#10 喜びの歌 2013年12月4日(水)放送

べートーヴェン&モーツァルト
ゲスト

作曲家 千住明

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喜びの歌

19世紀、ヨーロッパを席巻し、楽聖と称えられたベートーヴェンの最後の交響曲。「人類最高の芸術作品」とも評された不滅の傑作です。魂を揺さぶるこの歌声には、一体、どんな喜びや苦悩の物語が込められているのか?そして、もう一つ、世界中で愛されている喜びの歌があります。18世紀、音楽の都、ウィーンに現れた天才モーツァルトが、死の年に作曲した讃美歌です。清らかな歌声。至福とも言える喜びの世界へと誘います。モーツァルトが、この聖なる歌声に託した喜びとは何だったのでしょうか?ベートーヴェンとモーツァルト。クラシック界を代表する二大巨匠が生み出した「喜びの歌に」迫ります。

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ベートーヴェンの「交響曲第九番」

ベートーヴェンの青春時代は、ヨーロッパ社会が、大きく揺れた時代でした。1789年に勃発したフランス革命を皮切りに、市民革命が波及。そんな時代に、人々に熱狂的に支持されたのが、あのシラーの詩だったのです。「抱き合おう いく百万の人々よこの口づけを世界じゅうに!」歌ったのは、「自由・平等・博愛」の理念だったのです。シラーの詩との出会いから、およそ30年、その思いを「交響曲第九番」に託したのです。1824年、ウィーンの大劇場で初披露され、聴衆は大合唱に熱狂しました。自由、平等、博愛のもと、人類は一つになることが出来るというベートーヴェンのメッセージが込められた歌だったのです。

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モーツァルトの「アヴェ・ヴェルム・コルプス」

宮廷音楽家としてウィーンで華々しい活躍をしてきたモーツァルトでしたがフランス革命後、人気は陰りを見せはじめていました。そんな中、嬉しいニュースが飛び込んできました。最愛の妻、コンスタンツェが、子供を身籠ったのです。妻を静養させようと、ウィーン近郊の保養地バーデンに向かいます。そこで、バーデンの合唱指揮者だった友人が妻の面倒を見てくれたのです。モーツァルトの荒んだ心に訪れた人の優しさと、幸福感に満たされた日々。そしてモーツァルトは、王侯貴族やパトロンのためでなく、友人への感謝の気持ちを込めて曲をつくります。 その時出来たのが、「アヴェ・ヴェルム・コルプス」でした。そこには自身の心の救済と全ての人々の幸福を願う、モーツアルトの祈りが込められていたのです。

日比野克彦

日比野の見方「五線譜」

日比野の見方 この絵は、五線譜を描いたものですが、祈りや祝いの感情を、両手を広げるようなイメージで表現しました。人間の手で包み込まれるような温もり。巨匠の巨匠たる所以は自分の美学というものを、自分の等身サイズで最後には必ず形にするということだと思います。自分の運命、生い立ちや家庭環境、時代背景を全部受け入れて表現していく。それは、とても大事なことです。

小川知子

小川知子が見た“巨匠たちの輝き”

ベートーンヴェンの第九の第4楽章、私も高校の合唱祭でうたったことがあります。まさに「歓喜の歌」、歌い終わった後の高揚感・連帯感は格別でした。ベートーヴェンはこの歌に「自由・博愛」という、当時はご法度の理念を込めたそうで実はメッセージの強い曲だったのですね。モーツァルトの「アヴェ・ヴェルム・コルプス」の方はやさしく包まれるような美しいメロディ。天才モーツァルトも晩年は思い通りに行かないことがあった中で教会のために作った曲だそうですが、光のさしこむ教会でこのハーモニーの響きを聴いたら…まさに天才の仕事です!2曲ともモーツァルトとベートーヴェンの生涯最後の曲、 巨匠のそのときの心境を想像できますね。