2004年 11月20日の放送
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先週このスタジオで私が予想した通り、ドル円相場は、今週心理的な抵抗ラインであった105円をあっさり割り込み、103円65銭まで下落した。昨日よりフランクフルトで開催されているG20財務省・中央銀行総裁会議や、明日サンチアゴで開かれるAPEC首脳会議を前に、一時様子見気分が強まったが、市場のドル安観は引き続き根強く、特段の材料もないまま、105円割れとなった。この勢いでは、年初来最安値の103円42銭を超えて円高が進行するのは時間の問題といえよう。
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最近のドル安の原動力は、いうまでもなく対GDP比で年率5.7%に達する巨額の米経常収支赤字に対する市場の懸念であるが、それを取り巻く、日米欧当局による為替政策スタンスの微妙なすれ違いも、ドル安の一因になっているように感じられる。まず、米当局は、市場でもたらされる秩序あるドル安をむしろ歓迎しているようにみえる。これは、何がしかのドル安による経常収支赤字削減効果を期待する一方で、あらかじめドルが緩やかに下落することで、将来のドル暴落リスクが軽減されることもまたよしとしているのかもしれない。さらに、欧州当局は、ユーロの特定な水準より、むしろユーロ高のスピードを懸念しているようである。また、ユーロ域内のインフレ抑制に引き続き軸足を置いていることから、近い将来、欧州中銀が、ユーロ売り介入を実施する可能性は低いとみることができる。
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一方、先週もこのコーナーで述べたとおり、歴史的に1ドル=100円を防衛するドル買い介入を繰り返してきたわが国の通貨当局は、常識的に考えれば、今回も、102−103円近辺で介入を再開する公算が高いということができる。わが国財務省は円売り介入の必要円資金を、外為特会を通して借り入れることで賄っているが、その借入金には、予算上の制約が設けられている。すなわち、円売り介入は論理的には無制限に実施可能であるが、現実には予算の制約を受けることになる。しかしながら、今年度当初予算の当該借入限度は140兆円に大幅増額されたため、現在の外為特会の借入残高93兆(6月末)を差し引いても、47兆円の円売り介入を来年3月までに実施することが可能であり、1ドル=100円防衛のための「軍資金」にはまったく事欠かないといえよう。
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しかし、外為特会は、借入金の大半を為券とよばれる政府短期証券(FB)の発行で賄っているため、昨年1月以降実施された35兆円に及ぶ大量介入によって、為券の発行残高は93兆(6月末)に急増している。2002年12月末の為券残高は44兆円であったから、この1年半で発行額は倍以上に急膨張したことになる。したがって、FBの大半が、短期金融市場で売却されていることを考えれば、過去1年半における49兆円にのぼるFBの売却額純増は、潜在的な短期金融市場の波乱要因といえよう。このような現状を考えれば、予算的に47兆円の介入余力があるからといって、それをすべて円高阻止につぎ込むことは、さらなる短期金融市場の波乱要因になりかねない。また、介入に対する米国の出方も未知数であり、日本の財務省は、近い将来、なかなか難しい戦略の選択を迫られそうである。
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私は、G20財務相・中央銀行総裁会議で、最近のドル安に対する懸念が示されるとは考えていない。現に昨年のG20共同声明は、為替相場に関する言及すらなかった。また、G20やAPECでの米中首脳会談も含めて、中国の為替制度の柔軟化に関する言及が何らかの形でなされれば、それは、新たなドル安・円、アジア通貨高要因となる。GSEC指数が依然50%を大幅に割り込み38.5%となっていることをみても、市場のドル安センチメントは引き続き根強い。ドルは、今週、100円を目指す展開となる公算が高い。そうなれば、わが国の通貨当局から、介入を含めて何らかのアクションがなされる可能性が高く、その場合、感謝祭休暇やヘッジファンドの決算を控えて、ドルの買戻しが誘発され、1ドル=105円台までの反発も期待される。