2004年 8月7日の放送

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 今週木曜日に、原油相場は、世界経済の拡大に伴う需要増加見通しに加え、ロシア最大の石油輸出会社ユコスの生産停止による供給懸念から続騰し、TWI先物は、史上最高値を更新して1バレル=44ドル71セントまで上昇した。これを受けて、ドル/円相場も111円後半まで反発したが、これは、外為市場において、わが国が石油を100%輸入に頼っているため、日本経済の原油価格上昇に対する脆弱性が円安を招くという見方である。ただ、われわれの分析では、わが国のエネルギー効率が、米国のそれを2倍近く上回っているため、たとえ日本が原油を100%輸入に頼っていても、原油価格上昇が経済成長率にあたえる影響は日本のほうが米国より軽微と分析している。しかし、市場には、前述のような日本の原油脆弱説が支配的なため、それが為替相場に影響を与えざるを得ない。

 また、日本を除くアジア諸国の多くは、石油をほぼ100%輸入に頼っている上、エネルギー効率が低いため、原油価格上昇の経済に与えるネガティブな影響が無視し得ない。したがって、原油価格の上昇は、アジア経済の減速を通じて間接的にわが国経済に悪影響を及ぼすため、円が売られやすいとも市場では見られている。

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 しかし、私は、原油価格の高騰は、通説に反して米国経済にデフレーショナリーな影響を与えるという点に注目している。

 なぜ、原油価格の高騰が米景気にデフレ圧力を及ぼすかというと、原油価格が上昇しても賃金・一般物価といった全般的なインフレ圧力が非常に抑制されているため、物価上昇はエネルギー価格のみに限定され、購買力の減少から、実質個人消費が減少するためである。実際に、最近の消費者物価の推移を見ても、エネルギー価格が上昇傾向を示している上で、食品・エネルギーを除いた、いわゆる、コア・インフレは極めて落ち着いた動くを見せている。すなわち、これは、私が、現在の局面を構造的なデフレ局面における循環的インフレと分析していることの証であり、したがって、原油価格が史上最高値を更新し続けているのにも関わらず、インフレ懸念の高揚が見られないのである。

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 また、このようなエネルギー価格上昇による購買力の減少は、すでに個人消費に現れてきており、6月の実質個人消費は、前月比0.9%減少した。これは2001年9月以来の大幅減少である。また、7月の個人消費をみると、自動車販売は回復してきているものの、自動車以外の小売店販売は引き続き低迷している。グリーンスパンFRB議長は、原油価格の上昇を一時的と見ているものの、議長の見立てに反して原油の高騰が継続すれば、実質個人消費への悪影響は避けられまい。

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 さらに、米国雇用の増勢は明らかに鈍化の兆しが出てきている。昨日発表された7月の非農業雇用者数は、前月比32千人増加となり、市場の事前予想の215千人を大幅に下回った。これは昨年12月以来の低い伸びである。また、6月の雇用者数も前月比112千人から78千人の増加に下方修正された。これらは、外為市場にとって明らかなネガティブ・サプライズであり、それを受けて、ドル円相場は、110円割れまで急落した。

 エネルギー価格上昇による購買力の減少が、実質個人消費に悪影響を及ぼす上、雇用増加の鈍化によって名目所得も伸び悩めば、消費性向が短期的に大きく低下する可能性が低くとも、個人消費の落ち込みは避けられまい。

 したがって、Fedは、来週10日のFOMCで市場の予想通り0.25%の利上げを決定する公算が残るものの、それ以降の金利引き上げに関しては、疑問符が付かざるを得ない。

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 そのような中、ドル/円相場は、当面、108円から112円のレンジで調整局面を向けることになろう。GSEC指数も50.0と、ディーラーも持ち合いを予想している。また、来週木曜日に発表される7月の米小売売上高が注目される。事前予想は、全体で前月比1.0%、除く自動車では同0.4%となっているが、これらを下回る伸びになれば、さらなるドルの調整が予想される。ただ、米国景気の陰りは、米国株安を通じて日本株の下落に反映されるため、円の上昇も限定的とみられる。