どうして“花粉症”になる?


スギ林から立昇る花粉です!
空気中に激しく飛び散る様子は、荒れ狂う吹雪の如し。こんな勢いで飛んでこられたら、ひとたまりもありませんね。
このスギの花粉を、電子顕微鏡で2000倍に拡大してみると、こんなミニトマトのようなかわいい形をしています。
しかし、これがひとたび身体に入ると、くしゃみ、鼻水、鼻づまり。
そして、目のかゆみ・・・といった具合に、花粉症ならではの辛い4大症状を引き起こします。

しかし、花粉が入ると、どんな変化が身体に起るのでしょうか?
私達の身体で、花粉が一番入りやすいのは鼻。
空気に乗って鼻の孔から入った花粉は、鼻の粘膜にくっつきます。
これは200倍に拡大したスギの花粉ですが、この花粉には、一つ仕掛けがあります。
スギの花粉は鼻の粘膜に取り付くと、パカッと割れます。この中身が、花粉症を引き起こすのです。
これが粘膜から体内に侵入すると、身体の免疫機能は、これを異物として認識。
この時、ある物質を作り始めます。
これが、IgE抗体です。
一回作られ始めると、花粉を吸うたびに新たなIgE抗体が作られ、次第次第に体内に溜まって行きます。それはまるで、コップの中に水が注がれて、溜まって行くようなもの。
そしてある時、体内に溜まったIgE抗体が、その人の限界量を越えると、コップから水が一気にこぼれ出るように、花粉症の症状が起こり始めるのです。
身体の中に充満したIgE抗体は、鼻などの粘膜の細胞にくっついています。
これが、花粉症の一歩手前の状態。
この時、鼻の粘膜に再び花粉の中身が入って、IgE抗体とくっつくと、花粉を身体の外に追い出すため、ヒスタミンという物質が作られます。
このヒスタミンが、くしゃみや鼻水、鼻づまりなどの症状の源なのです。
では、その際、鼻の粘膜はどんな変化を起こすのでしょう?
これは、内視鏡で見た、花粉症の人の鼻の粘膜です。
正常な人の粘膜と比べると、赤く腫れているのが分かります。
侵入した花粉を撃退するため、IgE抗体が働くと、鼻の粘膜の血管が拡がり、血液が集まります。
こうして、血液が充満するため、粘膜は赤く腫れ上ってしまうのです。
この腫れこそ、いわゆる鼻づまりの原因。

一方、目のかゆみは、どのようにして起こるのでしょうか?
目のかゆみも、やはり、目の粘膜に花粉がくっつくことが始まり。
鼻と同じように、目の粘膜でもヒスタミンが分泌され、かゆみが起こるのです。
目の場合はかゆみの他にも、涙が次から次へと出てきたり、目が充血するといった症状が起こることがあります。

日本医科大学・大久保公裕先生に伺いましょう。
先生は、花粉症の専門医で、厚生労働省の花粉症対策のメンバーでもあります。

Q:さて、毎年、同じ時期に辛い症状を起こす花粉症ですが・・・、親から子へと遺伝する、というのは本当でしょうか?
大久保先生:「内面的要素として遺伝は非常に大きいです。そして、外面的には身の回りの環境です。同じ遺伝の因子を持っていても、スギ花粉の多いところにいる人の方が花粉症になりやすくなります。日本人の20%が花粉症にかかっています。誰もが花粉症を発症する可能性があるのです。」

Q:では、まだ花粉症にかかっていない人は、何に気をつければよいのでしょう?
大久保先生:「スギ花粉に出会うと、Ige抗体を作りやすくなるわけです。ですから、なるべくスギ花粉に出会わないようにすることが、これから先の花粉症を抑えることにつながります。マスクをすることも大切です。」
花粉症の人は症状が悪化しないために、まだ花粉症でない人は、花粉症にかからないために、これからの時期、普段からマスクをして花粉になるべく触れないよう注意して下さい。

“花粉症”の発見


時は今から約200年前の19世紀。
イギリスの農民たちの間で、奇妙な病気が発生しました。
それは、牧草を刈り取って乾燥させているとき、突然、発作のようにくしゃみが始まり、鼻水や涙が止まらなくなるという病気。

1819年、イギリスの医師・ボストックは、この病気を医学会で初めて報告しました。
このとき、つけられた病名は・・・・枯草熱(こそうねつ)。
当時は、病気の原因が干し草の臭いによる刺激に違いないと考えられていたからです。

それからおよそ50年後の1873年。
イギリスのブラックレーは、枯草熱の原因が、臭いではなく花粉にある事を明らかにしました。
実は彼自身も枯草熱に悩んでいました。そこで、自分の肌に花粉を塗ったり、患者に吸わせたところ、鼻水やくしゃみの症状が現れたのです。
この時、実験に使われたのは、「オーチャードグラス」。牧草の花粉。
この時、花粉が原因でアレルギー症状が起こることが、世界で初めて発見され、「花粉症」と名付けられました。
では、日本で現在、猛威を奮っているスギの花粉症は、どのように発見されたのでしょう?

昭和38年、東京医科歯科大学耳鼻科の医師・斎藤洋三は栃木県日光市の診療所に赴任しました。
日々、患者を診ていた斎藤はあることに気づきました。
「春先になると、目のかゆみや、鼻水やくしゃみが止まらない人が多い・・・。
これは、もしかして花粉症では・・・?」
斎藤は早速、調査を開始しました。
やがて彼は患者が現れる時期と、日光市の名物、スギの花粉が飛ぶ時期が同じ2月上旬である事をつきとめます。
そこで斎藤洋三は、鼻水や目の痒みなどの症状を訴える患者に、スギの花粉を使って、アレルギー反応のテストを行いました。
すると患者たちの反応は全て陽性!
斎藤洋三はこの病気に「スギ花粉症」と名付け、発表しました。
こうして昭和39年、斉藤洋三によって報告されたスギ花粉症は、新たな花粉症として、世界で認められたのです。

“花粉症”のクスリ


花粉症のクスリは、主に、3つのタイプに分かれています。
まず、ヒスタミンの発生を抑える薬。
鼻の粘膜で花粉とIgE抗体が接触した時、粘膜の細胞からヒスタミンが分泌されます。
そこで、粘膜の細胞からヒスタミンが分泌されるのを防ぎ、花粉症の症状を和らげます。

次は、ヒスタミンの働きを抑える薬です。
この薬は、粘膜の細胞から分泌されたヒスタミンに働きかけ、その機能を抑えて、花粉症の症状を和らげます。

3番目は、鼻や目などの粘膜のはれを鎮めるという働きをする薬です。
点鼻薬が多く、所的に効果を発揮、粘膜のはれを鎮める働きがあります。
この3つのタイプを、病院では症状により、使い分けています。

Q:ところで、花粉症の薬は早めに服用すると良いというのは本当でしょうか?
大久保先生:「2月中に薬を飲み始めると、3月になっても症状は軽くすみます。2月初旬から薬を飲み始めましょう。」

また、病院で処方される薬に入っている成分、フマル酸ケトチフェンが、最近は一般薬局の店頭で買える市販の花粉症用の薬にも使われ始めています。

そこで、このタイプの薬についても、ご紹介しましょう。

桑原薬局・薬剤師 桑原辰嘉さん

桑原さん:「この薬には、花粉症の症状を引き起こす原因となる物質の発生を抑える働き(ヒスタミンの発生を抑える)があります。そして、くしゃみや鼻水、鼻づまりを抑える働きや、鼻や目の粘膜のはれを鎮める働きの3つがあります。この3つの働きが、花粉症を抑えるのに最適です。」

Q:例えば、このカプセルタイプの薬には、どういう特徴が?
桑原さん:「カプセルは長時間効果が続くよう工夫してあります。1日2回、朝と晩に飲めば効果がえられます。」

Q:では、こちらの点鼻薬タイプの特徴とは?
桑原さん:「くしゃみや鼻水、鼻づまりなどの症状を抑えるために、鼻の粘膜に直接噴霧するので即効性があります。症状がつらいときに使うと良いでしょう。」

Q:カプセルタイプと点鼻薬、二つを併用しても良いのでしょうか?
桑原さん:「症状が軽い間はカプセルを使い、辛い症状が重なったときは点鼻薬を併用して使うと良いでしょう。」

Q:クスリは、花粉がたくさん飛ぶ前から使うと、より効果的ということですが・・・?
桑原さん:「症状を少しでも軽くするために、花粉予報などを見ながら、花粉が飛び始める1〜2時間前から使うと、症状が重くなるのを防ぐことができます。」

症状に合わせて、カプセルや点鼻薬を上手に使い、今年は花粉症の辛い症状を抑えて下さい。
早めの対策で、ひどくならないようにしていきたいですね。
今年は花粉が少ないといいですね。今年は花粉が少ないといいですね。