脳の働き

"脳波"の種類と特徴


前田達浩先生
私達の脳を調べる脳波検査。それは、脳のどんな活動を、どのように調べるのでしょう?

前田病院脳神経外科・前田達浩先生に伺いました。
前田先生:「脳波は、医療の現場では主に補助診断に使われることが多いです。しかし、脳の病気の場所を特定するために、MRIやCT検査とともに重要な位置づけをしています。」

例えば交通事故等により、頭に大きなダメージを受けたと考えられる場合、MRIやCT検査とともに脳波の検査も行います。
電極
では、脳波検査とは、どのように行われるものなのでしょう?

脳波検査を行う場合、測定を始める前に、頭におよそ20箇所の電極を取り付けます。
これは、頭の前頭部、側頭部、後頭部など、それぞれの電気の流れを測定するため。

耳に電極

同時に、頭だけではなく、耳にも電極を取り付けます。
これは一体何のためでしょう?

前田先生:「耳から出る電気を0として、耳と頭の部分の電位差が波形となります。」

電位差


なるほど、脳波は基本的に、耳と頭の電気の差を比較することで、測定値が出てくるものなんですね。

実際の脳波検査は、まずは目を閉じた状態から測定を始めます。

アルファ波

 

前田先生:「目を閉じたときに出る脳波がアルファ波です。」

人間が起きていて目を閉じた時に出る脳波。それがアルファ波。
脳波検査の場合、このアルファ波を基準として測定を行うのです。
前田先生:「目を開けるとアルファ波が消えるんです。」

目を開けることで、視界が広がり、その刺激でアルファ波が消えるのです。
脳波検査は、こうして、目の開け閉めによる脳波の変化を確認するのです。
前田先生:「これは正常でなければ、このようにはなりません。この検査で、脳波の正常反応を見ています。」

また脳波検査は、睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害の診断の際にも使われます。
一般的に、睡眠時に現われる脳波は2つ。

シータ波


眠りについてから、およそ5分程経つと、アルファ波に比べると、波形のやや大きな脳波が出始めます。これがシータ波。

うたた寝やまどろみの時に出る脳波で、この頃から脳は深い眠りへと入ります。
デルタ波

そして、眠りについてから30分以上経った頃になると、
今度はシータ波よりも、更に振幅の大きな波形を示す脳波が出てきます。これがデルタ波。

デルタ波が出る時の脳は完全に休んだ状態。
つまり脳波から、浅い眠りか深い眠りかが歴然と分かるのです。

ポリグラフ検査

睡眠中の体の状態を調べるポリグラフ検査。
この検査で睡眠中の脳波を細かくチェック出来るため、睡眠障害や、睡眠時無呼吸症候群などの診断・治療に役立っています。



脳波とは、脳の活動状況を映し出す鏡のようなもの。
脳波検査はその特徴を利用して、脳や体の状態をチェックするものなのです。

"脳波"の歴史


脳波はどうやって発見されたのか?
きっかけは、ある物理学者の研究からでした。
1789年、当時のイタリアにガルバーニという物理学者がいました。彼は、様々な生き物の筋肉の動きに興味を持っていました。
そしてある時、カエルを使って筋肉の機能に関する実験をしていました。
ところが、実験中、たまたま、金属性のメスがカエルの脚の神経に触れてしまいました。
・・・・・・・途端に不思議なことが!
なんと、カエルの脚が、まるで生きてでもいるかのようにピクピクピクッと動いたのです!
この現象から、ガルバーニは、「生き物の体の中には、電気が流れているに違いない」という推論を発表します。

その後、人間の体を電気が流れていることを証明しようと、世界中の学者が実験に取り組み出しました。
そして、およそ130年後の1924年。

人間の脳から出る電気。つまり、「脳波」がついに発見されたのです。
発見したのはドイツの精神科医ハンス・ベルガー。
その際使われたのは、脳波計と言っても、当時はまだ体を流れる電流を計測する電流計であり、非常に大掛かりな機械でした。
ベルガーの発見は非常に画期的なものでしたが、波形があまりにも微弱なため、単なるノイズではないかと疑いの目で見られることも少なくありませんでした。
そこでベルガーが行った、脳波は脳の活動によるものだと証明する方法。それは・・・?

眼

目を開けたり閉じたりして測定すること。それぞれに、出る脳波が違いました。
目を開いて測定すると、脳が視角の刺激に反応するため、脳波が強く出たのです。
ベルガーは目を開けた時に出る強い脳波をベータ波、目を閉じた時に出る弱い脳波をアルファ波と名づけると・・



1929年、研究結果を『ヒトの脳波について』という論文で発表します。
こうして、脳波の存在が証明されたことにより、当時の医学において、脳波は脳の病気を診断する唯一の目安となりました。

同時に、世界中の医療機器メーカーは、精密な脳波計の開発に取り組み出します。
そして1951年、日本で国産第一号の脳波計が作られました。
この脳波計は何と木製!検査内容を記録するのにも、多くの時間を必要としましたが、
当時としてはまさに画期的な機械でした。
それからというもの、日本では数多くの脳波計が考案され、世界の脳波計開発を常にリードしてきました。

1970年代に入ってから、脳波計は軽量化に向けた開発が進み、同時に性能も飛躍的に高まります。
そして、現在使われている最新の脳波計は、パソコンとの一体型になるといった大きな進歩を遂げています。
役割も時代と共に変化。現代医学に於ける脳波計は、病気の診断・治療ばかりでなく、脳死の判定にも大きく関わっています。
脳死とは、大脳・小脳・脳幹、全ての部分で、脳の活動が停止した状態です。
もし、心臓は動いていても、脳の反応が全く見られないならば、それは脳死状態になったと言えます。

脳死の参考基準


脳死と診断された場合、脳波は平坦な波形を記録します。
事実、脳死の判定には、最低30分間の脳波測定が行われ、そこで得られたデータが参考基準となるのです。


脳波は、人間の脳の死の基準にもなっているのです。

脳トレーニング


人間の脳神経細胞は、およそ150億個あると言われています。
それらの細胞を活性化させ脳を鍛えることは出来るのでしょうか?


米山公啓先生
脳の専門家である、医学博士・米山公啓先生に伺いました。
先生は脳に関して様々な本を出版されています。

米山先生:「二十歳少し前くらいが脳細胞の数としてはピークです。あとは脳細胞は減っていくというのが一般論です。これには、1日に1万個減るとか10万個減るとかいろいろ諸説がありますが、推測でしかありません。二十歳過ぎてから脳は進歩しないのかというと、そうではなく、最近の考え方では多少増えるということが分かってきました。これは大きな大発見です。」

1999年に発行された科学誌『Science(サイエンス)』に、脳に関するある画期的な研究結果が報告されています。
「認識や知覚などの重要な働きを司る『大脳皮質』には、大人になっても新たな脳細胞が生み出される」。

脳神経細胞の増加とともに、脳の活性化に重要なのが脳神経細胞同士のネットワーク。
細胞と細胞を結びつけるネットワークを鍛えれば、脳は活性化されると考えられています。

では、簡単に実行ができる、脳のトレーニングをご紹介しましょう。

脳を鍛えるトレーニング・その@・・・毎日忘れずに、日記をつける。
これは、記憶を積み重ねる上で効果的なトレーニング。日記を書く際には、文章だけでなく、一緒に図形や絵を描くこともオススメです。記憶力だけでなく、発想力も鍛えられ、脳の活性化に繋がります。

日記でなく、最近流行りのブログを書くのはいかがでしょうか?

米山先生:「ブログはネット上で公開するのが目的で書くわけですから、そこに創作が入ってくるので、より脳を使うので良いでしょう。」

脳を鍛えるトレーニング・そのA・・・いつもとは少しでも違う行動を取る。
例えば、毎日乗る電車でも、ホームに立つ位置を変えてみる。
また、携帯のメールを利き手と反対の手で打つといった程度の行動の変化でも、脳の活性化に繋がるのです。

脳を鍛えるトレーニング・そのB・・・自分で料理を作る。

料理をすると、脳の血流が良くなり、判断力・計画を立てる力が向上することが、東北大学・川島先生らの研究で確認されています。
脳の活性化のために、積極的に料理をしましょう。

その他、普段の生活の中で心掛けると良いことはありますか?

米山先生:「新しいことをやりましょう。自分の脳にとって新しい経験なり体験なりをしなさいということです。それが脳を作り変えていくのです。」

常に新たな行動にチャレンジして、日々のトレーニングで、脳の活性化を心掛けましょう。


常に好奇心を持つことが、脳細胞を増やすことにつながるのですね。
新しいことをするといいんですね!普段、私は皇居の周りを右回りで走っているのですが、逆に左回りで走ってみたら景色が変わっていいかもしれませんね。