“痔”に悩んだ歴史上の人物と治療法の歴史
世の東西を問わず、歴史上には痔に苦しめられた有名人がいました。
1800年代、フランスで痔に苦しんだ有名人は、なんと生きたヒルを治療に使っており、一方、江戸時代の日本で苦しんだ有名人は、ある植物を治療に用いました。
フランスで、痔に苦しめられた有名人。それは誰あろう、当時の最高権力者である皇帝、ナポレオン!
馬に乗る軍人であったためか、28歳で痔を患い、51歳で波乱の生涯を閉じるまでの長い間、痔の痛みに苦しみ続けました。
ナポレオンが患ったのは、イボ痔。
1815年、ナポレオン、最後の戦場として歴史に名高い「ワーテルロー」。
ここで彼は、ヨーロッパ連合軍に大敗するのですが、実はこの敗戦、痔の痛みが原因ではないかという説もあります。
ナポレオンと痔の関係について、詳しく調査して書かれた本によりますと、ナポレオンは痔の痛みで、ほとんど一晩中まんじりとも出来なかった。結果、集中力を欠き、戦に敗れてしまったというのです。
そこでまで苦しめられていた痔に対してナポレオンが治療に使っていたものとは・・・?
なんと、生きたヒル!
当時のヨーロッパでは、悪い血を生きたヒルに吸わせるという治療方法が流行っていたのです。
かたや、江戸時代の日本で、痔の痛みに苦しめられていたのは・・・?
俳句の世界において不世出の人物、松尾芭蕉。
芭蕉が、東北・北陸・近畿地方を160日間かけて歩き、書き残した「奥の細道」。
こちらには、「持病が起こり、死にそうな思いをした」と記されています。
その芭蕉を苦しめた持病とは、切れ痔。
切れ痔であった芭蕉は、奥の細道を旅していた間も常に痔の出血に苦しみ続けていたのですね。
この時代に痔の薬として主に使われていたのは、アカメガシワという植物の花から作ったもの。アカメガシワには、「ペルゲニン」という炎症を抑える成分が含まれています。
そこで、その花を蒸し焼きにしてすり下ろし、患部に塗る。すると痔の腫れや痛みが治まったそうです。
江戸時代から時は流れて、文明開化の明治時代。
その頃、痔に悩まされたのは、『坊ちゃん』や『我輩は猫である』で知られる文豪、夏目漱石。
彼は長年、痔ろうに悩まされ、実に2回に渡り手術を受けています。
当時、痔ろうの手術は今と違い痛みが激しく、なんとその経験は漱石最後の小説「明暗」にまで描かれています。『明暗』は、主人公が痔の診療を受ける場面から物語が展開しているのです。
そして漱石と親友であり、日本の歴史に残る俳人、正岡子規。
彼もまた痔ろうを患い、その痛みには非常に苦しめられていたようです。
これは、漱石と子規の間で長年に渡って交わされた手紙をまとめた本ですが、子規は同じ悩みを知る親友、漱石に宛て、「痔疾ニ秘結ナドトクルト後ヘモ先ヘモイカズ」痔ろうに苦しめられた経験を切々と書きつづっています。
このように、一日中座っている作家や、馬に乗ることが多い軍人など、痔は古くから多くの有名人を悩ませてきた病気だったのです。
どうして“痔”になる?
トイレの度に激しい痛みに出血が!椅子に座る時にもイタタタタタ!こんな辛い症状の痔。
現代の日本ではなんと3人に1人が、痔の持ち主と言われています。
どうして人は痔になるのか?
この疑問について先生に伺いました。
岩垂純一診療所・岩垂純一先生。
岩垂先生:「肛門に対する日常生活の負担が原因です。
一番の負担は、便通異常、つまり便秘や下痢です。」痔の最大の原因は便秘と下痢。便秘で硬くなった便は肛門を傷つけます。
一方、下痢の場合は、便が肛門を猛烈なスピードで通過して行くため、肛門や直腸の粘膜がダメージを受けます。
痔には大きく分けて3つのタイプがあります。
患部が切れる、切れ痔。
イボのようなものが出来る、いぼ痔。
肛門の内側から穴があく痔ろう。
岩垂先生:「男女共に、痔を持っている人の半数を占めているのが痔核(いぼ痔)です」
痔核、つまりいぼ痔には、直腸側に出来る内痔核と、肛門部分に出来る外痔核があります。神経のない直腸に出来る内痔核は痛みがありませんが、外痔核には辛い痛みがあります。
肛門の内側には、肛門がしっかりと閉じられるようにクッションの役割をしている粘膜があります。
しかし、便秘による硬い便や、下痢の時に便が早く流れると、粘膜はこすられ緩んでしまいます。
つまり粘膜が緩んだものがいぼ痔なのです。
この状態で、更に便が擦り続けると、粘膜の中にある血管がうっ血。内出血をおこし、血栓を作ります。
この状態を血栓性のいぼ痔と呼んでいます。
この血栓性のいぼ痔が、何かの弾みで傷つけられると出血を起します。
いぼ痔は痔の中でも最も出血量の多い痔なのです。
では、もう一つの痔、切れ痔とは?
切れ痔は便秘を起こしがちな女性に多いのが特徴です。
では、どうして、肛門が切れてしまうのでしょう?
肛門は通常、便が出ないよう、肛門括約筋によって締め付けられています。
そこを便秘によって硬くなった便が通ると、肛門を無理に押し広げ、傷を作ってしまうのです。
岩垂先生:「だんだん進んでいって潰瘍になってしまう場合があります。」
潰瘍に変化した切れ痔は、傷のところが大きくえぐれたようになっています。出血は少ないのですが、痛みが長く続く特徴があり、患者さんを苦しめます。そして最後が痔ろう。
痔の中でも最もやっかいな痔です。
岩垂先生:「痔ろうは直腸、肛門の感染症です。これを治すには手術しかありません。」
痔ろうにかかった肛門は、穴の開いている患部と肛門が実はトンネルのような状態でつながっているのが特徴です。直腸と肛門の境目には、6個から12個の小さな窪みがあります。
下痢をすると、大腸菌などの細菌がその窪みに入り込みます。
このとき、体力が落ちていたりすると、大腸菌がくぼみに感染して化膿を起こします。
このとき、お尻は腫れて激痛が起こり、38度以上の熱が出ます。
さらに症状が進行すると膿の溜まった部分から、お尻のやわらかい組織に沿って穴が作られ、お尻の皮膚を貫通。
辛い痔を予防するには、第一に便秘や下痢などで、お尻に負担をかけないようにすること。
そして同時に、肛門周辺を常に清潔にする事が大切です。
“痔”のクスリ
座るも地獄、立つも地獄。そう言いたくなる程、痛く辛いのが痔。
しかし、手術しか治療方法のない痔ろう以外は薬で治すことが出来ます。
でも痔の薬といってもその種類は様々。
薬剤師・高橋洋一さん
高橋さん:「外から塗れる場所なのか、塗れない場所なのかで薬を使い分けましょう。」
痔の薬といえば、一般的に軟膏と坐薬。
どちらのタイプにも、ほぼ同じ成分が配合されています。
炎症を抑える酢酸ヒドロコルチゾンをはじめ、およそ8つの成分が配合され、痔の痛み、腫れ、出血の症状を和らげてくれます。
基本的に、肛門の外側に出来た痔なら軟膏。肛門の中に出来た場合は坐薬、といった具合です。
高橋さん:「最近では長時間、患部にとどまる静止型の坐薬があります。」
このタイプの坐薬は、肛門に挿入してから痔の出来た部分に、薬がとどまり、長時間に渡って効果を発揮します。最近、軟膏にも肛門に注入して使うタイプが登場しています。
静止型の坐薬と同様、患部にとどまり、長時間効果を発揮してくれます。
患部の場所に関係なく使える注入式の軟膏は、どんな痔にも対応出来る画期的な薬なのです。
さらに、フォームタイプの痔の薬もあります。
このクスリは排便の後に使用します。
痔の治療は、何よりも肛門を常に清潔に保つことが大切!
トイレットペーパーに親指大の泡を出して使います。すると、ソフトな泡が痛みを和らげ、同時に肛門周辺の汚れもきれいに落としてくれます。
このクスリには、痛みを和らげる成分だけでなく、肛門部を殺菌・消毒する成分も配合されています。
高橋さん:「痔の薬には内服薬もあります。これは古くからの漢方処方を応用した薬で、痔を早く治すという効果があります。」
痔の原因である便秘。その便秘を和らげる事で痔を治す。それが漢方成分をベースにした飲み薬の特色。乙字湯というダイオウやカンゾウ、トウキなどが配合された薬で、便を軟らかくすると同時に患部の血行を良くして、粘膜のうっ血を改善する効果も発揮します。
痔を早く治したい皆さん、飲み薬を使って、まず便を正常な状態にしてから、坐薬や軟膏を併用して使うと、一層効果的ですよ!
生活習慣に気をつけて、まずは予防が大切ですね。 |
日本では3人に1人が痔になっているなんて驚きました。 |