「傷薬」の歴史


紀元前3500年。
シュメール人が、チグリス川、ユーフラテス川の流域にメソポタミア文明を築き始めたその頃に、彼らはすでに500種類もの薬を処方していたと言います。
その中で、傷につける薬として使われていたのがワイン!
ワインの発祥の地といわれるメソポタミアで、彼らはワインを傷口の消毒に使っていたのです。

一方、古代エジプトでけがをしたときに傷口にあてていたものは・・・動物の新鮮な生肉!
当時のエジプト人達は、小さな切り傷や軽いケガをしたときは新鮮な動物の肉で傷口を覆いました。この後、傷口がふさがるまで油やハチミツを塗って治していたといいます。

そして、古代ローマと古代中国では、偶然にも、ある共通点を持つ植物を傷薬に使っていました。
古代ローマでは「アルカンナ」。
地中海周辺で育つこの植物が傷に効くことをローマの医者、プリニウスが「植物誌」の中で紹介しています。
一方の中国で使われたのは、「ムラサキ」という植物。
紀元前2世紀に記された最古の薬物書、「神農本草経(しんのうほんぞうきょう)」。
こちらにはムラサキが、「紫草(しそう)」という名前で傷薬として登場しています。
アルカンナもムラサキも、同じムラサキ科の植物。根を切ると、赤い汁が出ます。この液が切り傷やあかぎれに効果があったのです。
これは現代では、解毒・抗炎症作用がある「ナフトキノン」という成分を含んでいることが分かっています。

そして日本では戦国時代、刀で負った傷を治すために武士達は膏薬を使っていました。
それが「金創膏」。
金創膏は、7種類の生薬を混ぜ合わせたものです。
この中で現在でも傷に良いとされるのが、抗菌作用のすぐれたダイオウ。
止血作用に効果があるジオウ。v そして、鎮痛作用で知られるシャクヤクです。

江戸時代になると、越中富山の薬売りが大流行。
傷のための膏薬もたくさんの種類が出回り、人々は、傷薬を家庭の常備薬として備える習慣をもつのです。

傷を負ったとき、どんなことに注意したら良い?


ついうっかりつくってしまう切り傷、刺し傷、そして、すり傷など放っておけばそのうち治ると思っていませんか?


それぞれの傷について、特に注意すべきことを教えてくださいました。
順天堂大学医学部皮膚科・須賀康先生
ついケガをしやすい場所が台所。包丁で指を切ってしまったときには注意が必要です。
須賀先生:「包丁に付いている雑菌が体内に入ってしまう可能性がありますので、すぐに洗い流すことが大切です。」
特にあるものを切っている包丁で傷を作ったときには要注意!
須賀先生:「魚介類の表面には、雑菌が多いため注意が必要です。」
魚介類を調理しているときの包丁は特に注意が必要なんです。
魚介の表面には、大腸菌、サルモネラ菌、黄色ブドウ球菌がいることがあり、傷口から体内に侵入する可能性があるのです。
このような細菌に感染すると、傷は炎症を起こし、化膿してしまいます。
包丁でできた傷は、必ずすぐに水で洗うようにしましょう。

転んで膝をすりむいたときの傷。ここでも注意が必要!
土の中の雑菌が傷口に入るかもしれないからです。
もし、雑菌がついた傷口をそのままにしていると・・・
須賀先生:「傷口に感染した病原菌は、血液やリンパ液に乗って全身に移動します。」
血液やリンパ液に乗って体中に細菌が運ばれると、熱が出たり、リンパ節が腫れたりします。
抵抗力が弱っていると肝機能や腎機能が低下し、菌が脳に行ってしまうと髄膜炎を発症することもあるのです。
つまり、傷ができたときには細菌に感染しないよう注意しなければならないのです。

包丁の傷や、外でのすり傷以外にも化膿しやすいのが ひげそりでできた傷。
毛穴には実は、表皮ブドウ球菌という菌が住み着いており、普段はおとなしくしているのに傷がつくとそこに感染、化膿しやすくしてしまうのです。

もう一つ注意が必要なのは、画鋲を踏んだときなどにできる刺し傷。
針が皮膚の奥深くまで入り込んでしまうため、細菌も奥まで入ってしまうのです。

そして、ペットを飼っている人。
知っていましたか?猫にひっかかれた時はある病気が心配なんです。
須賀先生:「猫の爪には、バルトネラ菌という特殊な細菌が付いていることが多く、ひっかかれるとバルトネラ菌が皮膚に感染してしまうのです。傷口は炎症反応が起きて腫れてしまいます。」
猫の爪にいる特殊な細菌に感染すると傷が治りにくく、熱が出てリンパ節が痛むといった全身症状も出てきます。

さて、同じ傷でも特に化膿しやすい人がいます。
それは糖尿病の人です。
須賀先生:「皮膚の表面の神経の感覚が鈍くなっているため、傷ができても認識できないのです。」
糖尿病は進行すると、神経障害によって末梢神経が鈍くなり、足の先などにできた傷には気付かないことが多くなります。
さらに、免疫力が低下しているので傷は悪化しやすく、ひどい傷になってしまうこともあります。

ついできてしまった傷をあなどらず、細菌に感染しないように細心の注意を払うようにして下さい。

「傷薬」の効果的な使い方


傷ができてしまったら、傷口をきれいにして薬を付けることが大切!
家庭に常備しておきたい傷薬には、大きく分けて3つの種類があります。

まず最初に、消毒薬を使って傷を殺菌しましょう。
傷の表面を洗ったとしても奥に入っている菌までは洗い流せません。
消毒薬には、殺菌効果と同時に酸素の泡で奥に入り込んだ菌を体の外に出してくれる働きもあるのです。
殺菌したら、その後は軟膏の傷薬を使います。
この傷薬の効果とは?
桑原薬局・薬剤師 桑原辰嘉さん
桑原さん:「傷薬は傷を治して皮膚を元通りにすることが目的ですので、いくつかの薬が混ざっているものが傷薬として出ています。」
いくつかの薬というのは、例えば、傷口の化膿を防ぐ作用のある塩酸クロルヘキシジン。
そして、傷口を保護する働きの酸化亜鉛。
また、傷ついて壊れてしまった細胞を再生させる働きのあるアライトイン。

これらの成分によって傷を治し、皮膚を元通りにしてくれるのです。

では、軟膏は一日にどの程度 塗ればいいのでしょうか?
桑原さん:「塗る回数は1日数回が良いでしょう。水に濡れて薬が落ちたり、汚れたりした場合は塗り直しましょう。」
傷口に再び雑菌がつかないように傷口を保護してくれるのが絆創膏。
特に手の指は物をつかんだり、触ったりすることで雑菌が付きやすいので絆創膏をして傷口をカバーすることが大切なのです。

桑原さん:「水仕事をする人は、傷口を水から守ってくれる液体の絆創膏を使うと良いでしょう。」
液体絆創膏といわれる新しいタイプの絆創膏。これを傷口に塗れば、すぐに殺菌の働きがある透明な膜ができて傷口を保護してくれます。
水仕事のときにも、お風呂の中でもはがれにくく、傷を雑菌から守ってくれる絆創膏です。

ついうっかり皮膚を傷つけてしまったとき、傷薬を上手に使って早く皮膚を元通りに治しましょう。

おくすりゼミナール『クスリの形』


クスリの形が違うのはなぜ?
答えてくださるのは、東京都学校薬剤師会 会長の田中俊昭さんです。
田中さん:「今回は、薬の形の種類について勉強しましょう。薬は同じ効果を持つものでも、粉薬、錠剤、カプセルと分かれるものがあります。」
それぞれの形にはちゃんと理由があるのです。
まずは、粉薬。
粉薬は散剤と呼ばれるサラサラのものと、散剤を粒状に加工した顆粒剤があります。
どちらも体内で溶けやすく吸収されやすいという特徴があります。
田中さん:「口に少し水を含んで飲むのが良いでしょう。」

続いては、カプセル剤。
これは、元々、粉薬が苦手な人のために作られたもの。中に粉薬が入っているのが見えることもありますね。
カプセルで溶け方を調節して効き目を持続させたり、薬の苦味を感じさせないといったことが特徴です。

そして、錠剤。
錠剤は通常、身体の中のそれぞれ適した場所で薬がとけるように何層かに分かれて作られています。その層によって、胃や腸で順番に溶けてそれぞれの場所で効果を発揮していくのです。
また錠剤には、保存しやすく飲みやすいという特徴もあります。
田中さん:「このように薬にはそれぞれ特徴があります。飲み方の指示に従って正しく飲んで下さい。」

東と西で共通点を持つ植物から傷薬を作っていたのにも驚きましたね。
5000年も前から傷薬があったなんて驚きました。