カテーテルを使う検査・治療


どんな病気の検査や治療にカテーテルが使われているのか、代表的な病気だけでもこれだけあります。
カテーテルは、ざっと30種類にも及びます。

カテーテル治療の利点


実際の治療現場で、心臓カテーテルはどのように使われるのでしょう?

葉山ハートセンター・循環器科部長:雨宮浩先生

雨宮先生:「今やカテーテルなしでの狭心症や心筋梗塞の治療はあり得ません。」

狭心症は、心臓が締め付けられるような苦しい発作を起こすのが特徴。

一方、心筋梗塞は心臓を鉄の爪で引っかかれたような激痛に襲われ、最悪の場合は死に至ります。

実は狭心症と心筋梗塞、二つの原因は同じです。
心臓の周りには、心臓に酸素と栄養を送る三本の冠動脈があります。
冠動脈の内側にコレステロールが溜まると、血栓ができて次第に血管が詰まって行きます。それが、狭心症の原因。
心筋梗塞の場合は血管が完全に詰まってしまいます。
検査では冠動脈のどこに異常があるのか?そしてその詰まり具合の確認が重要です。

そこでまず、カテーテルを腕の動脈から挿入して冠動脈へと進めます。
雨宮先生:「大抵は、問題なく心臓まで到達します。20秒〜30秒あれば、心臓に到達します。」

こうして、冠動脈の入り口までカテーテルが到達したら…、造影剤を冠動脈に流し入れ、どこが細くなったり、詰まっているのかをチェックするのです。
雨宮先生:「さらに動脈硬化で狭い部分とか、あるいは詰まっている部分を拡げる治療もカテーテルによって行えます。外科的な治療と比べると、治療時間が短く、治療後の痛みも少ない上、入院期間も短くて済むのがメリットです。」
 
狭心症や心筋梗塞では、現在、カテーテル治療はメスを使う手術の6倍以上です。
今後、カテーテル治療は、更に増えていくと考えられています。

カテーテルの歴史@〜最初はガチョウの気管だった?!


カテーテルの起源。それは人間の体の中に管を入れる治療。
歴史上で最も古いカテーテルは、何と今から2000年前の古代ローマの遺跡から発掘されています。
それは、青銅製のカテーテル。長さ26センチ、直径17ミリの大きさです。
一体どういう治療に使われたのでしょうか?

同じ時代のミイラに膀胱結石や腎臓結石の治療の痕がある事から、このカテーテルは泌尿器系の病気治療に使われたのではないかと考えられています。

では、現在のように、血管の中に入れ、心臓や脳の治療に使うカテーテルはいつ頃発明されたのでしょう?
古代ローマから1800年。18世紀前半、ヨーロッパで、血液を送り出す心臓や血圧の仕組みに注目が集まりはじめます。
そこで、イギリスのヘールズが生き物の血圧を測ろうと、世界で初めて動物の血管に管を入れる事を試みました。
このとき使われた管とは、なんとガチョウの気管!
ヘールズは馬の頚動脈にこの管を差し込み、測定に成功します。
この実験こそ、生き物の血管にカテーテルを入れた第一号!

ヘールズからおよそ百年後の1844年、今度はフランスの医師・ベルナールが、心臓の中の温度を確かめようと考えました。
この時、彼はへールズの実験にならい、長い水銀温度計を馬の頚動脈から心臓へと差し込むのに成功します。
これこそ、歴史上初めて、生き物の心臓にカテーテルが入った瞬間!
今も尚、世界最初の「心臓カテーテル」と呼ばれています。

さらに20年後の1861年。
この実験を応用したのが、同じくフランスの医師ショーボウとマーレイ。
2人は血圧計を生き物の心臓に入れ、心臓の中の血圧を測定出来ないかと考えました。
この実験の際、彼らは先端が2つに分かれた形のカテーテルを使い、右心房・左心房の血圧を同時に測る事にも成功しました。
もっとも、これも犬を使っての実験の段階。当時の心臓カテーテルのレベルは、動物に使うのがやっとだったのです。

実際に、人間の心臓までカテーテルが到達するのは、さらに時を重ねてからなのです。

カテーテルの歴史A〜カテーテルが心臓に届いた!


“カテーテルを人間の心臓へ到達させる”
この夢が実現したのは、今からおよそ80年前。1929年、ドイツのベルリン。
行なったのは当時25歳、外科医の資格を得たばかりのフォルスマンでした。
彼はそれまで行なわれていた、カテーテルによる動物実験の文献を読みあさり、「何とか人間に応用できないものか?」と考えていました。

やがて彼は、一つの決心をします。
なんと自分の左肘の静脈から、長さ65センチのカテーテルを心臓に向けて入れたのです。しかも彼は、そのままの状態でレントゲン室まで歩き、撮影にも成功したのです。
これこそ、世界で初めて、生きた人間の心臓へ、やっとカテーテルがたどり着いた瞬間です。まさに命がけの実験でした!

フォルスマンは早速、成果を「医学誌」に発表しますが、意外にもこの画期的な実験は医学界で認められませんでした。
なぜなら、当時のヨーロッパ医学界ではまだ、命を司る神聖な心臓にカテーテルを入れるという行為そのものへの倫理的な反感が強かったのです。
様々な反発を受けてフォルスマンは挫折。以後は、心臓カテーテル研究の第一線から退いてしまいます。

フォルスマンの実験から10年余り後の1941年。アメリカで、心臓の血液に含まれる成分を分析していたリチャーズとクールナン。
2人は、フォルスマンの技術を応用して、生きた人の心臓にカテーテルを入れ、心臓内部の血液を採る事に成功しました。
その後、心不全など様々な心臓疾患の治療に応用し、効果を立証。
心臓カテーテルは、心臓病の治療には不可欠の存在となっていきます。

1956年、この、「心臓カテーテル法の開発」で、リチャーズとクールナンはノーベル生理学・医学賞を受賞します。
そして同時にフォルスマンにも、「心臓カテーテルの生みの親」として、ノーベル医学賞が授与されたのです。

現代では、心臓や脳の病気治療に欠く事の出来ないカテーテル。
それは、心臓や血液の仕組みを解明し続けてきた医師達のたゆまぬ努力の賜物なのです。

手術に取って代わるカテーテル


冠動脈が完全に塞がってしまう心筋梗塞。血管が塞がると、2〜3時間で心臓の筋肉が破壊され、命の危険に直結します。
そのため病院では、すぐにカテーテルで血管の詰まったところを確認。
続いてカテーテルを使った治療に移ります。

雨宮先生:「カテーテル治療になると、検査に比べてはるかに難しいです。経験と技術が必要になります。」

心筋梗塞のカテーテル治療では、細くなった冠動脈を押し広げるため、このステントと呼ばれる器具が使われます。

直径およそ2.5ミリ。長さ1.5メートル程のカテーテルを使って、ステントを血栓部分まで運ぶのです。
このカテーテルは2重構造になっています。
カテーテルの内側に、バルーン付きのカテーテルを通してステントを取り付けます。
ステントはバルーンの外側に、折りたたんで装着します。

カテーテルの内側から先端に水を送り、その圧力でバルーンを膨らませてステントを広げる仕組みになっているのです。

血栓でふさがった所にカテーテルを送り込んだら、ご覧のようにステントを広げます。

そしてバルーンのついたカテーテルを抜いてステントだけを残すわけです。

こちらがステント治療を行った後の冠動脈。○で囲んだ部分がステントです。みごとに血流が回復しています!
ただし、これまではステントを使うと、20%の患者さんは再び血管を詰まらせていました。なぜなら、ステントで血管が傷つき、そこの血管の細胞が増殖。増殖した細胞で血管を詰まらせていたのです。

そこで、2年前の2004年、開発されたのが、ステントに細胞の増殖を抑える薬をコーティングした薬剤溶質性ステント!
このステントからは、2〜3ヶ月もの長い期間、薬がじわじわと染み出します。

これによって再び血管が詰まってしまう確率が2%にまで激減しました。

雨宮先生:「私の経験では、再狭窄はありません。」
この優れた効果から、薬剤溶質性ステントを使った治療は、今や心筋梗塞治療のスタンダードとなりつつあるのです。

心臓に使うカテーテルの役割



○薬を送る…例えば、造影剤を送って血管を撮影。
○血管を拡げる…カテーテルが膨らんで、動脈硬化で狭くなった血管を拡げて血流を改善する。
○血栓を吸い込む…血管に詰まった血液の塊を削った上で、その破片が別の場所に詰まらないように吸い込んで血流を回復する。
自分の肘からカテーテルを入れたフォルスマンは本当にすごいですよね
あんなに細い物で治療できるなんて素晴らしいことですよね!これからもっと活躍していくんでしょうね。