貧血について素朴な疑問


Q:なぜ、貧血は女性に多いのですか?
日本医科大学血液内科・檀和夫先生

檀先生:「女性の場合は毎月生理があるので、そのため女性のほうが鉄分が不足しやすいのです。」

通常、私たちの身体には3gから4g程度の鉄分が存在しています。
例えば、血液の赤血球には、酸素を体中に運ぶ赤い色素ヘモグロビンが詰まっていますが、その主要成分が実は鉄分。タンパク質と結びついてヘモグロビンとなります。
このヘモグロビンには、肺から取り入れた酸素をくっつけて身体中に運ぶ、非常に重要な働きがあります。
しかし、女性の場合は月経によって毎月、15ミリグラムから50ミリグラムもの鉄分を失うため、酸素を運ぶヘモグロビンが不足。
その結果、身体中の細胞に酸素がいかなくなります。これが鉄欠乏性貧血なのです!

斎藤哲也アナウンサーの素朴な疑問!
Q:子供がよく朝礼で倒れるのも、貧血なのですか?
檀先生:「貧血と思われがちですが、それはほとんどの場合、本当の貧血ではありません。いわゆる脳貧血といわれるもので、立っている間に血圧が下がり、脳へ行く血液が減少し脳貧血状態が起こって倒れてしまうのです。」

続いて、長谷川理恵さんがずっと感じてきたというこの疑問!
Q:陸上のランナーに貧血が多いのはどうしてですか?
檀先生:「足の裏を強く地面に叩きつけることを繰り返すので、足の裏の細い血管の中で赤血球が壊されてしまうのです。」
赤血球とはいわば、へモグロビンを膜で包んだ柔らかい細胞。そのため、強い衝撃が加わると、膜は破れ、赤血球は簡単に破壊されてしまうのです。
その結果、体に十分な酸素を運ぶ事が出来なくなり、貧血を起こしてしまうのです。

貧血の歴史


今からおよそ2400年前の古代ギリシャ。
この時代、貧血の患者には、薬として鉄が効果的であるとすでに考えられていました。
例えば、医学の父と呼ばれたヒポクラテス。
彼が残した「ヒポクラテス全集」には、貧血の治療について、こう記されているのです。
「貧血の場合には鉄を摂るのが薬になる」

そこで、古代ギリシャからローマ時代にかけては、貧血の予防として、ワインに剣を浸して、飲む事が行われていました。

時は流れて、17世紀のフランス。
古代ギリシャから、実に2000年余りの時を経たこの時代にも、貧血に同じ治療法が行われていたのです。
それを証明するのが、1681年、医師シデナムが書いた論文。
そこには、鉄くずをワインに浸して作った鉄強壮剤が、「グリーンシックネス」に効き目があると記されています。
顔が青白くなることから、グリーンシックネスと呼ばれた病気は、思春期の少女に多く、倦怠感、体力消耗などが現れました。これはまさに、現在で言う貧血と同じ症状です。
古代ギリシャから17世紀までの長い間、ヨーロッパでは貧血の薬として、ワインと鉄が処方され続けていたのです

やがて、19世紀に入ると、人間が生きていく上で必要な栄養素について、医学的な関心が高まってきます。
当時、鉄分について研究したのがフランスの化学者、ブサンゴー。
ブサンゴーは様々な動物の餌、そして兵士や労働者の食事の内容を調べ、鉄分があるかどうかを調べました。
この調査の結果、1867年、ブサンゴーは人間をはじめ動物の体には、必ず鉄分が存在している事を解明しました。

そして、20世紀に入った1912年。遂に、貧血と鉄分の関係が明らかになります!
フランスの医師ヘイエム。彼は貧血の症状を示している患者の赤血球とヘモグロビンについて、研究を始めました。
すると貧血の患者の場合、健康な人と比べると赤血球自体が小さく、また、ヘモグロビン濃度も低いことがわかったのです。
更に、こうした貧血症状の患者に鉄分の含有量が多い食事を与えると、見事に貧血が回復したのです!
このヘイエムの発見により、医学的に貧血の原因は鉄分の不足にあるという事が、初めて証明されたのです。

貧血の症状


何かの理由によって血液中から鉄分が失われたからといって、すぐに鉄欠乏性貧血が起こるわけではありせん。
なぜなら、私達の体は肝臓、脾臓、骨髄、筋肉といった臓器の中で、鉄分を常に貯蔵しておけるようにできているからです。
これらの臓器の中には、鉄分の貯蔵庫となるタンパク質があり、もし血液中の鉄分が減少すると、鉄分を出して失われた鉄分を補うシステムになっています。

貯蔵してある鉄分を使い切ると貧血が起きます!
その時、一体どんな症状が現れるのでしょうか?
檀先生:「身体が貧血の状態に慣れてしまい、ほとんどの人が症状が出ないことが多いのです。実際に症状が出てから病院に来られて、鉄欠乏性貧血と分かる状態だと、ヘモグロビンの量が正常な人の半分に減っている場合があるのです。」

鉄欠乏性貧血は症状が出ない!
では、どうやって知ればよいのでしょう?
檀先生:「貧血の程度はヘモグロビンの量を計って検査をします。」
そのために行われるのが血液検査。一般的な健康診断などで行われる血液検査で、ヘモグロビンの値はわかります。
健康な人の場合、正常なヘモグロビンの値は14から12まで。
しかし、検査値が11以下となると鉄欠乏性貧血と判断されます。
ただし、この段階では症状はまだ出ません。貧血が悪化して、ヘモグロビンの値が7を割ると動悸・息切れ・手足のむくみ・顔面蒼白といった症状が現れます。
檀先生:「例えば、胃腸の働きが落ちてきて、食欲がなくなったり下痢や便秘になってしまいます。また、心臓の働きも落ちてきて狭心症になったり、脳の酸欠状態が強くなると、頭痛やめまいがしたり失神状態になります。」

また、長期間ヘモグロビンの値の低い状態が続き貧血状態が続くと特徴的な症状が出る事も!
例えば、手足の爪が反る「さじ状爪」などになることがあります。

このように、鉄欠乏性貧血とは初期に何の症状もありませんが、放置して進行させると、様々な症状が現れてくる病気なのです。

鉄分を効率よく摂る組み合わせ


物性の食品に入っている鉄分は、吸収率がおよそ5%足らず。動物性の食品に入っている鉄分は、吸収率がなんと、およそ20〜35%!
動物性の食品に入っている鉄分は、そのままの形で小腸から吸収されますが、植物性の食品に入っている鉄分は、そのままでは吸収されません。吸収されやすい形に一度変わらなくてはいけないので、吸収率が悪いのです。

ただし、植物性の食品に入っている鉄分の吸収率を上げる方法があります!
ビタミンCを多く含むオレンジやブロッコリーと食べ合わせると、ホウレン草やヒジキといった植物性の食品に入っている鉄分が吸収されやすい鉄分に変化して効率良く摂り込めるのです。
なんと、2倍から4倍も吸収率がアップします!
さらに、タンパク質が鉄と結びつくと、腸で吸収されるときに鉄分の吸収度を高めてくれます。
そこで、こんな組み合わせ!
ホウレン草のサラダには、レモンの絞り汁でビタミンCを加え、ベーコンでタンパク質を加えます。
ヒジキの煮物には、ビタミンCがたくさん入っているレンコンと、タンパク質が豊富な大豆を入れると、鉄分を効率良く摂れます。

貧血のクスリ


鉄欠乏性貧血の薬は鉄剤。
鉄剤は、鉄を特別なタンパク質と結合させ、体内で吸収されやすい形にした薬。
錠剤、顆粒、シロップタイプがあります。
服用した鉄剤は、胃から十二指腸を通り、小腸で体内へと吸収されます。
その後、吸収された鉄分は、鉄分を貯蔵しておく場所へ。中でも主に骨髄へと運ばれ、そこでヘモグロビンの材料となるのです。

鉄欠乏性貧血は、鉄剤を服用すればおよそ一ヶ月で改善されます。
しかし…
檀先生:「症状が出なくなると薬をやめてしまう方がいらっしゃいますが、そうすると身体の貯蔵鉄がまだ溜まっていないので、あっという間にまた再発してしまいます。溜まっている貯蔵鉄を元に戻すには5〜6ヶ月かかります。」

では、鉄剤を飲む程でない軽い貧血の場合、鉄分を補給するサプリメントでもよいのでしょうか。何か気をつける必要はありませんか?
檀先生:「身体が吸収する量を調節しているので、身体の中に充分溜まれば、それ以上どんどん吸収するということはありません。鉄分の量が少ないサプリメントの場合には、1日の用量を守っていれば危険性はありません。」

薬を正しく使えば、鉄欠乏性貧血は症状が必ず改善される病気なのです。
昔から鉄が治療に使われていたなんてすごいですよね。貧血で困っている人にはそれだけ大変なことなんだなと思いました。
ビタミンCにプラスして、タンパク質も一緒に摂った方が鉄分の吸収率が良くなるそうなので、これからヒジキには大豆も入れようと思います。