どうして食べすぎてしまう?


忘年会シーズン、真っ盛り!
飲んで、食べて、食べて、飲んで・・・
上司に誘われ、仲間を誘い、盛り上がったら歯止めはきかない!今夜もついつい食べすぎた!!

一体どうして?!

実はこの時、脳の中では食欲を暴走させてしまう物質が大量に作られています。
それが、ドーパミンです。
ドーパミンは、脳の視床下部という場所にある、摂食中枢を刺激して、食欲を増進させる物質です。
目から飛び込んでくるおいしそうな料理、そして鼻をくすぐる匂い、耳から入ってくる友人達との楽しい会話。これらは、視覚や嗅覚、聴覚への強い刺激になり、ドーパミンを大量に発生させるのです。
大量に発生したドーパミンは、摂食中枢を刺激し続けます。こうして、「何か食べたい」、「もっと食べたい」という指令が止まらなくなり、どんどん食べてしまうのです。

そして、忘年会の席で食欲をさらに増進させるものがもう一つあります。
それは、お酒。
お酒を飲むと、脳の中枢神経には軽い麻痺が起こり、食べるのをやめるという歯止めが緩んでしまいます。
その上、お酒を飲むと、「もう満腹です」という指令が出なくなってしまうのです。
その犯人は、インスリン。お酒を飲むと、インスリンの効き目が悪くなります。
本来、インスリンは食事によって、血液中に増えすぎたブドウ糖を身体に蓄えるなどして血糖値を下げるために働いています。
ところが、お酒は、このインスリンの効き目を悪くしてしまうのです。
すると、すい臓は、これに対処しようとインスリンの量を増やします。
この時、血液中のブドウ糖が、いつもより減ってしまうのです。
こうなると、本来は、ある程度食事をすれば「もう満足だ」という指令を出す満腹中枢が働かないため、どんどん食べたくなってしまうのです。

ところで、深夜まで残業をしたとき、身体に悪いと知りつつ、のれんをくぐり、「ビールにギョーザ」!!
さらに!「ラーメン、大盛りね!」な〜んてこと、ありませんか?
仕事のストレスで疲れきっている、あなたの脳からは食欲を抑える物質が大量に失われているのです。
その物質は、セロトニン。
セロトニンは、感情をコントロールし、気持ちを穏やかにする物質。ストレスがかかると、セロトニンは大量に失われます。
このとき、脳はストレスをやわらげるため、ドーパミンを大量に発生させます。
結果、ドーパミンによって食欲が暴走し、たくさん食べてしまうのです。

こうして、忘年会の誘惑や残業のストレスが嵐のように押し寄せるこの時期、食べすぎ飲みすぎで、あなたの胃は深刻なダメージを受けていくのです。

食べすぎ、飲みすぎた時の胃の中はどうなっている?


欲望に負けて、ついつい食べすぎたり飲みすぎたり・・・
そんなとき、私たちの胃の中はどうなっているのでしょう?

食べすぎると、胃に大量の食べ物が溜まります。
このとき、胃酸を出して消化しようとしても消化は追いつきません。
そのため、食べ物が十二指腸には流れず、胃の中にとどまることとなるのです。
食べものが胃のなかにとまっている時間は食べたものによって異なります。
ステーキなどは4時間以上も胃の中にいるのです。
つまり、忘年会などで脂っこいものを食べ続けていると・・・
消化されるまでに時間がかかり、いつまでもムカムカする、胃が重いといった胃もたれが起こるのです。

さらに、食べ過ぎると胃がパンパンに膨らむため、蠕動運動の力が弱くなったり、スピードも低下します。
すると、食べものは余計にいつまでも胃にとどまり、「胃もたれ」の症状に拍車をかけます。
「胃もたれ」の他に、食べすぎ、飲みすぎで胃がしくしく痛むこともありますよね。
この「胃の痛み」は、食べものによる刺激が原因。
特に胃を刺激するのは熱いもの、冷たすぎるもの、そして辛いもの。
これらの刺激物は、胃の粘膜を刺激し、炎症を起こさせるのです。
ご覧下さい!赤くただれてしまった胃の内部。
左側の正常な胃と比べると、粘膜が炎症を起こしていることが分かりますね。
粘膜が炎症を起こしてしまうと、粘膜の下にある神経が刺激され、胃がしくしく痛むことになるのです。

駿河台日本大学病院・小橋恵津先生に胃の痛みの原因について伺いました。

小橋先生:「一番は胃酸の刺激による痛みが多いです。」
胃の一番の大敵は、食べものを消化する胃酸。
胃の表面の粘膜は、本来、粘液によって胃酸から守られていますが、お酒をたくさん飲みすぎてしまうと、アルコールが胃の粘液を取り去ってしまうのです。
すると、胃酸が粘膜を消化してしまい、傷つけることになります。
さらに、胃だけではなく・・・
小橋先生:「胃が大きくなり横隔膜を刺激すると痛みが出ます。」
食べ過ぎ飲みすぎは、横隔膜、そして腸にまで影響を与えます。
胃で消化された食べものは、十二指腸を通って小腸に送られますが、一度にたくさんの食べものが送られると小腸のぜん動運動の機能が低下。けいれんのような動きをしたり、ぜん動運動をやめてしまうことさえあるのです。
小橋先生:「お腹が張って、腸が動くときにそこに痛みが出ます。」
胃が痛い・・・と思っていたら実は、腸の痛みだったということも少なくありません。
食べすぎ、飲みすぎがあなたの胃腸を痛めつけることだけは間違いないのです!

食べすぎ飲みすぎのクスリの歴史


今から1400年前の奈良時代。
遣隋使として隋の国に派遣されていた小野妹子が日本にある薬を持ち帰りました。
古代中国の薬物書、「本草綱目」にも記述が残っているその薬とは・・・?
カラスに梅と書く「烏梅(うばい)」。
「本草綱目」によると、「烏梅」という薬は「唾液を出させて消化を助ける」とあります。

では、「烏梅」の正体とは・・・?
実は、これ、梅の実を燻製にしたもの。
まるで、カラスのように真っ黒であることから烏に梅という字があてられたそうです。
梅に含まれるクエン酸が、胃や腸で殺菌作用を発揮するため、烏梅は食べすぎ飲みすぎの薬として紹介されたのです。

やがて平安時代になると塩漬けにして干すという「梅干」が作られるようになり、私達の生活に胃腸の薬として長く関わるようになります。
平安中期には、この梅干がいかに優れた薬として重宝されたかを示すこんな記述が見られます。
「天皇 病気にかかりたまいしが 梅の茶を服したまえば病気たちどころに平癒す」
当時の天皇が、はやり病にかかったとき、梅干と昆布入りのお茶を飲んだところ、たちまち治ったという記録。
梅干はさぞかし、人々にもてはやされたことでしょう。

戦国時代。
武士たちは、優れた効能をもつ梅干をなんとか持ち歩きたいと考えました。
そこで作り出したのが、梅干丸(うめぼしがん)。
これは、梅干の果肉と玄米の粉、そして氷砂糖をあわせて練りこんで作った丸薬です。
梅の効能により、武士が喉の渇きを潤すのにとても役立ちました。
さらに、梅干しに加え、玄米を入れたのは栄養を補うためであり、氷砂糖は甘味を加えて飲みやすくするためというように知恵を絞って作り出された丸薬でした。

そして江戸時代になると梅干しは、一般庶民の間で縁起をかついだ習慣としても広まりました。
それは、大晦日や節分の夜、梅干に熱いお茶を注いで飲むという慣わし。
こうして飲むと、「福を呼び込む」といわれ、「福茶」と呼ばれていたのです。
縁起がよいこともありますが、食べすぎ飲みすぎに効果がある飲み物として、大晦日や節分に定着したとも言われています。

梅干とは別に食べ過ぎ、飲みすぎに効くとして中国から伝わった漢方薬。

「安中散(あんちゅうさん)」。
主に7種類の生薬を混ぜ合わせたもので、平安時代に、当時の唐の国から伝えられたものです。
7つの生薬の配合は、今もなお変わらず伝えられているほど!
安中散の「中」とは「お腹」を意味しており、お腹、つまり胃腸などを安らかにする薬という意味です。
7種類の生薬のうち、代表的なのがエンゴサク。
香の素となる成分、精油成分がたくさん入っていて、食べすぎて疲れた胃の働きを活発にします。
この安中散は平安時代から、今もなお食べすぎの薬として使われ続けているのです。

胃腸薬の種類・正しい選び方


どの胃腸薬が自分に効くのか?
まずは、選び方から薬剤師さんに伺いましょう。
薬剤師・上村直樹さん 

上村さん:「食べすぎでも飲みすぎでも、症状で薬を選びます。食べすぎで胃がもたれたときは、消化酵素の入った薬を選びましょう。」
消化不良、つまり、食べすぎで胃がもたれているとき、胃腸薬は消化酵素が入ったものを選びましょう。
消化酵素の入った胃腸薬は、胃に残っている食べ物の消化を助けて、すっきりと胃もたれを改善してくれます。
上村さん:「胃酸がたくさん出てしまっているときは、胃酸の分泌を抑える薬を選びます。」
飲みすぎた翌日、胃が痛い・・・こんなときは、お酒で粘液が取り去られた粘膜が胃酸によってダメージを受けています。
胃腸薬は、H2ブロッカーが入ったものを選びましょう。

胃酸がなぜ分泌されるか?
それは、「ヒスタミン」という物質が、胃粘膜にある「ヒスタミン受容体」に結びつくから。
ヒスタミンが結合すれば、胃酸が分泌されます。
そこでヒスタミンが結合するのを邪魔して、胃酸の分泌を抑えてくれるのがH2ブロッカーです。
飲みすぎで粘膜がダメージを受けているときは、この薬で胃酸の分泌を抑えましょう。

続いて、食べすぎ飲みすぎで、胃の不快感があったり、吐き気があるようなときは…?
胃腸薬は、ソファルコンが入ったものを選びましょう。
ソファルコンという成分は、胃の粘膜に粘液のバリアーを作ってくれます。
このバリアが、粘膜を保護して荒れた胃を修復してくれます。

不規則な生活が続き、このところずっと胃腸の調子が悪いという方は、胃腸薬は漢方がベースのものを選びましょう。
慢性的に弱ってしまった胃や腸には、安中散や芍薬甘草湯のエキスが配合された胃腸薬がやさしく効きます。
芍薬甘草湯は胃腸の壁を作っている筋肉をほぐし、安中散は胃腸の運動を促進する働きがあり、どちらも昔から効果が実証されてきた漢方薬です。

このように生薬が主な成分の胃腸薬には、ドリンクタイプのものもあります。
ここに使われているのは、主に「五苓散(ごれいさん)」と「黄連解毒湯(おうれんげどくとう)」。
飲みすぎたときに胃腸にたまった水分やアルコールの排泄を促してくれるのが「五苓散」。
そして、「黄連解毒湯」は、アルコールやストレスによって荒れてしまった胃の粘膜を修復してくれます。

昔からの漢方を始め、弱った胃腸を助けてくれる薬の存在。
上手に使って、飲みすぎ、食べすぎから、あなたの胃腸を守って下さい。
あくまでも“別腹”と言っているだけかななんて思っていましたが、本当にそんなことが起こっていたとは驚きですね。
本当に“別腹”があったなんて!…ショックです(笑)