“結膜炎”とは?


気がつくと、なんだか目の中がゴロゴロする…。
鏡をのぞくと、白目が真っ赤だ!そういえば、目ヤニもたくさん出ているようだけど…。
もしかして、結膜炎…?
戸張幾生先生

一体、結膜炎の原因は何なのでしょうか?
表参道眼科内科クリニック 院長・戸張幾生先生に伺いました。
戸張先生:「結膜炎の原因の大部分は、細菌です。黄色ブドウ球菌が結膜に付くと炎症を起こし、細菌性結膜炎になってしまいます」
目の構造
目の結膜。
ここは、絶えず涙で濡れています。

目断面図
しかも、温度は常に30〜33℃に保たれています。つまり、水分と温度という、細菌の繁殖しやすい条件が整っているのです。

細菌増殖
通常は、涙が結膜に付いた細菌を殺菌してくれますが、身体の抵抗力が落ちていると、涙では殺菌できなくなり、細菌がみるみるうちに大増殖。
細菌性の結膜炎を引き起こしてしまうのです。
戸張先生:「もう一つ重要なのは、ウイルスが原因のウイルス性結膜炎です。これは、非常に人に伝染しやすいのです。」

人にうつりやすい、ウイルス性の結膜炎の原因になるのは、風邪の原因となるウイルス、アデノウイルスです。
アデノウイルスが結膜に感染して、およそ一週間経つと、白目やまぶたの裏が真っ赤に充血したり、黄色くベタベタした目ヤニが出てきます。その後、一週間前後で結膜炎の症状はピークに達します。

戸張先生:「手ぬぐいやタオル、お風呂、ドアのノブなどを触っただけでうつってしまいます。家族全員がウイルス性結膜炎になりこともあります。ですから、こまめに手を洗って、タオルは別にしましょう。特に、子供がウイルス性結膜炎になると、まぶたが腫れて目が開けられなくなる場合もありますので、子供への感染に注意しましょう。」

ところで、結膜炎とものもらいとは、同じ病気ではないのですか?

戸張先生:「原因となる菌は、細菌性結膜炎と同じです。」

同じ黄色ブドウ球菌によるものもらいと細菌性の結膜炎は、どこが違うのでしょう?

戸張先生;「ものもらいは皮膚や脂の出るマイボーム腺に感染します。結膜炎は結膜に炎症を起こします。」

マイボーム腺
まつ毛の根元にあるマイボーム腺。
ここからは、目を守るための脂が分泌されています。
このマイボーム腺に、細菌が感染して炎症が起こる、その炎症がいわゆるものもらいなのです。
炎症起こす

このように、ものもらいと結膜炎は別の病気ですが、同時に発症することもあるそうです。
そして、近年、増えている結膜炎があります。
戸張先生:「アレルギー性結膜炎です。主に花粉が原因です。」

花粉が原因となって発症する結膜炎を、季節性のアレルギー性結膜炎といいます。
アレルギーの原因となる花粉が飛んでいる時期限定で起こる結膜炎です。
戸張先生:「アレルギー性結膜炎の特徴は、かゆい、目が赤くなってショボショボする、涙が出てつらいことです。」
血管

結膜に花粉がつくと、その刺激によって、肥満細胞という細胞から、ロイコトリエンという物質が放出されます。
ロイコトリエン


この物質が、目の充血、涙目、軽いかゆみを起こすのです。
続いて、今度は血管から、ヒスタミンという物質が分泌されて、強いかゆみが起こります。
この状態がひどくなると、結膜がブヨブヨに腫れたりもします。
このアレルギー性結膜炎。実は、家の中のダニやホコリが原因で起こるタイプのものもあり、こちらは、季節に関係なく起こるため、通年性のアレルギー性結膜炎と呼ばれます。
結膜炎はこのように、様々な原因によって引き起こされるんですね。

人々はいつ頃から結膜炎に苦しんでいた?


去年、大流行した病気、プール熱。
プール熱にかかると、目の炎症と一緒に、発熱と喉の痛みが起こります。
このプール熱、正式には咽頭結膜熱という結膜炎の一種。
保育園や幼稚園、小学校で集団感染することが多いのです。
昨年1月から6月までで、患者数は、およそ4万人以上にものぼりました。

結膜炎の流行について書かれた、医学に関する歴史書があります。
そこには、あのフランス皇帝ナポレオンが、ひどく悩まされたと記されています。
若き日のナポレオンが率いていたフランス軍は、1798年、エジプトに侵攻したとき、
接触伝染性の眼炎にかかった。
これは、夏の間、エジプトに蔓延する結膜炎だったと推察されています。
そのため、ある部隊では総勢3000人のうち、半数近い1400人が重症の結膜炎のために、戦いに参加することができなくなり、苦戦を余儀なくされたそうです。
著者は、感染が拡がる理由は、不潔で人口過密、しかも人と長く接触するという状況と分析しています。

同じように、日本でも、衛生に関する観念が発達していなかった時代は、眼の病気が多かったようです。
江戸時代の半ば、1776年に来日した、スウェーデン人の医師ツンベルグ。
彼は、著書『日本紀行』で、当時の眼の病気について報告を遺しています。
その記述によると…、眼の病気の主な原因は、屋内のかまどから出る炭の煙、そして、汲み取り式の便所から発生する蒸発気である。
これらの汚染されたガスによって、多くの人が、まぶたに血がにじむ「赤眼」という病気にかかっていたのです。
そのためか、こんな川柳も残されています。

「はやり目の 手拭いもみ紅絹の えびすがみ夷紙」

『はやり目』とは、当時の結膜炎の呼び方。人から人へうつりやすいことから、こう呼ばれていました。その『はやり目』は、紅花で赤く染めた絹で目を拭くと治るとされていました。
しかし、絹は高価で、庶民にはとても手が届きません。
そのため代わりに、僧侶が着ていた赤い緋の衣を欲しがったといいます。
「目薬に 切れ端貰う 緋の衣」
もちろん、目薬もありました。
同じ頃、京の都で親しまれた「商人買物独案内」に、庶民の買い物に便利なよう、京の町の様々な店や商品が紹介されています。
これには、「目洗薬」という、『はやり目』、つまり結膜炎に効果のある目薬が記されています。

主な成分は漢方の生薬、ろかん炉甘せき石。この石を水に入れ、成分が溶け出した上澄みを点滴していました。
このように、薬を使った眼の病気の治療が庶民の間に定着したのは、江戸時代からでした。

“結膜炎”のクスリ


結膜炎の場合、細菌やウイルスの感染、アレルギーなど、その原因によって治療に使われる薬も違います。
戸張先生:「アレルギー性の結膜炎は、花粉が付いて最初のときには、ロイコトリエンというかゆみを起こす物質が出るのを抑える抗アレルギー点眼薬を使わなくてはなりません。
少し経って、かゆみがひどくなったときには、かゆみを抑える抗ヒスタミン点眼薬を使います。」

空気中を飛ぶ花粉が結膜に付いた時、まず作られるのは、ロイコトリエン。
結膜に、軽いかゆみと炎症を起こします。
このロイコトリエンの働きを抑えるのが、抗アレルギー成分の入った点眼薬。
また、症状が悪化して、かゆみがひどいとき、血管からヒスタミンという物質が分泌されています。この場合は、抗ヒスタミン成分の入った薬を使います。

では、細菌の感染が原因の場合は?

戸張先生:「細菌性結膜炎は、抗生物質の点眼薬を使います。これで、だいたい治まります。程度の強く治りの悪い細菌性の結膜炎には、ステロイドの点眼薬を使います。」

ウイルス性結膜炎の場合も、抗菌作用のある抗生物質や、炎症を抑えるステロイドの点眼薬が効き目を発揮します。

そして、市販されている目薬にも、同じような抗菌タイプがあります。
細菌感染に有効な抗菌作用のある成分、目の炎症を鎮める抗ヒスタミン作用や抗炎症作用のある成分が入っています。さらに、炎症で傷ついた結膜を修復する成分も配合されています。それは、栄養ドリンクなどにも使われているタウリンです。

また、このような1回分ずつの使い切りタイプは、使い回しによる感染拡大の心配もなく、
家族で清潔に使うことができます。
結膜炎の薬は原因別で正しく使い分けると同時に、家族の間での感染にも気を配りましょう。


結膜はゴミや細菌が眼の中に入るのを防ぐ大切な場所だからこそ、炎症を起こすと大変なんですね。
目の病気は昔から恐れられていたんですね。