2005年 4月9日の放送
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原油が相変わらず高値で取引されている。さすがに58ドル台の高値から下落して来たが、依然50ドルを優に超えるレベルで取引されている。高値というのは、一度目よりも二度目のほうが投資家に恐怖心をもたらす。一度目は需給が一時的にタイトになった、と説明できるが、二度目はそれが恒常化した印象を与える。このため投資家の長期ヘッジも入りやすく、また原油の高値恒常化を前提に企業は設備投資計画や収益計画を立てる傾向が強まる。そのような環境下、ついにグリーンスパンFRB議長もエネルギー価格に言及、「原油の高値推移が続けば、GDP対比で見たエネルギー利用は減少に向かう」と述べ、長期的に見れば原油高は米経済や企業行動に大きなインパクトを与える、との認識を披露した。今後エネルギーの節約志向が高まると同時に、代替化が進むという。特にグリーンスパンが言及したのが、液化天然ガス市場。2003年現在、世界のエネルギー消費の1/4しか占めておらず(原油は約60%)、今後原油の代替商品として大きく伸びることが見込まれると言う。上の図は原油の先物価格と天然ガスの先物価格の推移(ニューヨーク商品取引所、原油は1バレルあたりのドル、天然ガスは百万BTUあたりのドル価格)。天然ガス価格はまだ低迷しているが、原油高が恒常化すると、世界のエネルギー消費事情が大きく変わることは不可避のようだ。
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グリーンスパンのスピーチは、何か大きな変化を世界経済にもたらすように感じさせるが、今のところ世界経済の原油高の影響は軽微だ。IMFは世界経済報告書を7日に発表したが、今回の原油高局面は過去2回のオイルショック時より、影響が軽微だと言う。上はIMF資料『Oil Market Developments and Issues』に掲載された「名目の原油価格引上げがもたらす影響」と題した表の抜粋。第2次オイルショックの先進各国経済に与えたインパクトの大きさが再認識されるが、GDP成長への影響度という観点から見ると、今回はかなり軽微であることがわかる。為替がドル安に向かったこと、世界の総需要が堅調に推移したこと、原油への依存度が低下したこと、期待インフレ率が安定していること、などがその背景として指摘されている。
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確かにIMFが指摘するように、原油高の影響は今のところ軽微に留まっている。上は、原油先物価格(ニューヨーク商品取引所)と各国株価指数の推移。米国はS&P500、日本は日経平均、欧州はダウユーロ株価指数(EMU加盟国の株式18業種306銘柄を対象)を示し、8月最終週の価格を100として指数化したもの。この8ヶ月ほどで原油価格は20%強上昇したが、ユーロ株が16%、米株が7%強、日本が6%ほどそれぞれ上昇している。米国は原油高に加え、グリーンスパンが7回連続で利上げに踏み切っているが、今のところその影響はほとんど見られない状況となっている。日本はしばらく横ばい推移となっていたが、外人投資家による買い等の影響で、今年に入ってから堅調に推移している。先進各国経済は、ほとんど原油の悪影響を受けていないといって良いだろう。
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もしこのまま経済への影響が軽微に留まれば、日銀の金融政策の行方がますます注目されることになる。承知のように、日銀の当座預金残高の最低目標値は2001年以降順次引上げられてきた。当初5兆円の目標だったが、2001年8月に6兆円に引上げられてからは、同年12月に10兆円、さらに翌年(02年)10月に15兆円に引上げられている。この動きは2003年に加速し、4月に17兆円と22兆円の2回、翌5月には27兆円へ連続して引上げられている。株価はこの頃から大きく反転上昇し始めるが、日銀は手綱を緩めず、ついに2004年1月には30兆円へ引上げたのである。このような急速な動きは、財務省の大規模介入に呼応したとの見方がもっぱらだが、結果的には株価上昇や景気浮揚に寄与し、原油高の現在も日本経済はそこそこ堅調に推移している。
そうなると、今後ますます市場は日銀の金融政策変更(=当座預金目標残高の引下げ)を真剣に考えることになろう。世界的に見ても、各国中央銀行は過剰流動性の回収に動いており、ゼロ金利の日銀は完全に取り残されている。今や「出口戦略」の模索が、福井総裁の最大の課題となってきた。
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来週のドル円は高値圏でのもみ合いか。GSEC指数は50ちょうどとなっており、ブルベア拮抗状態。来週は米FOMC(3月22日開催分)の議事録公表があり、これを材料にドル一段高を予測する声がある一方、110円を前にして、いったん調整局面入りを予想する向きも多い。金利差拡大が注目されるドル円だが、米国双子の赤字問題も健在であり、現状から110円を超えて行く展開は難しそうだ。