“ビタミンB1とB12”、未来の治療薬に!
ビタミンB1とB12、病気の治療薬としての可能性は?
〜ビタミンB1〜
兵庫医科大学病院・福田能啓先生
福田先生:「ブドウ糖が体内に余り過ぎて体内に沈滞していると、やがて引き起こすのが糖尿病です。
血液中のダブついたブドウ糖がタンパク質と結びつき、血管を傷つける物質、いわゆるスス(沈殿物)のような物質ができます。このススは、目の網膜の血管をボロボロにしてしまいます。目の網膜の血管にススが付くと、糖尿病性網膜症を引き起こします。ビタミンB1を摂ると、ススを抑えることができるのではないかという報告があります。」
〜ビタミンB12〜
高齢化によって現在増え続けているアルツハイマー病。脳が萎縮し、認知症を引き起こす恐ろしい病気です。
このアルツハイマー病に、ビタミンB12はどう働くのでしょう?
福田先生:「ビタミンB12は、脳の血流を悪化させる物質を減らす作用がありますので、アルツハイマー病の予防に効果があるのではないかという報告があります。」
ビタミンB群
ビタミンBの仲間は、全部で8種類です。
ビタミンB1は、糖質をエネルギーとして使う時の手助けをしています。つまり、疲労回復に欠かせないビタミンです。
そして、ビタミンB12はタンパク質を吸収して、赤血球の生成や、末梢神経の傷の回復など身体の材料を作る時の手助けをしています。
その他のビタミンも、糖質や脂質、タンパク質が身体の中で役立つものになる時に手助けをしているのです。
B4、B7、B8、B10、B11などは、すでに見つかっていたものであったり、ビタミンではないものであったことが分かって外されたそうです。
B3〔ナイアシン〕やB5〔パントテン酸〕などに名前が付いているのは、先に名前が付き、後にビタミンBの仲間になったからなのです。
ビタミンB1の発見
江戸時代から明治時代へかけて、実に多くの人々が苦しんだ病。
それが脚気。
その症状は末梢神経がおかされ、歩行困難を招き、時には死に至ることすらありました。
特に明治時代には軍隊において脚気が蔓延。
それは、国の前途を左右しかねない深刻な問題となっていました。
当時の海軍軍医総監高木兼寛(たかぎかねひろ)。
彼は自ら率先して、海軍の水兵たちに忍び寄る、脚気の原因究明に取り組みました。
その頃の海軍では、将校の食事メニューは洋食でしたが、水兵は専ら白米だけを食べていました。
そして、白米ばかり食べていた水兵は、将校に比べ脚気の発生率が圧倒的に高かったのです。
「白米だけを食べていると脚気になるのではないか?・・」
そこで高木は、水兵の食事もパン食中心の栄養豊富な洋食メニューを取り入れてみました。
すると!
見る間に海軍における脚気患者は減少していきました!高木の研究の成果がここにあらわれたのです。
同じ頃、白米について新たな研究に取り組んでいた農学博士がいました。
彼の名は鈴木梅太郎。
彼は日本人と西洋人の体格の違いに注目し、そこから白米中心の日本の食事と肉類中心の欧米風の食事の比較実験を試みます。
彼は、白米と肉、それぞれのタンパク質を取り出し、それぞれを別々のハトに与え、成長の違いを観察しました。
結果、どちらのハトも激しく衰弱してしまいました!
この症状を見た鈴木梅太郎は、ある論文を思い出します。
それは、オランダの衛生学者・エイクマンの研究発表でした。そこには、こう書かれていたのです・・・
「白米をエサに使うと、鶏も脚気になる。これを白米病という。」
トリの脚気。自分のハトも脚気だった。
白米や肉だけでは足りない何かがあるはずだ。
鈴木は、この時あらためて脚気の原因を追究すべく、研究を始めることにします。
そして鈴木が注目したのは、玄米から白米へと精米をするときに欠けてしまう「米糠」でした。
彼は、米糠の抽出液を脚気を起こしたハトに与えてみました。
すると、たちまちにして、症状が回復したのです!
1910年。鈴木梅太郎は、この脚気を治す有効成分を、稲の学名「オリーザ・サチーバ」にちなんで「オリザニン」と名づけ、世に発表しました。
その発表の中で、オリザニンは「動物の体内では作られず、体の外から取り入れるしかない栄養素」という現在のビタミンの基本的概念を、すでに明らかにしていました。
しかし、鈴木梅太郎の画期的発見は、日本の医学界では全く黙殺されてしまいました。
何故なら・・・患者に早く「オリザニン」を飲ませようと、研究段階で発表した事と、当時は脚気は食物が原因ではなく、何らかの細菌が原因だという説が有力だったことが理由でした。
1912年、鈴木梅太郎は、改めてオリザニン研究の成果を論文として発表しました。
しかし、その前年にオリザニンと同じ物質が「ビタミン」という名で世界の医学界に登場しました。
そのため、鈴木が発見したオリザニンは「ビタミンB1」と呼ばれるようなり、その第一発見者として認められています。
原因不明の病気であった脚気を解明して、その原因物質を見つけ出すため研究を重ねた鈴木梅太郎。
彼はビタミンB1だけでなく、ビタミンの働きそのものも最初に発見した人物なのです。
“ビタミンB1”治療薬としての可能性とは?
治療薬として期待されるビタミンB1とは、もともと、どんな物質なのでしょうか?
私達の体が生きてゆくために必要なエネルギーを作るには、その材料として、主に糖質が使われています。
糖質が細胞内のミトコンドリアに入って、エネルギーは作り出されますが、その作用を助けているのがビタミンB1!
エネルギーを作り出す働きがTCAサイクル。
その中で、ビタミンB1は重要な働きをしています。
ビタミンB1を最も多く使っているのは、心臓、脳、筋肉。これらは、大量のエネルギーを必要とするからなのです。
身体になくてはならないビタミンB1ですが、実は不足しがちな人がいます。
兵庫医科大学病院・福田能啓先生
福田先生:「肥満傾向の人は、糖の代謝、ブドウ糖を処理する能力が少し落ちています。糖尿病予備軍と言われていますが、そういう状態の人ですと、ビタミンB1は欠乏しているということが予測できます。そして、甘い物をたくさん食べてビタミンB1の入っているものを摂らず、例えば白いご飯ばかり食べたりしていると、潜在的にビタミンB1が欠乏するということが分かっています。ビタミンB1が欠乏すると、身体の中のエネルギーが減ってきたり、疲れやすくなります。そして、心臓に影響があると脈が速くなったり、息切れするなどの症状が起こってきます。」
疲労回復に効果があるので、栄養ドリンクなどにも大抵はビタミンB1が含まれています。
また、ビタミンB1には、近年、薬としての期待も高まっています。
2003年、世界的な医学雑誌にドイツ・ハイデルベルク大学の研究者が、こんな報告をしました。
「糖尿病性網膜症の治療にビタミンB1が効果ある」
糖尿病性網膜症は、目の網膜に起こる糖尿病の合併症の一つ。
現在、日本では失明原因第一位の恐ろしい病気です。
糖尿病の場合、血液中にブドウ糖が多くなり、コラーゲンなどのタンパク質と結合。AGEという、血管を傷つける物質を作り出します。
目の網膜の血管にこのAGEが沈着するために,血管が傷つき出血を起こすのが糖尿病性網膜症なのです。
ハイデルベルク大学の研究で動物実験等から、ビタミンB1がAGEの発生を抑える事が判明しました。
ハイデルベルク大学の研究で動物実験等から、ビタミンB1がAGEの発生を抑える事が判明しました。
現在、この研究報告を受けて、ドイツとアメリカでは、ビタミンB1を使った、治験が既に始まっているそうです。
“ビタミンB12”予防薬としての可能性とは?
ビタミンB12とは、どのような働きをするビタミンなのでしょうか?
ビタミンB12には、体の神経を再生する働きがあります。v また一方、血液中の赤血球が成長するのを助けるという働きも担っています。
このビタミンB12も、薬としての効果が期待されています!
アメリカ、ボストン大学の研究グループは最近、世界的に権威のある医学雑誌に、このような文章を発表しました。
「ビタミンB12は、将来、アルツハイマー病の予防薬となりうる!」
アルツハイマー病では脳に萎縮が起こり、その結果、認知症になります。
さらに進行すれば、命の危険をまねく病気ですが、残念ながらこれまで、原因は不明とされてきました。
しかし、今回、研究グループは、アルツハイマー病の患者の場合、血液中の血漿ホモシステインという物質の濃度が高いという事を突き止めました。
血漿ホモシステインとは、どんな物質なのでしょう?
福田先生:「血漿ホモシステインが身体にあると、血管を傷つけたり、組織を傷つけたりということが起こってきます。」
血漿ホモシステインは以前から、ビタミンB群、特にB12によって減少する事が分かっていました。
そこから、研究グループは、ビタミンB12を大量に摂取することは、アルツハイマー病の予防に繋がる可能性が高いと考えています。
福田先生:「足らないから補うという時代から、敢えてそれを薬としてたくさん取って、病気を予防したり、治療したりという時代に入りかけていると思います。」
ビタミンを使った薬により、様々な病をいち早く予防する。そんな時代の足音が、聞こえてきたようです。
ビタミンB1のサプリメントは空腹時に飲むと効かないのですね。太っている人はビタミンB1を摂っているつもりでも不足しがちなようなので気をつけたいです。 |
やはり、好きなものばかり食べていてはいけませんね。いろんな栄養素を摂るようにしようと改めて思いました。 |