不眠の特徴
私達人間が、生きていく上で欠かす事ができない睡眠。
それが上手く行えないのが「不眠」。
ではまず、「良い睡眠」とは?「悪い睡眠」の違いとは何なのか?
睡眠の正しいあり方に関して、代々木睡眠クリニック 院長・井上雄一先生に伺ってみました。
井上先生:「睡眠の量が充分であることです。日本人の平均睡眠時間は7時間前後と言われていますが、およそその位が良いでしょう。そして、眠りが浅すぎないこと、途中で途切れて目が覚めるのも良くないことです。」
普通、私達は夜眠りに入ってから朝目が覚めるまで「レム睡眠」と、「ノンレム睡眠」という2種類の睡眠を、およそ90分周期で繰り返します。
レム睡眠は「体の眠り」とも言われます。つまり、体は活動を休止しているのに、脳は起きている時に近い状態の睡眠です。
ノンレム睡眠は、脳の活動も休息状態に入るため、「脳の眠り」とも言われています。
井上先生:「生理的な原因として一番多いのは、加齢・老化です。60歳以上になると、睡眠が途切れ、目が覚めやすくなります。浅い睡眠が増えやすくなるのです。」
不眠の症状は大きく分けると、入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒、この3つのタイプに別れています。
まずは、入眠障害。いわゆる寝付きが悪いタイプの不眠状態。眠りに入るまで、一時間以上かかる場合は注意が必要です。
そして、中途覚醒。夜中に何度も目が覚めるタイプの不眠で、この症状が続くと眠りは浅くなり、熟睡したという満足感が得られなくなります。
3つめが早朝覚醒。眠っても、予定より遥かに早く、明け方などに目が覚めるタイプの不眠です。睡眠時間が充分得られないため、一日中ぼんやりしてしまいます。
Q:こうした不眠の原因には、何が考えられるのでしょう?
井上先生:「まず最初に考えなくてはならないのが、環境です。騒音・光・温度・湿度などの影響です。これが不眠の原因の一つです。それから、現代社会は24時間化しているので、生活が不規則になり、体内時計が乱れて不眠が起こることもあります。そして忘れてはならないのが、ストレスの影響です。ストレスで眠れないということも多いのです。」
そして、不眠の中でも特に注意しなければならないのが、「睡眠時無呼吸症候群」。
眠っている間に、10秒以上の無呼吸状態が30回以上発生する状態を、睡眠時無呼吸症候群と呼びます。
その大きな原因は、肥満などにより、空気の通り道が圧迫され、気道が狭くなってしまう事にあります。
井上先生:「一度止まった呼吸が再開するときには、人間の身体は必ず目を覚ますようにできています。多くの睡眠時無呼吸の患者さんは、呼吸が止まって目が覚めたことに気づかないので、知らず知らずのうちに眠りの質が悪くなっていきます。一定時間以上の睡眠をとっているにも関わらず、眠りが浅い、疲れがとれない、日中眠たいなどの症状を感じるようになります。」
Q:でも、こうした不眠の症状が出た場合、何科の診療を受ければよいのでしょうか?
井上先生:「睡眠の診療は、かなり普及してきていますので、一般の診療科で受診できます。なかなか良くならないような場合は、専門的な心療内科や精神科を受診するのが良いでしょう。」
不眠でお悩みの方は、早めに医師と相談して、快適な睡眠を手に入れましょう。
不眠解消の歴史
「眠れない!」
この悩みは、古くから我々人類を苦しめてきました。
すでに古代エジプトでは、「不眠とは生ける苦しみの1つ」と呼ばれ、多くの人々の悩みの種でした。
なんと王の墓には日用品と一緒に、当時、睡眠薬に使われたあるハーブが「死後の安らかな眠り」をもたらすため入れられていたほど。
そのハーブとは、「カモミール」。
事実、カモミールには、不安や緊張を解き、心をリラックスさせる作用があり、今も乾燥した花にお湯を注いだカモミールティーは、「安眠を誘う飲み物」と言われています。
18世紀ドイツの偉大な音楽家、ヨハン・セバスチャン・.バッハ。
古典音楽の父と呼ばれる彼は、不眠に苦しむ貴族のためにある曲を作りました。
それが、「ゴールドベルグ変奏曲」。
穏やかな旋律を奏でるこの曲。毎晩毎晩、一睡も出来ずに苦しんでいたロシアのとある伯爵からの「安眠出来る音楽を」という注文に応えて、バッハが作曲したと伝えられています。
我が国にも、不眠の悩みについては古くから記録が残っています。
現在の東京・両国付近で開業していた医師・平野重誠(じゅうせい)が、江戸時代に書いたのが、『病家須知(びょうかすち)』。
これは、“病人のいる家で知っておくべきこと”という意味です。病人のいる家庭用に、看護に関する初歩的な知識をやさしく書いた家庭の医学書です。
そこには、病人の睡眠を誘うためとして、こんな装置が描かれています。
このように古今東西を問わず、人類は不眠に悩み、苦しみ、数多くの対策を講じてきたのですね。
眠りの環境“快眠ルーム”
東京・汐留にある“ロイヤルパーク汐留タワー”。
このホテルの中に、不眠の悩みを解消し、快い眠りに誘う施設があると伺いました。
睡眠科学に基づき、質の高い眠りがとれるよう、部屋全体に工夫が施されています。
具体的にどんな工夫なのでしょうか?
松下電工株式会社 快眠システム事業推進グループ・堀内隆博さん:
「光、そして映像からくる視覚、それに伴うコンテンツによる聴覚など、人間のあらゆる感覚に働きかけることによって、良い睡眠・気持ちの良い覚醒を実現するようにした部屋になっています。」
照明の科学では、30ルクス以上の明るさになると、睡眠は浅くなるとされています。
その理由は、30ルクス以上の灯りにより、睡眠を促す脳内ホルモン、メラトニンの分泌が抑制されるため。
そこで、この部屋では、入眠時に明かりを徐々に落としていき、メラトニンの分泌を促す薄明かりで、心地よい眠りに導きます。
そして、起床予定時間になると、2000ルクスを超える明るい光で、スッキリした目覚めを実現します。
堀内さん:「その方が自分自身で快適だと思う温度が、睡眠にベストな温度です。湿度は、ある程度調節する必要があります。50〜60%くらいの湿度が良いです。」
部屋の壁は、睡眠中、適切な湿度を保つため、湿気を吸収する珪藻土(けいそうど)を用いた、日本古来の特殊な壁になっています。
最後に、快い眠りにつながる音の条件とは?
堀内さん:「騒音の場合は、年齢によって若干影響が異なります。若い方の場合は、40デシベルくらいの音でも充分眠ることができます。高齢者の方は、30デシベルになります。40デシベルは、静かな昼間の住宅地の背景騒音のようなものです。30デシベルは、夜中の住宅地の背景騒音くらいです。」
ところで、この部屋、どのような方が利用されているのでしょう?
ロイヤルパーク汐留タワー マーケティング支配人・田上秀夫さん:「20〜60代の幅広い年代の方にご利用頂いております。男性、女性の比率もほぼ同じくらいの割合です。」
最近、快適な睡りを味わっていないとお悩みの皆さん、一度泊まってみてはいかがでしょう?
不眠のクスリ
心地よい睡眠をタップリと楽しめない。それが不眠の苦しみ。
現在、不眠解消のため、成人の20人に1人が睡眠薬を使っていると言われています。
Q:では、睡眠薬には、どのような種類があるのでしょう?
北里大学薬学部 病院薬剤部長・厚田幸一郎先生
厚田先生:「ベンゾジアゼピン系製剤が睡眠薬の主流です。特徴は、安全性が高く、耐性(抵抗力)」が生じにくいことです。作用が確立されていて使いやすい薬剤です。」
現在、睡眠薬として主に使われているのは、「ベンゾジアゼピン系製剤」。ただし、その症状によって種類は分かれています。
寝つきが悪く、なかなか眠れない入眠障害の患者さんに使われるのは、「超短時間作用型」「短時間作用型」といったタイプの睡眠薬。即効性があり、服用すると、すぐに効き目が現れて眠くなります。
薬の効き目が現れている時間は、超短時間のタイプは2時間から4時間、短時間タイプは3時間から6時間と、短いのが特徴です。
つまり、寝つきを助けたところで薬の効き目はなくなりますから、翌朝起きた後、眠気が残らないのが特徴です。
一方、夜中に何度も目が覚める中途覚醒や、朝早くに目が覚める早朝覚醒の患者さんには、「中間作用型」と「長時間作用型」の睡眠薬が用いられます。
このタイプの睡眠薬は、服用すると効果が長く続くのが特徴。
中間型は12時間から24時間、長時間型になると、実に24時間以上に渡って睡眠効果が持続します。
Q:これら睡眠薬の使用上で注意する事はありますか?
厚田先生:「睡眠薬を1ヶ月以上服用している方は、急にやめないことが大事です。少しずつ薬の量や回数を減らしていくようにしましょう。」
Q:市販の薬は、どんな時に使えばよいのでしょう?
厚田先生:「一時的な不眠の場合に使用しましょう。」
市販薬には、不眠症や神経症に効き目があるとされる、トウキやシャクヤクなど9種類のハーブを配合したクスリもあります。自律神経の乱れを整えることで、身体を正常な状態に戻すという働きがあります。
睡眠薬は症状が一時的な場合には市販のものを、長く続く場合は、医師の処方による薬を用いるようにしましょう。
自分に一番合う寝具を見つけて、快適な眠りを手に入れたいですね。 |
私は寝る時にリラックスするために、バラの香りのアロマキャンドルをつけています。音楽を聞いたりもしていますよ。 |