夏目漱石と胃痛


我が国を代表する文豪、夏目漱石は長年あることに苦しんでいました。
「胃弱で皮膚の色が淡黄色を帯びて弾力のない不活発な徴候をあらわしている」

「胃弱なんぞは外の病気たあ違って直らないわねえ」

これは、「吾輩は猫である」の一節です。
猫の主人のことを語っているのですが、漱石自身がモデルだったと言われています。実際、漱石はロンドンに留学した34歳の頃から、胃の不調に悩むようになりました。こんにゃくを温めて胃に当てる温熱療法をするなど、かなり苦しんでいたようです。そして「吾輩は猫である」の執筆中には、もう胃薬が手放せなくなっていたといいます。

胃薬その昔


〜世界編〜 
“医学の父”ヒポクラテスは、「体内の病気には牛乳が効果的だ」という説を唱えました。世界最古の医学書と言われている「ヒポクラテス全集」には、牛乳の文字が多く登場します。確かに牛乳は脂肪分の膜を張り、胃の粘膜を保護します。紀元前にはもうわかっていたのでしょうか?

同じ古代ギリシャ時代、ギリシャ南東部の島ではマスティックという木の樹液を固めて現代のガムのように噛んで、胃の痛みを治していました。

一方、中国では紀元前から薬草の研究が盛んでした。胃痛をはじめ様々な病気の治療に薬草が用いられていました。 このように古代の人々は祖先からの経験で身近な食べ物や植物を、胃の薬として使っていたのです。


〜日本編〜
我が国で最初に生まれた胃の薬とは・・・?

それは「ういろう」。
「外郎」は今から約600年前の室町時代、京都の外郎家が作り出した漢方薬です。外郎家が作った薬なので「ういろう」と呼ばれるようになりました。包みに入った丸薬を印籠に入れて携帯し服用していました。

ところで、「ういろう」と言えば・・・
 現在、お菓子として知られている「ういろう」も、実は外郎家で作り始めたお菓子でした。薬の「外郎」を飲んだ後、口直しとして食べていたのでしょうか?
薬の外郎にこんなお話があります。享保の頃、歌舞伎俳優二代目市川團十郎は体調を崩し、役者をあきらめようとしていたところ、たまたま外郎を服用。難病が治り、そのお礼として外郎の効能を舞台で述べて恩返しをしました。

胃痛の種類


〇胃痛の原因とは?

胃酸が出過ぎると、胃の表面がただれ、びらんが起こります。それと同時に胃粘膜の炎症を起こし、粘膜下層の神経に作用して痛みが出てきます。
私達の胃には神経がありません。そのため胃の中が少し傷ついた程度では痛みは出ません。しかし、粘膜に炎症が長時間にわたって続くと、その部分から発痛物質というものが発生します。この物質が粘膜の下にある神経を刺激すると痛みが出るのです。これが、胃痛が起こる原因の一つなのです。

〇もう一つの胃痛の原因とは?
胃の粘膜だけでなく、その下にある胃の壁全体を考えなければなりません。ストレスがあると、胃の運動の異常が起こったり、胃の血液の流れがおかしくなって痛みが起こることもよくあります。

〇胃もたれの原因とは?

胃はぜん動運動で食べた物と胃酸がよく混ざり、消化が進みます。
しかし、精神的なストレスがかかると・・・
胃は正常にぜん動運動をしなくなってしまいます。例えば、痙攣したような動きをしたり、一部は動いているのに一部は止まってしまったりします。すると胃の中の物がいつまでたっても十二指腸に流れず停滞し、もたれを感じることになるのです。

胃痛の薬


胃薬は種類が豊富です。 胃の症状によって飲む種類が分かれますので、必ず自分の症状に合った薬を選びましょう。
空腹時の痛み → 「制酸薬」
アルカリ性の薬。出過ぎてしまう胃酸を中和することで、胃の粘膜を胃酸の攻撃から保護してくれる。
食後胃がもたれる時 → 「消化酵素薬」

タンパク質や脂肪、炭水化物をそれぞれ消化する酵素が入っていて、胃もたれを防いでくれる。
いつも胃の調子が悪い場合 → 「粘膜保護薬」
胃に粘液の分泌を促す作用があり、胃粘膜を胃酸などから保護してくれる。
また、漢方がベースの胃薬は配合される薬草の種類によって効果を生み出すことが可能です。様々な種類の生薬を組み合わせることで、胃痛から胃もたれといった症状に効果を発揮します。

胃薬を効果的に使うためにも、自分の症状をしっかり把握しましょう!

薬のプロ〜薬剤師さんに聞いてみよう


今週の薬剤師 安部好弘さん

Q1
胃薬を飲むタイミングは?
A:代表的な例を挙げると、漢方成分を中心とした製剤などは食前食間の空腹時に服用することが一般的です。
消化酵素薬などは、食後に服用することが目安になります。このような一般的な薬の飲み方については、薬の外箱や説明書に記載があるので、手持ちの薬を飲む場合は参考にして下さい。
薬の選択や飲み方に迷ったら、近くの薬剤師に状況を報告して相談して下さい。例えば胃が痛いということであれば、食べ過ぎて痛いのか、それともストレスで痛いのか、同じ痛みでも改善する薬は違ってくるので、状況を充分に薬剤師に伝えることが上手な薬の選び方です。

Q2
お酒を飲み過ぎた翌日、胃のむかつきと頭痛が同時に起きた場合、胃薬と頭痛薬を一緒に飲んでもいいの?
A:胃がむかむかする症状には、健胃作用のある生薬成分や胃粘膜保護作用がある成分に効果が期待できます。
頭痛に関してですが、アルコールで肝臓が疲れている状態で鎮痛剤を飲むことはおすすめできません。対処方法としては、電解質を含んだスポーツドリンクや、糖分、特に果糖という成分を含んだリンゴジュースやグレープフルーツジュースなどのフルーツジュースを飲んで、アルコールを体外に排出しましょう。

Q3
胃薬を飲んでも、胃痛や胃のもたれが治まらない。そんな時には、胃薬を続けて飲んでもいいの?
A:一般用医薬品は、消費者が自分の判断で飲むことを前提にしているので、安全性については充分な配慮がされています。
しかし、倍の量を飲んだり、薬の飲み方を自分で勝手に変えてしまったりということは絶対にやめて頂かなければなりません。
さらにもう一袋飲みたいという場合は、もしかすると薬そのものが症状に合っていなかったり、薬が効き始める前に薬の効果を判断していることがあります。一定期間、薬を服用しても効果がない場合には、医師に相談しましょう。