2004年 6月12日の放送

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 外国為替市場では、「米国の金融引き締めのテンポ」と「日本経済に対する再評価」という相反するテーマが交錯することで、海外投機筋による売買が交錯し、値動きが激しい割りには方向感のない展開が継続している。ただ、5月以降のドル/円相場の動きを振り返ると、日経平均株価とパラレルの動きを示しており、特に5月中旬以降は、わが国の株価が上昇すれば、円も上昇するという傾向を示してきている。

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  特に海外投資家中心にわが国経済に対する再評価の動きが強まっているのは、過去数週間、米国の利上げのテンポが緩やかなもにとどまるとの見方が支配的になる中、中国の金利引き上げのタイミングも先延ばしされる可能性が高まり、さらに今週に入ってから発表されたわが国の経済指標が、景気の好調さを裏付ける内容となったためであろう。水曜日に発表になった本年1−3月のGDP統計2次速報値では、実質経済成長率が前期比年率5.6%から6.1%に上方修正された。しかし、その中身をみると、上方修正は在庫投資の寄与度が同0.9%から2.0%へ上方修正されたためであり、GDPから在庫投資を除いた最終需要の伸びは、逆に同4.8%から4.1%へ下方修正されており、GDP統計に関しては評価が分かれている。また、木曜日に発表になった。

  4月の機械受注統計では、設備投資の先行指標である船舶・電力を除く民需が前月比11.8%増と、市場の事前予想である同2.3を大幅に上回り、昨年10月の同12.8%増以来の高い伸びとなっている。この結果を受けて、海外投機筋を中心に円買いの動きが強まっている。

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  一方、火曜日にロンドンで開催された日米欧の3中銀首脳による金融関係の公開討論会で、ワシントンから衛星回線を通じて参加したFEDのグリーンスパン議長は、スピーチの中でインフレに対する懸念に言及した。米国では、景気拡大、原油価格上昇がじわりとインフレ圧力へ結びつき始めており、コアCPI上昇率は昨年12月の前年比1.1%が本年4月には同1.8%に、またコア個人消費デフレーターの伸びも同期間に同0.8%から1.4%へ上昇傾向をみせている。

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  また、グリーンスパン議長は、同スピーチの中で金融緩和によるマネーサプライの増大が早晩不必要になると述べ、流動性の増大がインフレに結び付く懸念にも言及した。米国では今年になってマネーサプライの伸びが急速に高まっており、本年5月には3ヶ月前比年率でみたマネーサプライの上昇率はM2で10.8%、MZMで12.1%まで高騰している。この結果、FEDによる金融引き締めのテンポは、これまで市場が考えていたものより速やかになるとの観測が強まり、外国為替市場におけるドル買いに繋がっている。

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  さらに、わが国を取り巻く資金フローを見ると、いぜん資本の流出傾向が継続していることがわかる。5月31日に始まる1週間における対内株式投資は177億円の売り越しと、株価指数の入れ替えによる機械的な買い越しを調整したベースで、5週連続の売り越しとなっている。また、同期間の対外株式投資も1,039億円と、10週連続の買い越しとなっている。

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  このように、外国為替市場では、「米国の金融引き締めのペース」と「わが国経済に対する再評価」という2大テーマが交錯し、また、フロー面では海外投機筋の円買いと内外投資家の円売りが相殺し、値動きこそ荒っぽいもののいぜん方向感のない展開が続いている。また、今後、1週間を展望しても、この市場の構造に大きな変化はないものと考えられ、引き続き円相場は、やや広いレンジ内で方向感のない転換となろう。GSECが今週木曜日に内外の為替ディーラーに対して行ったアンケート調査によるとGSEC指数は42.3と、市場参加者は今後1週間、ドル/円相場が大きく一方向に動かないとみている。

  すでに述べたように、海外投資家は、わが国の景気・株価に再び楽観的になってきているが、それはいまだ資本の流れに結びついていない。今後、相場がどちらかに大きく動くすれば、日本株に強気になった海外投資家が、実際に対内株式投資の動きを強め、外国為替市場において円が買われ始めるときであろう。