2004年 9月4日の放送

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 外国為替市場ではこう着状態が長期化しているが、これは国際的な資本フローが停滞しているためである。図をみても、対内並びに対外株式投資のネット金額は本年初めに比べて、著しく減少してきている。

 国際的な資本フローが停滞しているのは、最近の原油価格高騰や米国景気の鈍化傾向から、金融市場のメインテーマが「グローバル・リカバリー」から「グローバル・スローダウン」に変化したことによって、先き不透明感が広がり、投資家の間にリスクを回避する動き(リスク・アバージョン)が高まったためである。実際、ある外国金融機関のサーベイによると、世界のファンドマネージャーのキャッシュ比率は、9月11日の同時多発テロ直後まで高まっている。

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 日本時間の昨夜発表された米国の雇用統計(8月分)によれば、非農業雇用者数は前月比144千人の増加、また7月分も先月発表された32千人増から73千人増に上方修正された。ただ、8月分がほぼ市場の事前予想通りの数字であったこともあり、外国為替市場の反応は若干のドル上昇にとどまった。 また、雇用の増勢を、非農業雇用者数の3ヶ月移動平均でみると、5月の前月比295千人増から8月には104千人増へ、明らかに鈍化してきている。したがって、引き続き米国並びに世界経済に対する減速懸念は払拭されるには至っておらず、この雇用統計の結果を受けて、現在投資家の間に広がっているリスクを回避する動きがたちまちなくなり、国際的な資本フローが回復するといった状況にはない。

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 11月の米国大統領選をまえに、米国景気の減速傾向が一段と鮮明になった場合、米国政府は、10月のG7会合で選挙対策として急遽ドル安政策を採用するとの思惑が市場の一部にある。いわば、去年のドバイG7の再来シナリオである。日本時間の昨日午前中に発表されたAPEC財務相会談の共同声明において、より柔軟な為替相場制度への移行を歓迎するという文言が盛り込まれたことも、そういった観測を助長している。

 しかし、私は大統領選前に実際に米国政府がドル安政策が採用する可能性は低いとみている。まず、ブッシュ陣営が短期的な選挙対策としてドル安誘導が有効と考えているとは思われない。デフレ局面ならともなく、現在のように、原油価格高騰によるエネルギー価格の上昇が、米国景気減速の一因とすれば、手放しでドル安を容認することも容易ではない。また、そもそも、中国元の切り上げについては、今年の初めに、米中間で、米国がこれ以上の圧力をかけない代わりに、中国は金融市場を米国金融機関に開放するということで話がついたとみられている。さらに、APEC共同声明は、「もし各国が好ましいと認めるなら」と、極めて控えめな言い回しになっている。

 したがって、今後数ヶ月間に、昨年9月のドバイG7のようなことが起こって、ドルが急激に下落するといった事態は想定し辛い。

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 このように、国際的な資本フローが滞る中、外国為替市場のリスクは当面バランスしているようにみえる。ただ、もし大きく動くとすれば、私は円安方向とみている。ここで、鍵となるのは、やはり資本の流れである。

 私は、8月の下旬のアスペンの会合で各国の金融関係者と会い、情報を交換したが、そこで印象に残ったことのひとつは、海外の投資家が、引き続きわが国経済を楽観しており、したがって、わが国のアセットをオーバーウエイトにしたままであるということである。実際、対内株式投資を、昨年初めから累計すると16兆円にものぼる。

 そのような中で、グローバル・スローダウンが進行した場合、日本経済の減速も避けられず、必ず日本サイドのネガティブ・サプライズに繋がる。これは、そもそもわが国経済に楽観的で、しかも、日本のアセットをオーバーウエイトにしている海外投資家にとって、日本のアセットを落とすか、あるいは円買いポジションをヘッジする十分な動機となろう。  したがって、私は、もしドル円相場が大きく動くとすれば、日本発のネガティブ・サプライズによって、日本からの資本流出が誘発されるときであり、その可能性はあると考えている。

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 すでに述べてきたように、グローバル・スローダウンの懸念によって先行き不透明感が高まったため、投資家の間でリスクを回避する動きが強まり、国際的な資本フローが滞っている。このような中では、為替相場は方向感を欠き、ドル円相場は、当面、108円から112円のレンジ取引が続こう。

 また、米国経済の更なる減速が、近い将来において、米国のドル安政策を招来する可能性も低いと考えている。

 その様な中で、もしドル円相場が大きく動くとすれば、日本発のネガティブ・サプライズによって、日本からの資本流出が誘発され、円安が進行するときであろう。