあるかや蚊帳。
奈良時代に書かれた歴史書「日本書紀」を紐解くと、そこには、当時の中国、遣唐使などで知られる唐の国との交易によって、蚊帳を贈られたという古い記録が残されています。
こうして日本に伝わった蚊帳が、一般でも使われ出したのは平安時代の終わり頃。
当時の蚊帳は、竹竿を四方に張り、そこに布を吊り下げるスタイルでした。

それがやがて、江戸時代に入ると・・・・、
現在、使われているのと同じような、金の輪を使って吊り下げるタイプの蚊帳が、庶民の暮らしに普及しました。
また、江戸時代には、蚊にさされたときの薬も使われるようになります。
例えば、ナタマメという植物の葉を揉み、さされた患部につけてかゆみを鎮めるといった
対処法もあみ出され、一般に広く行われていました。

また現在、衣服の防虫剤として使われている、しょうのうを虫さされの薬に使う方法も考案されています。
しょうのうを香油に混ぜ込んで患部に塗り、かゆみを抑えていました。

蚊と並んで、日本人を悩ませ続けた、シラミ。
不快なかゆみをもたらすだけでなく、発疹チフスという伝染病を運ぶ厄介者。
歴史的にも衛生環境の整わなかった長い間、日本人は、人の頭や衣服につくシラミに悩まされ続けてきたのです。
そこで江戸時代、頭に付いたシラミには、まず豆腐油で髪を洗ってから、香料のチョウジ、肉桂、ビンロウジを、同じ分量で混ぜた粉を髪にすり込んでは、シラミ対策にしていました。

紐
その一方、衣服に取り付くシラミ対策として考え出されたのが、「しらみひも」という紐を使う方法。

これは、百部という植物の根の煎じ汁と朝顔の実の油を混ぜたものに浸した、布製の紐。
その紐を丸め、懐に入れて使います。
こうすると、紐に滲み込んだ汁にシラミが集まってきて、さされなくて済むという具合です。


このような、日本人とシラミの戦いは、太平洋戦争後まで続きました。
終戦直後の日本で大発生したシラミを撲滅したのは、進駐軍が持ち込んだ画期的殺虫剤 「DDT」。
DDTはスイスの科学者、ミュラーの考案ですが、何とノーベル賞を受賞したほどの世界的大発明!
戦後の日本でも、チフスを流行させていたシラミを劇的に退治しました!
DDTの登場により、日本のシラミは激減。
こうして、日本人は長年苦しめられたシラミからやっと開放されたのです。

虫さされのクスリ


虫さされには、一体どんなクスリを使うのでしょう?
ヒスタミン

蚊にさされたなど、症状の軽い場合は、抗ヒスタミンの塗り薬が使われます。
蚊やダニなど血を吸う虫にさされると、虫の出す唾液の刺激で、ヒスタミンという物質が分泌され、かゆみが起こります。
そのかゆみを抑える成分が入っている薬が、抗ヒスタミン剤です。
一方、蜂などにさされ、症状が重いときにはどんな薬が?

須賀先生:「ステロイドの外用剤を塗って、その上から冷やすための湿布を貼ります。かゆみが強い場合は抗ヒスタミン剤や抗アレルギー剤の内服薬を、痛みが強い場合は消炎鎮痛剤の内服薬を使います。」

症状が重い場合は、塗り薬の他、湿布薬や飲み薬も併用して症状の緩和を早くします。
もちろん、市販されている虫さされ用のクスリにも、抗ヒスタミン剤とステロイド剤の塗り薬、
二つのタイプがあります。

清涼化剤がひんやりさせる

虫さされの直後に使って、効果的なのが抗ヒスタミン剤。
そして、かゆみがひどかったり、また、かゆみが長引くような際にはステロイド剤を使います。
どちらのタイプの薬も、スッとする成分が入っており、かゆい所をヒンヤリさせる効果も兼ね備えています。

また、虫さされの予防には、医薬部外品の虫除けスプレーも有効!
虫除け成分、ディートの働きで、虫が寄り付きにくくなります。
このスプレー、パウダーの粒子が肌に均一に付き、サラサラした使用感が得られるようにも工夫されています。

皆さんも薬を上手に使って、これからのシーズン、不愉快な虫さされに備えて下さい。

虫さされには冷湿布が有効なんですね。虫さされには冷やすといいなんて思いませんでした。
蚊以外でも注意しなければならない虫はたくさんいますね。虫よけ対策は
しっかりしなければいけないなと思いました。