2004年 3月20日の放送

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  今週に入り円高が急速に進んでいる。3月5日に米国の雇用統計が発表された時、予想をはるかに下回る雇用者増加数の伸びにドルは急落したが、本邦当局は強烈なドル買い円売り介入を実施、ドルは112円台へ上昇して引けた。これにより、市場では115円程度までは円安が進むとの憶測が高まったものの、その後、積極的な介入は見られず、当局を頼んでドルを買っていた投資家は損失覚悟のドル売りを強いられるハメとなっている。18日の海外市場では一時106円台半ば前後までドル安が進んだものの、翌日の東京市場では本邦機関投資家によるドル買いが見られ、再び107円台に戻っている。クロス円もかなり値の荒い動きとなっており、ユーロ円は3月8日に139円をつけた後急落、18日には130円80銭までユーロ安円高が進んだ。

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  急速な円高が到来した理由のひとつは、当局が介入を控えたことにあると市場では見られている。上のグラフにあるように昨年1月以来、当局は積極的な円売り介入を続け、その累計額は2月までで約31兆円に達している。今月に入っても5日までは積極的な介入が観測されたのだが、その後ドルが失速するなか、これまでのような大規模介入が見られなかったことから、市場では今後は徐々に介入規模が縮小するとの思惑も出てきている。

  当局の真意は定かではないが、国内外でほぼ連日、これまでに例を見ない巨額介入についてコメントする記事が増えてきており、当局はあらたな介入手法を模索し始めた可能性はあろう。

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  また米国の日本の介入に対する見方もやや厳しくなってきているようだ。3月5日に日本が強烈なドル買い円売り介入を行った翌週の8日、スノー米財務長官は「通貨を切り下げて繁栄した国はいない」と述べており、グリーンスパン発言などとも併せると、米当局はこれ以上の積極介入には難色を示している、と解釈することもできる。日本の米財務省証券保有があまりにも増え過ぎることは、米国から見てもリスクが高くなることを勘案すると、以上のような発言も頷けよう。

  そのような米国の反応に配慮してか、谷垣財務大臣も11日は「必要に応じ適切に対処」とこれまでのマントラを繰り返していたが、16日・19日と上記のように徐々に発言内容に変化が見られ、ややトーンダウンしている。今後は“ふつうの介入”、すなわち節目節目でのスムージングオペレーションに戻っていくのかもしれない。

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  また需給的に見ても、いつまでも円を売りつづけるのは無理がありそうだ。経常収支は毎月コンスタントに1兆円以上の黒字を計上しているうえ、日本経済の急回復を見て海外投資家からの株式投資も相変わらず活発だ。上は東京証券取引所が毎週発表している投資部門別株式売買状況(金額ベース。東証一部対象)。2月は3週連続して2000億円前後の買い越しが観測されており、3月第1週は9324億円の買い越しとなっている。まだまだ外国人は日本株にアンダーウェイトしている、といった強気の見方もあり、日本で大規模テロでも起きない限り(?)、しばらく円安の風は吹かないのかもしれない。

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  112円台に乗せた勢いはどこへやら、今週は急速に円高が進む週となった。これまでの大規模介入が見られなくなったこと、市場が当局の介入方針に疑心暗鬼になり始めたこと、米国が引続き低金利を維持する見込みとなったこと、などが背景か。当局を頼んでドルを買い下がってきたトレーダーには苦しい展開となっており、目先ドル円は波乱含みの展開となろう。しかしドルが大きく値を戻すことは考えにくく、いずれ105円近辺での攻防戦が始まるのではなかろうか。クロス円動向も要注意。ユーロ円は急落の展開となったが、長期的に見ればユーロはまだ割高にあり、目先多少のリバウンドはあっても、再度ユーロ安円高が進むシナリオが残っている。為替に関しては、日本経済が堅調なのも悪(?)材料。規模は今後縮小しそうだが、当局の円高圧力との闘いはまだ続きそうだ。

  G-SECインデックス(市場アンケート)速報は53.8とやや円安を見込む参加者が優勢となったが、円高を予測する参加者も少なくなく、市場の見方は二分されている。