注射の種類


注射
身体の中に直接クスリを注入できる注射。
では注射は、一体どのような場合に使われるのでしょう?

内科・呼吸器科の専門医院、エムクリニック院長・松岡緑郎先生に伺いました。
松岡緑郎先生

松岡先生:「吐いたり、下痢していて、経口的(飲み薬)な服用ができない場合は、
電解質補液(点滴)を静脈に注入しなければなりません。そして、重症な肺炎でクスリの血中濃度を速やかに高める場合にも静脈注射をします。ぜんそくの発作で、高濃度のクスリを注入するときにも使用します。」

注射は、クスリの種類や目的によって、主に「皮下注射」「静脈注射」「筋肉注射」の3つに分かれます。
注射
皮膚の皮下組織にクスリを注入するのが「皮下注射」。 クスリの量は比較的少なく、ツベルクリン反応や予防接種のワクチンなどで使われます。

針は細いものが使われることが多く、痛みはチクッとした程度と少ないのが特徴。

松岡先生:「実際に患者さんい投与するときには、まず、注射する部位を消毒します。 そして、患者さんに、注射を打ったときに手がしびれたり、気持ち悪いなど何か身体の異変があったら言って下さいと注意を促します。 それから、投与します。」
糖尿病の患者さんに使われるインスリン注射も、この皮下注射です。

続いて、「静脈注射」。
これは文字通り、血管の静脈に直接針をさす注射です。
静脈から血液を採取する献血はもちろん、栄養補給のための点滴にも使われます。
献血・点滴
この静脈注射、血液に直接クスリを注入することから、体内への吸収は最も速く効き目が確実に現われるのが特徴。
そのため、緊急を要するときには、静脈注射が最も効果を発揮し、肝機能が突然低下したときや、心不全が起きた場合に使われます。

腕を圧迫
松岡先生:「まず、腕を圧迫して血管を出るようにします。
そして、親指を中に入れて手をギュッと握ってもらいます。静脈が確認できたら注射します。」

なぜ一度血液を吸い出す?
ここに注目!!
静脈注射の場合、必ず血液を逆流させているように思うのですが・・・?
松岡先生:「静脈内注射はクスリが血管外に漏れると、痛みを伴ったり、危険な場合があるので、必ず針が静脈に入ったのを確認するために、一度血液を逆流させて、ゆっくりクスリを注入します。」

そして、3つめが「筋肉注射」。
皮下組織より深い、筋肉にクスリを注入する方法です。
松岡先生:「筋肉注射は、肩やでん部が多いです。筋肉注射の場合、直角に注射を打ちます。」

直角に打つ
結核の抗生物質などに使われるのが筋肉注射。
他と比べて痛いのが、この注射!
さて、注射を打ち終わったドクターが気をつけていることがあります。それは・・・?

松岡先生:「静脈内注射の場合、クスリを急速に注入するので、ショックが起きることがあります。特に抗生剤の注射は注意が必要です。注射の最中などに気分が悪くなったり、注射が終わった後に何か身体の異変があったら、我慢をしないようにしましょう。」

では、注射の後は、よく揉んでおいたほうがいいのですか?

松岡先生:「静脈内注射は、揉むと血管が切れて出血してしまいますので、注射の針が抜かれたらさっとおさえて圧迫しましょう。皮下注射は、揉むとかえって出血する場合がありますので、揉まないようにしましょう。
筋肉注射の場合は、よく揉んで下さい。筋肉内に注射された場合は、よく揉まないとシコリが残ってしまいます。」

注射と一口に言っても、揉んだほうがいいのは筋肉注射だけだったんですね。

私達にとって身近な注射。
病気の症状や打つ部分によって、いろんな種類があるのです。


絶え間なく進化を続ける注射器、その歴史とは?


古代ローマの貴族達は、とかく、ぜいたくな食生活を好んだと言います。
食べ過ぎては苦しんだ彼らが使っていたのが、なんと浣腸器。
この浣腸器が、後の注射器の原型となったと言われています。

18世紀後半から19世紀にかけて、ヨーロッパで使われた注射器。
その注射器の筒はガラス製でした。中のピストンには麻糸が巻いてありました。
この注射器は、なんと頭が痛いときに耳からワインを注ぎ込むという、当時の治療法のために開発されたもの。
ですから、先には針などありませんでした。

注射の歴史を大きく変えたのが、フランスのプラヴァーズ。
彼は、世界で初めて、穴のあいた針を先に付けた皮下注射器を作ったのです。
しかし、この注射器は、ネジを巻きながらクスリを注入するというネジ式だったので、片手で操作することができず、どうしても注入が不安定になってしまいました。

その欠点を克服した注射器を作ったのが、イギリスの開業医、アレクサンダー・ウッド。
彼は、今日使われている注射器の原型である、ピストン式の注射器を作り出しました。
そして、この注射器を使って、モルヒネを皮下注射。世界で初めての局部麻酔に成功したのです。

我が国に注射が伝わったのは、1865年ごろ。
オランダから長崎に伝わったといわれています。
そして、注射に関する専門書も書かれるようになりました。それに描かれている注射器は、
外側はガラス製ですが、ピストンの部分はネジ式になっていて、回しながらクスリを注入するタイプ。
これをきっかけに、国内でも注射器の製造が行われるようになり、1900年には初めて国産のガラス製注射器が開発されました。

以後、注射器は様々な進化を遂げ、医療の現場で欠かせないものとして幅広く使われているのです。


最新の注射針


糖尿病―――、よく聞くこの病気の正体をご存知ですか?
ブドウ糖になる
私達が食事をすると、口から入った食べ物はブドウ糖に形を変えて血液の中を流れていきます。
このとき、すい臓からインスリンが分泌されて、ブドウ糖を全身の細胞の中に、エネルギーとして取り込んでいくのです。
すい臓の働きが衰える
ところが、すい臓の働きが衰えて、インスリンの分泌量が減ってしまうと、血液中のブドウ糖はエネルギーとして取り込まれずに、そのまま流れ続けることになり、血糖値が高くなるのです。
この状態が糖尿病。
放っておくと動脈硬化を引き起こしたり、失明したりと、危険な状態を招いてしまいます。
そのため糖尿病患者さんは、血糖値を下げるために、足りなくなったインスリンを補う必要があるのです。


東京・小平市にある近藤医院。ここには、およそ1500人の糖尿病の患者さんが通っています。
近藤甲斐夫先生
近藤医院 院長・近藤甲斐夫先生
近藤先生:「インスリンを注射しなければならないのは、インスリンはホルモンなので、もし、口から飲むと分解されます。インスリンとしての形がなくなってしまうからなのです。」
この日、診察に訪れたのは、長谷川さん(男性・75歳)。
40年ほど前に糖尿病を患い、それからはインスリン注射が欠かせないと言います。
長谷川さんが、肌身離さず持ち歩いているバッグ。ここには、血糖値を記録するノート、血糖値を測る機械、そしてインスリンの注射器が入っています。
注射をする前に、まずは血糖値を測ります。
健康な人なら、空腹時の血糖値は110未満ですが・・・、

長谷川さん:「数値が146です。少し高すぎるかな・・・。ただ、今から注射をすれば、120ぐらいまでになります。」
長谷川さんのインスリン注射は、持続性タイプと即効性タイプの2種類。
長谷川さん:「これから、持続性の注射をします。そして、これが即効性の注射です。」


即効性の注射
1回に、2本ずつ。食事の前に、必ず打たなければなりません。
しかし以前と比べると、注射の針がだいぶ変わってきたといいます。
長谷川さん:「全く痛くないんです。それは、針がとても細くなったからです。昔は、現在使っている注射針の10倍くらいの大きさで太かったんです。でも今は、ものすごく細いです。日本製の注射針は定評があるそうです。」
東京・丸の内にある、テルモ株式会社。
医療機器を取り扱うこちらの会社で、インスリン用の最新の注射針を見せて頂きました。
それが、最先端技術で作られた注射針「ナノパス33」。
針の太さは、1ミリの5分の1。わずか0.2ミリ!!
これをペン型注射器に装着して使います。
この「ナノパス33」は、ただ細いだけではなく、他にも工夫があるのです。
それは、注射針の根元が太く、先端へ向けて細くなっていること。
でも、それはどうしてなのでしょう?

テルモ株式会社 広報室室長代理・古賀智志さん:
「針の根元の部分が太くて、先が細いことによって、まずクスリが確実に入れられます。そして、針が細いことによって痛みが確実に減るということです。糖尿病の患者さんは、ご自身で一日何回も注射をしなければなりませんので、痛みをできるだけ少なくしたいということを一番求めていらっしゃるのではないかと思い、この注射針の開発に取り組みました。」


注射器・・・、注射針の日々の進化があればこそ、クスリはより効果的に使われ、治療の効果も上がっていくのです。


注射器にこれほど様々な工夫がされていたなんて驚きです。もっと進化したら、もっともっと痛くなくなるんでしょうね。
定期的に血液検査で注射を打っていますが、目をそらしていてよく見たことはなかったので、こんなに工夫がされていたなんてすごい!ちょっとの痛みも我慢できてしまいそうですね!