2004年 5月29日の放送
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世界経済のパラダイムが、これまでのデフレ化の金融緩和から、インフレ下の金融引き締めに大きく変化しようとしている。
2000年以降、世界的にディス・インフレあるいはデフレ圧力が強まり、世界各国の中央銀行は挙って金融緩和政策を推進してきた。この世界的なデフレ化の金融緩和が国際的な過剰流動性を生み、それが各国の株式市場に流入することで、世界の株式市場はここ1−2年間活況を呈してきたといえる。図は、中国と米国のマネーサプライの伸びを見たものであるが、2001年以降、前者は前年比15−20%増の高水準を維持している一方、米国のそれもつい最近まで8-10%の高い伸びを続けてきた。
しかし、本年に入って、中国経済の過熱感が強まっていたところに、米国経済にもインフレ懸念が芽生えてきた。これを受けて、中国人民銀行はすでに銀行融資を抑制し、米FRBも6月の利上げが確実視されつつある。すなわち、世界経済のパラダイムは、世界的なインフレ下の金融引き締めへ変化しつつあり、2000年以降、デフレ化の金融緩和によって増大した国際的な過剰流動性は今後減少していくであろう。したがって、今後、こうして起こる過剰流動性の減少は、各国株式市場にネガティブな影響を与えていくと考えられる。
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このようなパラダイム変化がもたらす株価の調整は決して一時的なものではなかろう。
そして、その影響は、すでにアジア諸国の株式市場の株式市場に表れてきている。タイの株価はすでに年初来2割以上下落している一方、香港の株価も昨年末に比べ1割程度下落している。また、韓国の株価も4%下落している。こういったアジア各国の株価下落は、それぞれの国内的な要因もあるものの、インフレ下の金融引き締めがもたらすであろう国際的な過剰流動性の減少懸念によって、引き起こされているとみるべきであろう。
また、最近、わが国の株価が下落基調に転じたことも、決してその例外ではないないと思われる。
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パラダイムの変化に拍車をかけているのが最近の原油価格の高騰である。このところ原油価格は1バレル40ドル以上で取引されているが、これは実に第二次オイルショック以来の水準である。
原油価格は73年、79年の2回のオイルショックを経て高騰した後、85年以降ほぼ一貫して1バレル10−20ドルの水準で低位安定してきた。また、1990年と2000年には原油価格が30ドル以上に高騰したが、いづれも一時的な現象であった。
しかし、イラク戦争の長期化、パレスチナ問題の激化、サウジアラビアの不安定化等から、現在の原油価格高騰は長期化する可能性が否めず、そうなれば世界経済にとって決定的なダメージとなろう。換言するなら、最近の原油価格上昇は、世界経済にとってここ数年では最大のリスクであり、最悪の場合、第3次石油危機が勃発する可能性も残されている。
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また、もっと長期的には20年以上続いたディス・インフレの時代が終焉を迎えた可能性も否めない。
2回の石油危機を経て原油価格が高騰した影響もあり、1970年代から80年代の半ばまでの先進国経済は、文字通りインフレとの死闘を繰り返した。しかし、85年以降、原油価格が暴落したことに加え、アジアや中南米の新興経済国が工業製品の供給能力を増やしたことで、先進国経済はディス・インフレの時代に突入した。さらに、90年代に入ると、ベルリンの壁崩によって、ロシア、東欧諸国、また中国が資本主義経済に組み入れられることによって、世界の工業生産能力はさらに拡大し、ディス・インフレはデフレへと変貌を遂げた。
しかし、このような85年以降出現し、工業生産応力の拡大に貢献してきた新興経済諸国は、自らの経済成長と成熟化によって工業製品のネット供給者からネット需要者へ変化しつつある。たとえば、そのよい例が中国である。そして、このように世界経済がふたたび85年以前の需要過多状態に逆戻りする中で、原油価格も80年代初めの水準まで大きく上昇している。
このような見方をすれば、世界経済は、約20年間継続したディス・インフレの時代に終止符をうち、再びインフレの時代の扉を開きつつあるのかもしれない。