体温とは?
体温についての素朴な疑問を先生に伺いました。
東京都老人総合研究所 温熱生理学
野本茂樹先生
野本茂樹先生
Q:体温は身体のどこで作られているのでしょうか?
野本先生:「身体の全ての細胞で熱が作られています。一番効率良く熱を作り出っている臓器は、心臓・肝臓・脳です。身体全体では、筋肉が最も多く熱を作っています。」
Q:どのようにして身体は熱を作っているのでしょうか?
野本先生:「各細胞の中で生化学反応が起こっているのです。炭水化物・脂肪・たんぱく質を燃やしています。」
私達の細胞は食べた物を材料にしてエネルギーを作っています。この時、熱が発生します。こうして、身体全体の細胞で体温となるのです。Q:私達の平熱は36度〜37度前後ですが、なぜこの温度なのでしょう?
野本先生:「体温が42度以上になると、我々の身体を作っている成分のタンパク質が破壊されます。一旦壊れたタンパク質は元に戻ることはできません。我々の体温は42度を超えることはありません。タンパク質が壊れない程度の若干低めの値に落ち着いていると考えられます。」
Q:人によって平熱が違うのはなぜですか?
野本先生:「体温が35度の人もいれば、38度の人もいるわけです。身体で作られる熱、要するに代謝量に個人差があるということが大きな原因だと考えられています。」
Q:低血圧の人は平熱も低いのですか?
野本先生:「低血圧の人が体温が低いということは一般的によく言われますが、多少なりとも血圧と体温に関係はあると思います。」
低血圧の人は比較的、体の代謝が低く、作られる熱量も少ない場合が多いのです。そのため平熱も低くなりがちです。逆に高血圧の人は体の代謝が高くなるため、平熱も高くなる傾向にあります。Q:民族による平熱の違いはあるのですか?
野本先生:「民族による差はありません。」
たとえばシベリアなど、地球の寒い地域に暮らす人は体が熱を多く作り、平熱を36度〜37度に保っています。逆に南の島など、暑い地域の人は体の熱の発生を少なくして平熱を36度から37度に保っているのです。Q:進化につれて、人の平熱に変動はあったのでしょうか?
野本先生:「我々の生命に関わる体温の最高値は42度〜43度ですから、それ以下でないといけません。そうすると、せいぜい上がっても40度なのですが、体温を高く保つためにはたくさんの食物を食べなければいけないのです。」
原始時代は現代と違って、食料が豊かではありませんでした。それを考えると、体温は現代人と同じか、やや低かったのではないかと考えられているそうです。Q:暑がりや寒がりは、その人の体温と関係があるのですか?
野本先生:「人によって暑さや寒さを感じる感覚は違います。体温そのものが37度だから、38度だからといって暑がりなわけではありません。」
体温計の歴史
体温計を作ったことで病気の治療に大きく貢献した人物、それは中世イタリアの医師サントリオ・サントリオ。彼は元々、人間の体がつかうエネルギー量について、斬新な方法で研究をしていました。彼は大きな秤を作り自らが乗って、食事や排泄以外、体を動かさず、食べた物と排泄した物の重さを計りました。すると食べた物に比べ、排泄したものの重さが少ない。ならば、体重は増えるはずなのに変わらない。
この結果から、サントリオはこう考えました。
『体を動かさず、ジッとしていても、人の体から何かが蒸発している』
この発見は、体がエネルギーを使っているということを解明するきっかけとなり、後の基礎代謝の研究の第一歩となったのです。
研究を続けていた頃、彼はある発明を目にします。
それはガリレオの発明した温度計。これを見たサントリオは、考えました。
『人の体には熱がある。それを測定出来る装置をなんとか作れないものか?』
そこで考え抜いて出来たのが、この体温計。
その構造は、空気の膨張を利用したものでした。1本の曲がりくねったガラス管を水の入った容器にまっすぐに立て、ガラス管の端を口に含みます。すると、管の中の空気は体温によって膨張。中の水を押し下げます。その水位を目盛りで読み取ることで体温がどのくらいかを計るという装置でした。
この装置で体温の研究を続けるうち、ついにある事実に気がつきます。
『健康な人間は、いつも一定の体温を保っている』
サントリオは世界で初めて体温計を作っただけでなく、体温は一定である事実も発見。
その後の病気の治療に大きな影響を与える事になります。
しかし、体温計が実際の医療で使われるには百年程待たねばなりませんでした。
18世紀・オランダの医師ブルーハーフェは、病院で1人1人の患者の体温を計り、そのデータを病気の診断に役立てようとしました。そして、1850年、ドイツの医師ウンデルリッヒは
『毎日朝夕、体温を計り、その変動をみることは病気の種類を知る上で大きな基準になる』
と考えました。彼はいくつかの病気、たとえば肺炎やマラリヤには特有の発熱の仕方がある事を突き止め、体温を計ることが診断に役立つことを明らかにしたのです。
体温計の改良は進み、1866年ドイツで水銀体温計が発明されます。水銀は熱伝導率が高く、正確な測定が可能になりました。
この水銀体温計は日本でも、明治時代に入ると医療の発展に伴い、イギリスやドイツから輸入されるようになります。1883年には、日本でも体温計が作られますが、品質では海外のものに比べて劣っていたため太刀打ちが出来ませんでした。
こうした状況に立ち上がったのが、感染症の予防に力を注ぎ、多くの命を救った北里柴三郎。
彼は自ら発起人となり、1921年、体温計の会社を設立します。良質な体温計が大量に生産されるようになり、医療の現場だけでなく、一般家庭にも体温計が普及していったのです。
微熱が続くとどんな病気が考えられる?
発熱は、身体が知らせる病気のサイン。
高熱だけでなく、微熱でも注意が必要です。
エム・クリニック院長
松岡緑郎先生に伺いました。
松岡緑郎先生に伺いました。
松岡先生:「朝起きて、熱が37度5分以上ある状態が一ヶ月以上続くようなら、必ず何かの病気が隠されていると考えられます。ただ、夕方になると37度5分以上になる場合も時々あります。夕方の熱が37度5分以上あってもこれは必ずしも病的とは言えません。朝起きた時の熱が37度5分以上あって、しかもそれが長期に渡って続く場合には身体に何か異常があると考えられます。」
Q:微熱が続くとどんな病気が考えられるのですか?
松岡先生:「微熱が長時間続く場合には、熱が出る原因として三つのことが考えられます。まず一つは、感染症。二つ目が、がんや肉腫などの悪性腫瘍。もう一つは膠原病です。この三つが病的な熱の原因となる疾患です。」
微熱が続く病気のうちで、代表的なものが感染症。風邪のウィルスや結核菌などに体が冒される病気です。
細菌が体に侵入してくると、体は免疫反応を起こします。
免疫反応とは・・・
侵入した細菌やウィルスに向かって白血球が出撃。
様々な化学物質を出して、細菌を攻撃・退治しようとする働きです。
この時、脳の中で体温を司る視床下部が、化学物質の発生を感知して体に熱を出させます。つまり、微熱は体に細菌が侵入し、免疫反応が起こっている証なのです。 また、初期の癌による炎症やリウマチ、膠原病に罹った場合も、体の中で同じような免疫反応が起こり、微熱の続く事が分かっています。微熱が続く病気で、最近増えている病気があります。
様々な化学物質を出して、細菌を攻撃・退治しようとする働きです。
この時、脳の中で体温を司る視床下部が、化学物質の発生を感知して体に熱を出させます。つまり、微熱は体に細菌が侵入し、免疫反応が起こっている証なのです。 また、初期の癌による炎症やリウマチ、膠原病に罹った場合も、体の中で同じような免疫反応が起こり、微熱の続く事が分かっています。微熱が続く病気で、最近増えている病気があります。
松岡先生:「微熱が続く感染症で最も多いのが肺結核です。肺結核は日本では少ない病気ではなく、東京都でも年間3000人くらいの人が亡くなっています。微熱が続く場合は、肺の検査をしましょう。」
中世イタリアの医師サントリオ・サントリオの名前ってサイトウ・サイトウみたいでおもしろいですね!彼がおこなった曲がりくねったガラス管を使った実験がとても印象に残りました。 |
私は平熱が35度代後半なんですけど、人によって平熱って違うんですね。 |