目薬の歴史〜ヘボンと岸田吟香の出会い〜


疲れ目やかすみ目は目薬で解消できる現代。
それに比べ昔の日本では、栄養状態も衛生状態も悪く、目の病に苦しむ人は今とは比べ物にならないほど多かったといいます。
およそ1200年前の平安時代。
あまりの眼病の多さから絵巻物にこんな様子が描かれています。
なんと「ニセの医者が、眼病の治療をしている絵」。
平安時代には目を患う患者の多さから至るところでニセ医者が横行していたというのです。

さらに1000年後の江戸時代になっても眼病は、減ることはありませんでした。

日本で初めての西洋式目薬を売り出した岸田吟香。水戸藩の解体により放浪生活を余儀なくされていた吟香は、31歳のとき、「風眼」と呼ばれるはやり目を患ってしまいました。彼も眼病に苦しんだ1人。「風眼」は、激しい痛みを伴い、放っておくと失明を招いてしまう恐ろしい病気。吟香は江戸で何人もの医師を訪ねましたが、ひと月以上治療を続けても一向に効果はあがりませんでした。 そんな中、横浜に「ヘボン」という有名な外国人医師がいると聞きつけ、早速訪ねることにしました。しかし相手はアメリカ人の医者。言葉も通じないに違いない。おそるおそる尋ねる吟香に対し、ヘボンは流暢な日本語でこう言ったのです。
岸田吟香についての物語が記してある「浮世はままよ」によると・・・。

「ダイジウョウブ、ナオル。」

そして、水晶のように輝いた紫色の薬を手渡したのです。
吟香がその薬を目にさし始めると、たった1週間で眼病が完全に治ったのです。1ヶ月も医者通いをして治らなかった眼病が、たった7日で完治した!吟香は心底驚きました。
そしてさらに驚いたことに治療代を払おうとする吟香にヘボンはこう言ったのです。

「治療代はいらない」

宣教師でもあったヘボンは放浪の身の吟香を案じ、治療代を受け取ろうとしなかったのです。
ヘボンは、医者としての研究のほかにもう1つの研究をしていました。それは「和英辞書」の編纂(へんさん)。医者として日本で活動していく上で、患者との会話に不便を感じていたヘボンは自らの手で、和英辞書を作ろうとしていたのです。その話を聞いた吟香は、すぐさま「手伝いたい」と申し出ました。つらい眼病を治し、しかも治療代をとらなかったヘボン。その恩に報いるため吟香は、彼のもとで働く決心をしたのでした。

日本初の目薬誕生・その開発の歴史


それまでに存在しなかった和英辞書の編纂を始めた岸田吟香とアメリカ人の医師ヘボン。
その研究には丸3年の月日がかかりました。
そして、ついに日本で初めての和英辞書「和英語林集成」が完成したのです!

この和英辞書は大変好評を博しました。これがもとで、現在でも主流となっているヘボン式ローマ字が生まれることになるのです。

目的の和英辞書は完成した・・・
吟香は、ヘボンのもとを離れることにします。旅立ちの前、ヘボンはささやかな晩餐を用意し、3年間の労をねぎらってくれました。
そして、「これは感謝の印」と吟香に便せんを渡します。その便せんには「ヘボン目薬」と書かれており、なんとそれは、かつて吟香の目を治してくれた点眼薬の「作り方、使い方」の秘伝書だったのです。

放浪中の吟香の身を案じてヘボンが示してくれた心遣い・・・
吟香は自分と同じ症状の人々を救うため、早速ヘボン直伝の目薬を作り始めました。

しかし、大きな問題が・・・それは目薬に必要な蒸留水の確保。
当時、蒸留水は主に雨水を原料にして使っていました。雨水を集める苦労が新聞に掲載されています。

「蒸留水製造機がなかった当時は、雨が降ると夜中でも家中総出で飛び出し、屋根から水をかめに流し込むという滑稽な騒動もあった」

そんな苦労も実り、1867年・・・
ついに日本初の目薬「精リ水(せいきすい)」が完成しました!

「精リ水」の精リというのは、その成分である硫酸亜鉛をあらわす中国語。
硫酸亜鉛は英語でZink Sulfateと表記されZinkに当たる中国語の「精綺」が商品名になったのです。硫酸亜鉛入りの精綺水はかすみ目、はやり目をはじめ、現在で言う結膜炎や、角膜潰瘍などにも効き目があったといいます。
日本で初めての目薬「精綺水」。
その優れた効力をうたう広告や錦絵も数多く登場。ヘボンが研究し、吟香が製造した精リ水は、明治の世の中に大きく広まることとなったのです。

目のトラブルとは?


現代人がかかえる目のトラブルについて先生に伺いました。

Q:目のトラブルとは?

橋先生:「目はいろいろな病気の入り口になりやすいのです。ばい菌、アレルギー、花粉症なども目から入ります。粘膜が表に出ている目は病気が入りやすいわけです。」

Q:目のトラブルはどのように変化してきた?

橋先生:「時代によって病気と流れが変わってきました。レッド・アイからホワイト・アイへと言うのですが、目が赤くなるような結膜炎や角膜炎が多かった時代から、今は緑内障やアレルギー、ドライアイが増えてきました。」

Q:ドライアイが増えてきた原因は?

橋先生:「今の生活様式が変わってきたことにあります。例えば、冷暖房が充実してきたことや、パソコンの普及です。パソコンをうっている間は、まばたきの回数が非常に少なくなりますので、ドライアイになりやすくなります。そして、ストレスも関係してきます。現代社会はドライアイを作る環境が多いのです。」

目薬の種類


普段、私達がさす目薬はどのように働いているのでしょう?
目薬は目の中に入ると角膜に染み渡り、そこから内部の神経に働きかけるのです。

目薬は大きく分類すると4つのタイプに分かれます。

@「疲れ目・かすみ目」用
ビタミン剤が入っており、目の新陳代謝を盛んにする働きがあります。普段、目が疲れたと感じたり、目の焦点が合わせづらいと感じるときには効果的です。

A「充血」用
…充血は目の血管が拡張することで起こります。充血用の目薬はその血管を縮小し鎮める働きがあります。

B「抗菌」用
ものもらいや結膜炎などの目の炎症を抑える成分が入っています。炎症によるかゆみや痛みにも効果的です。


C「ドライアイ・コンタクトレンズ」用
…涙に近い成分が含まれておりコンタクトレンズをつけたまま使えるのが特徴です。また防腐剤を使用していない使いきりタイプが多く、ドライアイによる目の乾きを潤すのにも効果的です。そして、容器が2重構造になっていて、蓋に逆流防止弁が付いているものもあります。こちらは、防腐剤が入っていなくても、微生物の繁殖を防げるのです。


実際に目薬を作っている方にお話を伺いました。
大正製薬株式会社 商品開発部・木村貴子さん

Q:理想の目薬とはどのようなもの?

木村さん:「理想の目薬というのは、涙液に一番近い成分です。」

理想の目薬は、pHの値を涙に近づけること。
涙のpHは、ほぼ中性の7であり、それに近づけることでさした時に感じる違和感を少なくすることができます。もう1つは、目薬を涙の浸透圧に近づけること。そうすることで、目薬の成分が効率的に目に混ざりやすくなります。

Q:今後の目薬はどのようなものになりますか?

木村さん:「今後、高齢化社会をむかえますので、だんだん目の機能が衰えてくる中高年の方々のそのような点を補える目薬を入れていこうと考えています。」

目薬についての疑問


正しい目薬の使い方について薬剤師さんに伺いました。

薬剤師・大木一正さん


○長谷川理恵さんの疑問

Q:よく目が充血するので目薬をさすことがあり、何滴もさしてしまうのですが、目薬を一度にさす量はどのくらいがいいのですか?

大木さん:「一般的には一滴で十分です。涙と一緒に流れ落ちる場合は、2滴もしくは3滴さすと良いと思います。多めに点眼してもほとんどの場合、鼻から口にまわる場合や、目外にこぼれてしまう場合があり、全て目薬の成分が吸収されるわけではありません。」

Q:夏場に車の中に目薬を置いておくことが多いのですが、保存方法はどのようにすればいいのでしょうか?

大木さん:「目薬のパッケージに冷暗所保存の表記がある場合は、冷蔵庫に保存して下さい。その表記がない場合は、室温で大丈夫です。車内のトランクなどはかなりの高温になりますので、そういう所に置く事は避けて下さい。」


○斎藤アナウンサーの疑問

Q:疲れ目の時はスーッとする目薬を使っているのですが、効果的な使い方はありますか?

大木さん:「自覚症状(疲れ・充血)が出た時に使いましょう。爽快感があるものとないものは、その時自分が使って気持ちが良いものを使うと良いでしょう。」