2005年 4月30日の放送
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中国の人民元に対する切上げ観測がまたもや台頭してきている。過去何度となく蒸し返されてきた話題だが、すでに中国人はドルを借りてまで人民元建て預金をしているというから、多くの投資家はすでに手ぐすねひいて元の切上げを待っている状態なのかもしれない。むろん市場参加者もその流れに追いつこうと動いてきた。上のグラフは人民元の12ヶ月物の先物レート推移。2月にはいったん1ドル=8元近くまで戻したが、その後再落、現在は1ドル=7.85元前後で推移している。スポットレートは8.277だから、5%強の切上げを見込んでいることになる。
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今回のきっかけは、4月にワシントンで行われたG7会議だ。声明には盛り込まれなかったが、米国が声高に主張したことが報道され、市場にあらためて認識された。主張の背景は繊維産業。昔も今も“貿易戦争” (やや懐かしい響きがあるが)は繊維で始まる。これまで米国は繊維製品の輸入を割当ベースで行っていたが、昨年末にこれを廃止したため、中国からの製品が氾濫、米国の繊維産業が甚大な被害を被っているという。このため今年に入ってから、元をどうするかが米国にとって喫緊の課題となってきた。5月中にも中国が元の切上げに踏み切ると見ている市場関係者もいるが、29日に中国の新聞が同様の観測記事を載せたことで、米系の大手銀行からもその見方を支持する声が上がってきた。
本筋としては、WTO加盟に基づく外資規制の緩和が2006年末に完了するので、その後にペッグをはずすのが妥当だと思われるが、米国を中心に海外からの切上げ圧力は強まる一方であり、今年行われる可能性も確かに出てきた。だとしても、やはり年後半にずれ込む可能性が高いのではなかろうか。今行えば、米国の圧力に屈したというイメージを与える。むしろ年後半にずらして、自国の事情で行ったという格好に持っていくのが中国政府のやり方だと思われる。
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一方アメリカでは、28日に1-3月期のGDP統計が発表された。このところの株安で年後半の景気減速が懸念され始めたが、今回のGDP統計は原油高の影響がじわり出ていることを示し、米経済が減速気味に推移していることを示した。上のグラフの青色は、GDPの伸び率推移を示す(季節調整済み、前期比年率換算)。第1四半期は3.1%にとどまり、前期の3.8%から低下した。2003年第3四半期に7.4%という高い成長率を示現して以来、米国のGDP成長率はゆっくりとではあるが、低下傾向にあるようだ。
項目別の寄与度はどうか。内需(上のグラフの黄色部分。ここでは個人消費と民間設備投資、および住宅投資の3項目の各寄与度の合計を内需とした)は、3.3%と比較的健闘したが、それでも前期の4.6%増からは大きく勢いを失った。一方目立つのは、純輸出の寄与度の悪化。今回は1.5%減となり、前期の1.4%減からさらに悪化している。原油高による輸入額の膨らみが純輸出の悪化を促進している。市場は引き続き、年後半に向けての米景気減速シナリオを警戒しつづけることになろう。
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そのような減速期待はFRBの利上げ休止を期待させるが、インフレは徐々に悪化しつつあり、今後もFRBは慎重なペースでの利上げを継続する見込みが高くなっている。上のグラフは米CPIとコアCPI(前年同月比)と、GDPデフレーター(季節調整済み。前期比年率。3ヶ月毎に表示)の推移。いずれの指標も傾向としては上向きになってきており、今後の動向が非常に懸念される状態となっている。市場は比較的インフレ見通しには楽観的で、10年物米国債のイールドは4%台前半で取引されている。だが、グリーンスパンをはじめ、FRBのメンバーは大いなる懸念を持っており、昨今の物価指標はその懸念をますます増大させる方向に働いている。しばらくは景気は減速する一方で、インフレはじり高という展開が続きそうだ。
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徐々にドルの頭が重くなっている。もともとは、日中問題の噴出等でかなり市場の円売りポジションが増加していたため、少しでもドルが下がり始めると、ポジション調整のドル売り円買いが断続的に出やすい構図となっていたことが背景だ。だが、このところの元切上げ憶測の高まりで、新たにドル売り円買いポジションを作成する動きが加わっており、ドルの頭はますます重くなってきている。前述したGDP統計のように、米景気減速を示す経済指標が増えつつあることも、ドル売り材料となっている。
このような流れは目先もうしばらく続き、当面のドルの下値を探ることになりそうだ。105円を切るとドルロング筋のポジション調整が強まるとの見方が根強く、一時的に104円近辺までドルが下落する可能性もあろう。しかし一方で、日本の景気も決して強いわけではなく、日銀はまだまだゼロ金利を維持する見込みである。あまり大きな円高も期待できないと思われる。