現在の医療現場での顕微鏡は?
慶応義塾大学病院では、入院患者1000人以上の感染を防ぐために、院内にある中央臨床検査部で顕微鏡が活躍しています。
入院患者が肺炎や肺結症に感染していないか調べ、病院内に感染が広がらないようにしています。
慶應義塾大学医学部中央臨床検査部・小林芳夫先生
小林先生:「入院患者の痰や尿、血液からどんな菌がいるかを調べ、見つける検査です。顕微鏡は、検査の重要な役割を担っています。」
入院患者の体に入り込んだ細菌をいち早く発見すべく、臨床検査部に毎日運びこまれるのは、患者の尿や便、そして血液や痰など。
細菌がいるかいないかを調べるには、まず「寒天培養」という方法で培養します。
例えば、患者の痰をシャーレの中に広げ、これを一定の温度と湿度を保った培養装置の中に18時間入れる。18時間後、コロニーといわれる最近のかたまりが明らかに見えてきます。
ここからが、顕微鏡の出番です!
光学顕微鏡で、培養された細菌をのぞきます。
1000倍に拡大すると、ただのかたまりに見えていた細菌の形が見えてくる。
この菌は「黄色ブドウ球菌」。
顕微鏡が細菌を拡大することで細菌の種類を特定できるのです。
特に抗生物質の効かないMRSAや、緑膿菌に感染すると命に関わります。院内に広がることは絶対に防がなければなりません。
培養検査よりも早く、細菌を特定することが求められる場合、血液を顕微鏡で直接見て細菌のDNAを発見するという方法がある。
例えば、ここに青く見えているのは白血球。
血液中に細菌が入ると白血球が細菌を食べ、その結果、
まるで魚の骨のように残されるのが細菌のDNAなのである。
まるで魚の骨のように残されるのが細菌のDNAなのである。
抗酸菌の一つ、結核菌の場合は特殊な蛍光染色という処理を施し、暗い部屋で紫外線を当てて見る。
もし菌が一つでもみつかったら対応には急を要します。
もし菌が一つでもみつかったら対応には急を要します。
小林先生:「細菌を判定するのは顕微鏡を使った人間の目です。顕微鏡は細菌の検査には重要なのです。」
恐ろしい院内感染を食い止める第一のとりでとなるのが、ここ臨床検査部の顕微鏡!
医療の現場は顕微鏡なしには成り立ってはいないのです!
顕微鏡開発の歴史 〜人類史上初めて見た細菌とは?〜
イギリスで王政復古が実現した年、一人の科学者が肉眼では見えない世界への挑戦を続けていました。
ロバート・フックが開発したのは、2枚のレンズを使った複式顕微鏡。
フックがこれで見たものは・・・、ハエ、ノミ、シラミなど。
フックは顕微鏡を通してこれらを正確に観察し、このようなスケッチを残しました。
また、ある時フックはコルクを観察してみました。
すると、コルクには肉眼では気付かなかった小さな部屋がたくさんあることが分かりました。
フックはこの部屋に、ラテン語で「小さな部屋」を意味する“セル”という名前を付けます。
“セル”は現在、「細胞」という意味で使われていますが、実は350年近く前の、このフックの発見がもとになっているのです。
彼は“セル”について、著書「ミクログラフィア」に詳しく記しています。
この1冊の本が、後の人々をミクロの世界へと誘っていったのです。
それから20年後。
人類は顕微鏡を使って、ついに人間の体の中に生きている別の物体、細菌が存在することを突き止めます!
ここに登場するのは、オランダの商人、レーヴェンフック。
なんとかミクロの世界を見たいという欲求にかられていた彼は、自ら顕微鏡を作ることから始めました。
レーヴェンフックが作った顕微鏡は、手のひらにすっぽり収まる小ささ。
金属板にはめ込まれた小さなガラス玉をレンズ代わりにして使ったのです。直径わずか1mm。この顕微鏡で当時の世界最高である270倍もの倍率を作り出していたのです。
小さいながらも高倍率を誇る顕微鏡で彼が見たもの・・・それは、自分の“歯垢”でした!
歯垢の中に微生物がいることを発見したレーヴェンフック。
それはまさに、人類が初めて見た細菌だったのです!
さらにレーヴェンフックは、この顕微鏡を使って赤血球、精子など、これまで未知の世界だったものを次々に観察していきます。
彼の顕微鏡のおかげで、細菌学の基礎が築かれました。
現在、オランダ科学アカデミーは、微生物の分野で顕著な発見をした科学者に対し、彼の名を取った「レーヴェンフックメダル」を授与しています。
顕微鏡開発の歴史 〜顕微鏡が病気の原因解明に貢献〜
1850年代のドイツ。
ここにもミクロの世界に魅せられた一人の男が存在しました。
カール・ツァイス。
彼は、当時の技術の中で最高の顕微鏡を次々に作り出し、ついに700倍という倍率を実現したのです。
複数のレンズを組み合わせたカール・ツァイスの顕微鏡は、その後スタンダードなものとなり、「カール・ツァイス」の名は、顕微鏡メーカーの社名となって今もその名を残しています。
顕微鏡の開発に伴って、今まで知られていなかった病原菌やそれに対するワクチンも次々に発見されていきました。
その発展に大きく貢献した細菌学の二人の開祖。
それが、フランスのパスツールとドイツのコッホです。
19世紀のヨーロッパでは、家畜や人々を次々に死に至らしめる恐ろしい伝染病が流行していました。感染源も特定できず、原因も分かりません。
医者であったコッホは、顕微鏡でその病原菌を調べ、1876年に「炭疽菌」と特定。
正体を明らかにしたのです。
一方、科学者であるパスツールは炭疽菌の研究を重ね、1881年、ついに炭疽菌に対抗できるワクチンを生み出しました!
これで、炭疽菌は必ず死に至る病ではなくなったのです!
医者であるコッホは顕微鏡を使って次々に細菌を発見していきます。
科学者であるパスツールは、ワクチンを作り出したのです。
パスツールは、他にも狂犬病のワクチンやニワトリコレラワクチンを作り出し、その功績が認められて、1895年、微生物学最高の栄誉であるレーヴェンフックメダルを受賞しています。
一方のコッホは、結核菌やコレラ菌を発見。その功績から1905年、ノーベル生理学・医学賞を受賞します。
コッホはまた、自分の後を継ぐ若手の育成にも大変力を尽くしました。
日本を代表する細菌学者、北里柴三郎もコッホの指導を受けた一人。
彼の下で破傷風菌を発見。その治療法も確立しました。
帰国後、香港で大流行した病気の原因を顕微鏡で探し、ペスト菌を発見します!
さらに結核の予防と治療に力を尽くすなど、細菌学者として名を残しています。
顕微鏡による細菌の研究・・・。
「未知の世界」への入り口となった顕微鏡の存在こそが、多くの人の命を救うことになったのです!
最先端の顕微鏡
最先端の顕微鏡、共焦点レーザー走査型顕微鏡「FV1000」。
この顕微鏡は、レーザーを使って見たいものの形を捉えます。コンピューターで解析するので、様々な角度から観察することができるのです。
そして、この顕微鏡の一番の特徴は?
オリンパス株式会社・加藤誠さん :「この顕微鏡によって、細胞を生きた状態のままで画像を取得できることが大きな利点です。」
子宮にできたがん細胞に刺激を与え、どんな反応をするか調べると・・・、刺激が伝わると、色が変化していきます。
これを使えば、例えば、細胞に薬を注射した時の変化を確認できるのです。
そして、脳の神経細胞。複雑に張り巡らされている脳の神経細胞を様々な角度から観察できるので、仕組みを解明するために役立ちます。
オリンパス株式会社・加藤さん:「細胞に対して、新しく開発した薬がどのような効果をもたらすのかを調べるのに使われます。」
そして、生きている細胞のもっと小さな所まで見ることができる顕微鏡も登場しました。
それが「高速原子間力顕微鏡」です。
金沢大学の安藤敏夫先生とオリンパスによって開発されました。
この顕微鏡によって、従来は不可能だった細胞の中にあるタンパク質の動きを捉えることに成功しました。
脳の神経細胞の中で、神経伝達物質を輸送しているタンパク質の動きを見ることができます。
今までは見ることができなかった生きた細胞の動きや、身体の中でのタンパク質の働き。それを捉えることができる最先端の顕微鏡によって、様々な病気の治療や治療薬の開発が可能になるだろうと考えられています。
久しぶりに顕微鏡に触れて、やっぱりワクワクするものだなと思いました。自分の顕微鏡が欲しいです! |
人は、どんどん追求して果てしなく小さな物を見たいと思うんですよね。小さな動いている物まで見てしまおうという好奇心のすごさに驚きました。 |