2004年 5月8日の放送

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  今週4日に開催されたFOMC(米連邦公開市場委員会)が会合後に発表した声明文は、全体のトーンは引き続き緩和基調が強い内容となっているが、「緩やかなペースで金融緩和政策は解除することができる(policy accommodation can be removed at a pace that is likely to be measured.)」と、近い将来における金融引き締めの可能性に言及した。今後、FOMCは、6月と8月に開催されるが、いづれかの会合でFFレートの引き上げ(現行1%)が決定されれば、2000年5月以来の利上げとなる。

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  昨日発表された米国4月の雇用統計では、非農業部門雇用者数が前月比288千人増と、事前予想(170千人)を大幅に上回る増加となった。また、2月、3月の雇用者数も、それぞれ前月比83千人増、337千人増と、先月発表された数字(46千人、308千人)から上方修正された。さらに、4月の失業率も5.6%と、3月の5.7%から低下した。米国における雇用の増勢は継続しているといえよう。

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 米国によるイラク人への拷問は嫌悪感を覚える出来事である。この報道は、ベトナム戦争時にソンミ村虐殺報道が米国国内世論の反戦ムードを煽り、73年1月、米国のベトナム敗退につながったのと同様、今後、イラク戦争に対する米世論の反戦ムードを高揚し、ブッシュ大統領にイラクからの撤退を余儀なくする可能性がある。これはブッシュ政権にとって大打撃となる。

 また、イラク・中東情勢の混迷を契機として、原油価格は1バレル40ドル近くまで上昇し、第3次オイルショックの様相を呈してきた。グリーンスパンFRB議長も懸念を呈しているように、原油価格の上昇は、インフレの芽が出てきた米国経済にネガティブなインパクトを及ぼすであろう。

 1970年代の前半に、米国がベトナム戦争に敗れ、第1次オイルショック(73年10月)によって原油価格が1バレル2ドルから13ドルに高騰した際、ドルがいづれの場合も暴落した記憶がよみがえってくる。

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 世界的な過剰流動性に支えられた各国株式市場の活況に転機が訪れつつある。日銀の量的緩和に加え、FRBが2002年11月来、1%前半のFFレート誘導水準を維持してきたため、世界的な過剰流動性が発生し、過去1年超にわたり、各国株式市場の活況を支えてきた。

 しかし、これまで述べてきたように、米国の金融政策は、来月にも引き締めに転じる公算が高まっている。また、景気過熱に歯止めがかからない中国では、すでに金融引き締め政策が実施されている。これは、世界経済にとって、大きなパラダイムの変化であり、今後世界的な流動性は減少していこう。

 これを受けて、各国の株式市場にも変調が出てきている。米国の株価は、すでに年初来低下傾向を示している。また、こういった世界的な過剰流動性が、わが国株式市場に流入し、これまで円高と株高の同時進行を招いてきたが、世界的な金融引き締め傾向が懸念され始める中で、わが国の株価もここ数週間で下落基調に転じ、また、為替市場では円安傾向が強まっていると見ることができる。

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 市場は、引き続き、「米国の利上げ=ドル高」と捉えている。来週発表される米国の物価統計(生産者物価と消費者物価)が、先月に引き続きインフレ懸念の高揚を示唆する内容となれば、6月利上げ説が強まり、ドルは113円を窺う展開もあり得る。また、世界的な金融引き締め気運が強まる中で、わが国の株式市場に変調が表れていることも、円売り材料である。 しかし、すでに述べたように、イラク情勢はまさにベトナム化の一途をたどっている。イラク人拷問報道によって、ラムズフェルド国防長官の更迭も視野に入ってきた。また、原油価格の上昇が米国経済に与える悪影響も懸念される。しかし、一方で、わが国の株式市場も下落傾向に転じている。したがって、景気動向は、今ひとつ冴えないものの、消去法的にユーロが買い進まれる地合いが出てきたとみることできる。