2004年 6月5日の放送
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米国の利上げ観測を受けて5月中旬には1ドル=114円90銭まで円安となったが、それ以降、「米利上げのテンポはむしろ緩やかなものにとどまる」との見方が支配的となり、海外投機筋を中心に円を買い戻す動きが強まったため、今週月曜日には、1ドル=109円09銭まで円高となった。
特に先週から、外国為替市場の参加者の間では、円高センチメントが非常に強く、それが上述ような海外投機筋の円買いを招いたものの、資本フローをみるといぜん流出傾向が継続していることがわかる。先週、外国人投資家による対内株式投資は2,337億円の買い越しとなったが、これは株価指数の入れ替えによる機械的な資本流入が4,000億円程度でたためで、これを除くと、外国人投資家は4週連続本邦株式を売り越したことになる。対内株式投資が4週連続売り越しになったのは、実に2003年3月以来のことである。
また、国内投資家による対外株式投資も978億円の買い越しとなり、これで国内投資家は海外株式を9週連続買い越したことになる。さらに、先週は国内の個人投資家も海外債券を買い越したとみられている。
このように、投機筋の円買いによって1ドル=109円まで一旦円高がすすんだものの、資本フローはむしろわが国からの流出、すなわち円安傾向であったために、今週、円高は続かずに、逆に1ドル=111円台まで円が反落する結果となった。
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昨夜発表されたばかりの米国5月の雇用統計によると、非農業部門雇用者数は前月比248千人増と、事前予想の225千人を上回った。また、4月の雇用者数の増加は同288千人から同346千人、また、3月のそれも337千人から353千人にそれぞれ上方修正された。しかし、6月29、30日に開催されるFOMCにおいて、0.25%の金利引き上げが実施されるという市場の中心的な見通しには変更がなく、したがって、ドル円相場も若干ドル高となるにとどまった。
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今週3日にベイルートで開催された石油輸出国機構(OPEC)の臨時総会では、ほぼ事前の予想通り、8月までに日量250万バレルの増産が合意された。しかし、この増産はすでに市場に織り込まれていたため、会合後の原油価格の下落は極めて小幅なものにとどまり、引き続き1バレル40ドル前後で取引されている。
外国為替市場において、原油価格の高騰は、石油をすべて輸入に頼っているわが国経済に大打撃となるため円売りユーロ買い・ドル買い要因とみられている。また、米欧の比較では、米国においてはガソリン価格の上昇から個人消費が減少するため、金利引き上げのペースが緩やかになる一方、欧州においては、構造的なインフレ体質からむしろ欧州中銀(ECB)が金利を引き上げる必要が出てくるため、ドル売り・ユーロ買いと捉えられている。
しかし、私のところで日米欧のエネルギー効率を算出したところ、1ドルのGDPを算出するのに必要なエネルギーの量は、原油換算で、わが国の128グラムに対して、欧米はそれぞれ170グラム、221グラムとなり、わが国経済のエネルギー効率がG3中もっとも優れているとの結果となった。
また、エネルギー価格が原油換算で1バレルあたり10ドル上昇したときの経済成長率にあたえる悪影響を試算したところ、わが国は0.95%にとどまったのに対し、欧米はそれぞれ1.26%、1.63%と、わが国がもっと原油価格上昇の悪影響を受けないことになった。
このような観点からは、外国為替市場の通説である「原油高=円売り」は必ずしも正しくないと考えられる。
このようなわが国株式市場からの資金流出は円安の進展を招いている。ドル/円相場は、先週に114円88銭まで円安が進んだ一方、今週になってユーロ/円相場は137円87銭まで円安となっている。
すなわち、インフレ懸念と米国の利上げ観測が、過剰流動性の減少期待を通じて、わが国からの資本流出を誘発した結果、円相場は、対ドル、対ユーロで、年初来の安値からそれぞれ10円以上の円安となったとみることができる。
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意外なことに、歴史的にみれば、米国の金融引き締め局面には逆にドルが下落していることが多い。 たとえば、90年代に入ってからでも、94年1月から95年2月の利上げ局面において、ドルは111円から80円まで下落しており、また、99年5月から2000年の5月までの引き締め局面においても、ドルは122円から105円まで下落した。
ここで注目すべきは、米国の利上げを契機に中南米経済が不安定化し、それが米国経済に波及してドルが下落するいう経路である。これは、米国経済が中南米経済と非常に結びつき強いために起こる。実際に、94−5年の引き締め局面ではメキシコ危機が、99−2000年の引き締め局面ではアルゼンチン危機が、それぞれ外国為替市場においてドル売り材料となった。
6月のFOMCにおける0.25%利上げはほぼ確実視されており、今回の引き締め局面でも、中南米経済が不安定化し、それがドル売りに結びつく可能性がないとはいいきれない。
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6月末のFOMCにおける0.25%の利上げはすでに完全に市場に織り込まれた。また、来週発表される米国5月の消費者物価指数によって、この予想が変更される可能性は低いと思われる。さらに、OPEC総会において合意された増産幅もほぼ市場の予想通りであったため、原油価格も今後大きくは動くことはないと考えられる。したがって、為替相場は、ここ1ヶ月間米国の利上げと原油価格上昇を材料に大きく上下に変動してきたが、これらの材料はもはや新鮮味に欠けるといえよう。
そのような中で、ドル円相場は当面、新たな材料が出てくるまで方向感のない狭いレンジでの取引が予想される。
今のところ、近い将来、どのような要因が為替レートを再び大きく動かす材料となるのか予測がつかないが、中国の利上げの時期、イラク・サウジ情勢、インドネシア大統領選挙の行方等に注目しておきたい。また、米国の利上げによって、中南米経済が不安定化するか否かも重要な要因となり得る。