2006年 4月29日の放送
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4月21日にワシントンでG-7が開催された。会議終了後に発表された声明の中に、中国を名指しして為替レートの調整を求める文章が新たに追加された。G-7の声明の中で、特定の国を名指しするのはきわめて異例のことで、市場関係者は驚きを隠せないでいる。また「多額の経常黒字を有する新興市場エコノミー」という表現がアジア全体を指すのではないかという声も聞かれ、円にも上昇圧力がかかっている。
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図の通り、ここ数年間米国の経常収支の赤字幅は徐々に拡大していており、その大半は中国や日本などアジア諸国からの輸入の急増が原因となっている。過去のG-7でも、このアメリカの経常収支の悪化が今後の世界経済のリスク要因の1つであるとの認識が示されてきており、今回はこの問題について更に一歩突っ込んだ表現となった形である。今まではリスク要因と考えていたのが、いよいよリスクが顕在化しそうであるとの認識をG-7諸国が共有したということであろう。
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また、各国からも基軸通貨である米ドルに対する不安の声が聞こえてくる。すでに中東などの中央銀行は、外貨準備の一部を米ドルからユーロにシフトする動きをみせているが、G-7前の会見でロシアのクドリン財務相もドルに対する不信感を示した。また、同日スウェーデン中央銀行が外貨準備の1部を米ドルからユーロにシフトしたことを発表し、世界各所で、米ドルからユーロにシフトする動きが加速している。4月に入ってから、ユーロは対ドルで急上昇してきている。
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また、欧州からは日本に対しても不満の声が上がっている。フランスのブルトン財務相は会見で、中国と同様日本の為替にも問題があると名指していた。また、円が今後強くなっていくとの見通しも示したが、当局の高官がこうした特定の通貨の動きを予想するような発言をすることは極めて異例である。ユーロ円がユーロ発足以来の高値となる145円を付けたときの発言であることから考えると、欧州は現状のユーロ円水準に強い不満を持っていると推測できる。
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こうした流れを受けて、市場関係者のマインドも急速に変化してきている。ここ数ヶ月、円安予想優勢であったが、今週久しぶりに予想が円高ドル安方向に傾いた。金利差相場から政治相場に転換する可能性があることを市場も敏感に察知しているのかもしれない。116-119円のレンジが下に抜けてしまい、本邦投資家もドル買いに対して非常に慎重になっている。相場の方向がドル安円高方向に変わった可能性があることを十分意識する必要があるかもしれない。