「口内炎」とは?


ある日突然、何の前触れもなく現われ、口の中に痛みをもたらす「口内炎」。
これって、一体どういう病気なの?
依田先生「一般的に口内炎として知られているものは、アフタといいます。アフタとは、粘膜にできる潰瘍のことです。」
潰瘍とは体内の粘膜が、何らかの原因で傷つき、えぐられている状態のこと。
口の中の粘膜に出来た場合、特に「口内炎」と呼んでいます。
「口内炎」は、大きさは直径1ミリ程度のものから、1センチくらいのものまでと様々です。
口の中の粘膜なら、舌、頬の内側など、どこにでもできます。
発症のメカニズムは、まだ不明瞭ですが、いくつかの原因が挙げられています。
1つめの原因は、栄養の偏り。
例えば、何らかの理由で体内のビタミンB群やビタミンCが不足すると、その結果、口内炎ができる場合があります。
また女性では、出産後や月経時など出血のあった際にできやすいため、鉄分の不足も口内炎を招くと考えられています。

2つ目に挙げられる原因。
それは、様々な理由で口の中にできた傷!
食事の際などに誤って口の中を噛んでしまったり、熱い物を食べ、口の中に火傷を負った跡が口内炎になることがあります。

そして、3つ目の原因とされるのが、だ液の分泌不足!
だ液には、元来、口の中を清潔にする働きがあります。
しかし、ストレスなどが原因となって唾液の分泌不足が起きると、口の中の菌が繁殖してしまい、口内炎ができやすくなります。
口内炎にかかった場合、一度に複数のアフタが出来ることも珍しくありません。
また、1度出来ると、短期間に繰り返して出来ることが多いのも特徴です。
依田先生「免疫力の低下、栄養の偏りなどがベースにあると、再発しやすいのではないかと言われていますが、実際はまだよく分かっていないのが現状です。」

口内炎にかかったら、どんなことに注意すればよいのでしょう?
依田先生「アフタ性の口内炎は乳幼児にもできることがあります。乳幼児は自分で痛いと知らせることができませんから、例えばよだれが多い、食欲がないなどの症状が出たときは、早めに見つけてあげて下さい。」
5歳以下の乳幼児が口内炎にかかると、痛みのため、水を飲むのも嫌がることが多いもの。
もし発見が遅れると、脱水症状を起こしかねないので注意が必要です。

「口内炎」のクスリの歴史


口内炎に関する薬。
それは紀元前から、すでに世界各国に存在していました。

まずは、古代ギリシャで使われていた薬から御紹介しましょう。
それは、今でも南ヨーロッパに多く見られる、“甘草”。
甘草に含まれているグリチルレチンには、抗炎症作用があり、現在でも口内炎のクスリの重要な成分です。
また、甘草は解毒・痛み止めの漢方薬として用いられています。

一方、時代も場所も全然違うのに、同じ材料だったのがエジプトと北アメリカ。
どちらの地域でも、伝統的な口内炎の薬として、現地の人々が古くから使っていたのは、“木の樹脂”!

まずは、紀元前1500年のエジプト。
当時のエジプト医学を記した書物「エーベルス・パピルス」に、口内炎の薬として挙げられているのは、“エジプトイチジクの実”!
この実には痛みを和らげ、炎症を鎮める成分が含まれていました。
古代エジプトでは、そこにもうひと工夫を加えました。
イチジクの実に裂け目を入れ、その中に乳香樹の木から採れる樹脂を入れ、これを噛んでいました。
実は、この乳香には止血作用があり、口内炎からの回復を早めてくれたのです。

一方、時と場所を大きく隔てた15世紀の北アメリカ大陸。
こちらの先住民も、口内炎の治療にある木の樹脂を使っていました。
それは、“柿の木の樹脂”。
アメリカ原産の柿の木の樹脂にも、やはり止血効果があったのです。
そこで、先住民たちは柿の木の樹脂を煮て、口内炎の傷口に当て、治療に当てていました。

このように古代の人々は、ごく身近な植物を、口内炎の薬として使っていたのです。

「口内炎」のクスリの選び方と正しい使い方


現在、口内炎のクスリとしては主に、液体タイプ・軟膏タイプ・シールタイプ、この3種類が市販されています。
これらの薬は、どのタイプも同様に2つの成分を必ず含んでいます。

1つ目の成分は「シコンエキス」。
シコンエキスには、傷ついた口の中の粘膜を修復する働きがあり、口内炎からの回復を早めてくれます。

2つ目は、昔からずっと使われていた甘草の成分、「グリチルレチン酸」。
抗炎症作用があるため、口内炎による粘膜の炎症や、口の中の腫れなどを鎮めてくれます。

次に、それぞれのタイプの薬に関する特徴を見てみましょう。
まずは、液体タイプの薬。
液体タイプの場合、口内炎の痛みに対する刺激が少なく、また、塗った後口の中に違和感が残らないといった長所もあります。
そこで、こんな時に使うと効果的です!
薬剤師・上村直樹さん
上村さん「液体は、あまりひどくないときに使います。例えば、軟膏やシールタイプで違和感を感じてしまうお子さんに使われると良いでしょう。」

次は軟膏タイプの薬。 口内炎の出来た患部に、直接すり込むように塗って使います。
このタイプには油が含まれており、唾液や水を弾き、薬が取れにくいのが特徴です。
上村さん:「軟膏は、長時間効果があります。そして、熱いもの、酸味のあるものから保護してくれます。」

最後に、シールタイプの薬。
シールが患部をしっかり保護してくれるため、薬の成分がだ液に流されたりせず、患部に長くとどまるのが長所です。
そして、どのタイプの薬でも効果をより高めてくれるのが・・・?
上村さん:「口の中を清潔にして、食後や寝る前に薬を使うと効果的です。」
薬を上手に選び、口内炎の痛みや口の中のうっとうしさから、なるべく早く解放されるようにしましょう!

危険な口内炎とは?


口内炎には、どんな病気が潜む可能性があるのでしょう?
依田先生:「外部からのウイルスでできる口内炎があります。その代表的なものがヘルペス性口内炎です。」
もしも、私たちがヘルペスウイルスに感染すると、発熱や食欲不振といった症状が現れます。
同時に、唇や口の周り、口の中の粘膜のいたるところに、水泡がいくつも現れますが、これが破れて出来る口内炎は、食事や歯磨きもできない程の激痛を引き起こします。

一方、口の中の細菌が原因となって起きる危険な口内炎もあります!
依田先生:「代表なのが、カビの一種であるカンジダ菌が原因で起こる口腔カンジダ症です。」
カンジダなど、口の中にもとからせい息している細菌類は、本来は唾液の働きなどによって、その繁殖が抑えられています。
しかし・・・
依田先生:「身体の抵抗力が落ちたり、だ液が減少したりすると、カンジダ菌に感染してしまいます。」
口腔カンジダ症による口内炎の場合は、うずくような痛みだけでなく、食べ物の味が分からない味覚異常などの特異な症状も現れます。

その他にも注意すべき口内炎はありますか?
依田先生:「最も注意しなければならないのが、口内炎とよく似ている症状で、実はそれがガンである場合があります。」
口の中に出来る初期のガン。その見た目は、口内炎と全く変わりません。
しかし、一ヵ月もすると、ガンがみるみるうちに進行。
当初は、単なる口内炎程度に見えたものが、舌ガンだったということもあります。

こうしたガンを早期発見するためには、どんな注意が必要なのでしょうか?
依田先生:「通常の口内炎だと、1〜2週間で治りますが、それ以上続く場合には専門医に相談しましょう。」
たかが口内炎と油断して大事にいたらぬよう、常日頃から口の中を清潔に保つよう心がけて下さい。

おくすりゼミナール『薬育授業』


教えて下さるのは、東京都学校薬剤師会 会長の田中俊昭さん。
今回は田中さんが小学校の授業で、クスリの正しい使い方を教えるそうです。
取材に伺いました。
薬育の授業を受けるのは五年生の皆。
一体どんな授業をしているのでしょう?
田中さん:「こちらは、お薬を入れる本体です。中にいろんな色を入れてあるのには理由があります。例えば風邪薬だったら、頭の痛いのを取るお薬、それから熱を下げるお薬、鼻水を止めるお薬というように、いろんなお薬がこの中には入っているのです。」

皆、熱心に聞いています。
続いては、坐薬が身体の中でどうなるかという実験。
体温と同じ温度のお湯で坐薬を溶かします。すると、坐薬が溶けていきます。
生徒:「すごーい!」
生徒:「溶けてるー!!」
皆、薬の変化にとてもびっくりしています。

今日のお薬の授業はどうだった?
生徒:「面白かったです。実際に薬を使って実験して見るのが楽しかったです。」
生徒:「初めて知ることがいっぱいあって、お母さん達にも教えようと思いました。」
生徒:「薬のことがよく分かった!」

田中さんはどうでしたか?
田中さん:「本当にお薬は大事なものです。こういう話を聞いたことがない子供達に話を聞いてもらって、お家の中の薬のプロになってもらいたいです。このような機会を、これからもどんどん進めていく必要があると思います。」
楽しい実験を通して、分かりやすくクスリの正しい知識を身につけられるのは良いですね。
口の中をきれいにするには、だ液がとても重要な役割をしていたのですね。
口内炎の薬が3種類もあるなんて知らなかったです。軟膏は使ったことはあったのですが、貼るタイプもあったなんて驚きました。