2004年 5月22日の放送
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5月7日に発表された米国4月分の雇用統計において、非農業雇用者数の伸びが288千人と市場の事前予想を大幅に上回ったことを契機に、その後の2週間で6月に開催されるFOMCにおいて0..25%の利上げ実施が完全に市場に織り込まれた格好になっている。これを受けて、10年物米国債利回りは5月13日に4.85%まで上昇した。
また、原油相場の上昇もインフレ懸念の高揚に一役買っている。原油価格は米国債利回りとテンポを同じくして上昇し、最近では1バレル40ドルを越える水準で取引されている。ただ、足元では、米国の長期金利、原油価格の双方において、上昇テンポに鈍りが出てきている。
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インフレ懸念と米国の利上げ期待は、国際的な過剰流動性の減少を通じて、わが国からの資金流出を引き起こしている。わが国投資家の対内株式投資は、新会計年度入りという季節的な要因もあって、外国株式の買い越し額が、3月中旬以降すでに週1千億円程度のペースで推移していた。
それに加えて、FRBによる6月利上げ説が濃厚になってきたことで、海外投資家によるわが国株式の売却が誘発され、先週の対内株式投資はほぼ3千億円の売り超しとなった。これは実に2002年9月以来の週間売り越し額である。
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このようなわが国株式市場からの資金流出は円安の進展を招いている。ドル/円相場は、先週に114円88銭まで円安が進んだ一方、今週になってユーロ/円相場は137円87銭まで円安となっている。
すなわち、インフレ懸念と米国の利上げ観測が、過剰流動性の減少期待を通じて、わが国からの資本流出を誘発した結果、円相場は、対ドル、対ユーロで、年初来の安値からそれぞれ10円以上の円安となったとみることができる。
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一方、わが国のデフレもようやく出口に差し掛かってきた。今週、発表されたわが国本年1−3月期のGDP統計では、実質GDPが前期比年率5.6%増と、伸び率こそ昨年10-12月期の同6.9%よりやや低下したもの、いぜん高成長を維持した。
さらに注目すべきは、名目GDP成長率が前期比年率3.2%と、96年10−12月期以来の高成長となったことである。この結果を受けて、外国為替市場では、今週開催された金融政策決定会合において、日銀が当座預金目標を引き下げるとの思惑から、一部で円が買われる動きも見られた。
これはさすがに気の早いはや反応と感じられるが、原油価格が1バレル40ドルまで高騰する中で、名目成長率が3%台まで回復したことは、日銀が量的金融緩和の解除、すなわち出口政策を真剣に視野に入れる必要性が生じてきたことを意味している。すなわち、わが国経済のリスク・ファクターも、デフレからじわりとインフレ方向に移行しつつあると見ておいたほうがよいであろう。
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6月のFOMCにおける0.25%利上げ実施はほぼ完全に市場に織り込まれたとみてよい。また、原油価格の上昇テンポも鈍ってきている。したがって、国際的な資金フローにおいても、インフレ懸念と米利上げ期待がもたらすわが国株式市場から資本流出もとりあえず一段した感があり、また、わが国投資家による新年度の対外証券投資も一巡した模様である。さらに、わが国のデフレも出口差し掛かった公算が出てきた。したがって、6月上旬に米国5月の雇用統計が発表されるまでは、ドル円相場は、明確な方向感がない中、いわゆる、レンジ取引となる可能性が高い。