2004年 10月2日の放送

< 1 >

 9月27日に第二次小泉改造内閣が発足したが、郵政民営化の陰に隠れて、どうもこの内閣は、増税断行内閣の色彩が強い。閣僚の顔ぶれをみると、谷垣財務大臣の留任に加えて、中山文部科学大臣、村田国家公安委員長、大野功統防衛庁長官の3名が財務省出身者、また、村上行革担当大臣も親財務省派である。さらに、党三役の中にも、与謝野政調会長はきわめて財務省に近い。また、公明党も基本的に所得税増税をサポートしている。

 すでに決まっている社会保障料の増額等の家計負担増は1兆円に達する。加えて、現在政府税調で議論されている定率減税の撤廃・削減は、来年度中に実施となる公算がきわめて高い。定率減税が一度に撤廃されれば、社会保障料負担増と合わせた家計負担増は5兆円に達する。これは、9兆円の国民負担増によって景気腰折れとなった1997年を髣髴とさせる。

< 2 >

 郵政民営化法案は、来年度通常国会において、予算案成立後議論される可能性が高い。郵政民営化の本質のひとつは、巨大国営銀行の誕生であり、今ひとつは、多額な政府債務をファイナンスする機能を政府から切り離すものである。前者は、郵貯による企業融資業務の開始を意味するが、民営化の議論が、不幸にして来年4月1日のペイオフ解禁と重なるため、地方金融機関からの預金流出を加速しかねない。最悪の場合は、金融不安が起こる。

 また、現在、郵貯は預金を原資に国債を購入して、巨額の政府債務をファイナンスしているが、民営化によって、大量の国債売却が短期間に実施されれば、国債市場の混乱を誘発することになる。

< 3 >

 わが国景気の循環的な減速(シクリカル・スローダウン)がより鮮明になってきた。9月30日に発表された8月の鉱工業生産速報では、生産が前月比0.3%増と市場の事前予想を下回ったうえ、出荷が同2.1%減少する一方、在庫が同2.0%増加し、意図せざる在庫積み増しの様相を呈してきた。さらに、昨日、発表された9月の日銀短観でも、9月の業況判断指数(大企業・製造業)こそ26%と市場の事前予想を上回ったものの、12月は21%と大きく落ち込む予測となっている。さらに、中堅企業・製造業も業況判断指数も、12月には10%と9月対比4ポイントも落ち込んでいる。

 このようにシクリカル・スローダウンが、これまで述べてきた増税や金融不安と重なれば、景気の落ち込みはより深刻なものになろう。

< 4 >

 このようにみてくると、来春には、経済的なリスクイベントが目白押しであるが、さらに、4月24日には衆院福岡2区の補欠選挙という政治イベントが加わる。

 すでに、自民党から、今回の内閣改造で首相補佐官に就任した山崎拓前自民党副総裁の立候補が確実視されているが、民主党からも有力候補擁立の公算が高い。この文字通りの自民・民主の一騎打ちで、小泉首相の朋友であり、首相補佐官でもある山崎氏が敗北すれば、小泉政権のさらなるレームダック化は不可避であろう。また、一気に、解散総選挙・政権交代となる可能性すら否定できない。

 したがって、今後、6ヶ月間を見通せば、株安・円安が大幅に進行する可能性がある。

< 5 >

 過去2週間にわたり市場で展開された半期末を控えたわが国の輸入業者や機関投資家のドル買い支えられたドルの上昇は、北朝鮮のミサイル発射疑惑や原油価格上昇、わが国景気の減速をもてはやして積み上げられた海外投機筋のドル買いポジションが整理されることによって、すでに、終焉を迎えた。

 市場にはいぜんドル買いポジションが残っている公算があり、この場合、さらなるポジション調整によって、109円台の前半までドル安が進行する可能性があるが、市場は再びリスクのバランスを取り戻しており、今後、短期的に大きくドル安あるいはドル高が進行するとは考えにくい。

 したがって、ドル円相場は、今後数週間、110円を中心とした狭いレンジで取引されよう。